2度目の終わり
「貴様を、死罪とする。」
「.....」
死罪、その言葉が私の耳に届いたが、私は微動だにしなかった。普通、死罪を宣告されれば少なからず動揺を見せるだろう。だがその動揺すら見せないほど、私の心は壊れていたのかもしれない。記憶はなくとも、それか千影に告げられたことなら従おう。
「.....分かりました。」
「執行は3日後だ。せいぜい罪を悔いるがいい。」
罪を悔いろ、という言葉は私の耳にこそ届いたが、そこに意識を割く余裕はなかった。それよりも、建造物が砕かれる音の方が大きかった。セレネの言葉とほぼ同時、王城の壁が砕けた。そして、そこから何者かが現れた。
「何者だ!」
護衛がすぐさま駆けつける。セレネを囲み、護る。砂埃が晴れ、乱入者が姿を表す。黒のローブに仮面、男か女かの判別もできない。ただ、構えだけでその強さを感じさせる。
「貴様、セレネ様が狙いか───がぁッ!」
目で追えないスピードで護衛が死んだ。2人、3人と切り殺されていく。私は枷を外そうと手を引きちぎらんばかりに引っ張る。やがて、肉が削げる嫌な感覚とともに私は枷から脱出した。
「セレネ様!お下がりください!」
越えの怒号、叫び、悲鳴が飛び交う。乱入者は目にも止まらぬ速さで護衛を殺していく。状況が飲み込めないが、とにかく今は加勢しよう。どうせ逃げたところで意味はない。なら、千影を守る。
氷壁を展開し、乱入者の刃を受け止める。だが容易く破壊され、仕方なく私も刀を構えた。2振りの刀がぶつかり合う。その間にセレネは護衛に連れられて撤退を試みた。
しかし。
「.....お前に、興味はない。」
乱入者が私の体を弾き飛ばした。乱入者の声は耳障りだった。ノイズが走ったように、上手く聞き取れない。いや、そんなことはいい。今は───
「千影っ.....!!」
ザシュッ、という肉を切る音。手を伸ばしたが、もう遅かった。千影の抵抗も虚しく、千影は───セレネ・センテリアはもう倒れていた。
「ぁ.....」
彼女の血が広がる。乱入者は千影を斬った刀を握り、死体を眺めていた。私もまた、動けずにそれを見ていた。そして、処理しきれなかった情報が頭に流れ込む。また、失った。目の前で、何も出来ずに。
「あ...あああああっ!!」
絶叫がその場に落ちた。私の口から今まで出したことないと思えるほどの大声と、大粒の涙が零れた。また、ここからだ。目の前でまた失って、また終わり。一言も話せず、また掴み損ねた理想が宙ぶらりんのまま。
その現実を、私は受け入れられない。これまでの努力を、部外者たった一人の刀で切り刻まれたこの悲しさ、虚しさ、そして怒りを。私はぐちゃぐちゃの感情のまま、魔法を発動した。
「殺し.....て...やるっ...!」
気づけば乱入者に私は斬りかかっていた。分かりきっていたように乱入者は刀で返してくる。無謀だとはどこかで分かっている。それでも、私はやらなければならなかった。怒りのままに魔法も発動させる。狙っていない方向にも暴発し、氷が王城を支配していく。
「.....無様だな。だが、仕方あるまい。」
またノイズ。乱入者の声は私の怒りを膨らませる種だ。
「うる...っさい!」
ただ怒りのままに刀を振るい、ただ魔法を使い、魔力の大量消費も厭わない。切り合う音が王城に響く。護衛はもう誰もいない。愛しい人の死体の傍で、私は復讐に燃えていた。荒っぽく、剣筋も乱れきった私にいい加減付き合うのに飽きたのか、乱入者は外に出ていこうとする。
「待てっ...!!」
それが誘われていると、感情のまま動く私には理解できなかった。釣られて外に飛び出した途端、乱入者の蹴りが視界の端からとんできた。
「ぐ...っ!」
王城の裏、海に私は蹴飛ばされた。水面に上がると、乱入者が私を見下ろしていた。今、乱入者が刀を振るえば私は死んでいた。これは情けだ。私は、呆気なく仇に敗北したのだ。
「次は容赦しない。今の己を超えて見せろ。」
雨が体を叩き始めた。壊れかけの私の心に止めを刺すように。私は海面を漂いながら、涙を流し続けた。
「ひ...ぅっ...」
嗚咽が漏れ、涙を止められない。何も分からないまま千影の、セレネの命はまた奪われて。私の希望も、願いも全てそこで絶たれた。こんなことになるなら、第二世界なんかに期待せずに死ねばよかった。
陸に戻ろう、とは思わない。この海に、このまま浮かんでいたい。あるいは、もう沈みきってしまいたい。
夜の海、そして雨が私の体温を奪う。そのはずなのに。既に冷たく沈みきった私の心にとってその温度は。
不気味な程に、暖かく感じた。




