問答
千影だ。髪色や言葉遣いは違う。それでもこの顔は、絶対に千影だ。
「千影っ!!!」
駆け寄ろうとして、枷に阻まれる。ガシャン、と私の行手を阻む鎖の音が響いた。
「このっ...!!」
力任せに引っ張るが、魔力が込められていて破壊できない。私はただ目の前のセレネ───千影を見つめることしか出来ない。追い求めたものがそこにあるのに、もう少しで手が届きそうなのに。
「千影!ねえ、千影でしょ!?」
「チカゲ...とは、誰のことだ。貴様は、私のことを何か知っているのか?」
ああ、覚えていなかった。記憶があって欲しいと願い続け、それでも心のどこかで思ってしまった。千影に記憶があるなんて都合のいい展開はないと。それでも僅かな希望を信じ続けてきた私の願いは、今この瞬間、本人に真正面から打ち砕かれた。
「っ.....ああ.....」
嗚咽が漏れ、私はその場に蹲る。膝を抱え、ただ涙を止められない。周りの兵士も、突然声を張り上げた私に驚いているのか動かない。ただ、私の泣く声だけが響いている。
「それで、貴様はエリオット・アスターを殺した張本人で間違いないのか?」
「私.....は...」
私はなんのためにここに居るのだろう。せっかく再会できたのに、記憶はなく、私は犯罪者。敬愛する先生をこの手で殺して、たとえ記憶があっても千影は血に汚れたこの手を許してくれただろうか。私はその場に項垂れ、目の前の王を見上げた。
「.....はい。私が、この手で。」
「そうか。ならば理由を聞かせろ。もし私に同情できる部分があれば、減刑くらいは有り得るかもしれんぞ。」
「.....先生は...私の大切な人を殺した張本人だったんです。」
「.....何?彼が人殺しだと?もし嘘を言っているのならただでは済まさないぞ。」
「......本当です。先生が自ら、私にそう言ったんです。」
「.....にわかには信じがたい。貴様は嘘を付いていないように見えるが、彼が人を殺めたという事実はどうしても信じ難い。」
先生が殺したのは前世のあなたです、なんて言って信じる人間が何処にいるだろう。私はなんと話せばいいのだろうか。どの道人を殺しているのだ。どうせ私もそのうち死ぬ。もう、断罪を待とう。
「.....今の私では正確な判断は難しいだろう。貴様は牢に戻るがいい。エリオットの件は私が調査しておこう。」
そして、私は再び牢へと連れ戻された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「.....彼が人殺しをしていた、か。本当なら、私は殺人者と関係を築いていたことになるな。」
「セレネ様。私共も、調査に協力致します。」
「ああ。頼んだ。」
セレネは玉座に座りながら、アイリスの身上書を眺めていた。アイリス・ノア。ノア家の娘、センテリア学園の学生。目立った問題行動もなく、成績も優秀。シエラ・クローネにも勝利した。
「......彼女は、私に何が言いたかったんだ?」
「チカゲ」という名前が妙にセレネに引っかかった。何か、その名前を何度も呼ばれていたような。しかし心当たりがない。それなのに何故か気になる。名前をつけられない感情を押さえ込み、セレネは調査を始めた。
「アイリス・ノア...貴様は何を知っている?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2日後、アイリスは再びセレネの前へと連れ出された。調査が完了した、との事だ。
「こちらが尽くせる全力を持って調べたが、そのような事実は確認できなかった。」
当然だ。アイリスがしたのは第一世界の話。記憶がないセレネに調べられるはずも無い。
「殺人に我々を欺く虚偽の申告。貴様に同情の余地はない。」
「───貴様を、死罪とする。」




