セレネ・センテリア
アイリスがアスターを殺したという報告はすぐに学園を駆け巡った。当然、レオンやシエラの耳にも届いていた。
「.....何故、彼女が?」
「私にも分からないわ。何かの間違いなんじゃないかしら。」
「だが、現場からは彼女の魔力が観測されている...」
レオンとシエラは二人で話し合っていた。アイリスがあれほど信用していたアスターを殺すなんて考えられない。そこにグランツがやって来た。
「あの、本当なんすか。あいつが、先生を.....」
「それについて話していたところだ。信じ難いが、証拠がある以上どうにも...」
「.....何でだよ。」
それ以上、誰も話さなかった。今はこの時間が現実ではないように、3人は静かに表情を暗くした。
「彼女はこれから断罪されるだろう。王直々に。」
「...なんでだ?大量殺人をした訳でもないのに。」
「アスター先生は、王と関わりがあったんだ。」
「そんなこと、なんであなたが知っているのかしら?」
「先生に直接聞いたんだ。会ったことがあると。」
「そんな人を殺したのが本当にあの子なら.....彼女は確実に重い刑に処されてしまうわね。」
シエラの言葉に場が凍りついた。学園内で有数の実力者であるシエラを以てしても、おそらく意見は聞き入れて貰えないだろう。八方塞がりだった。3人はそのまま、次の報告を待つ他なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暗い牢の中、私はなんの気力もなく座り込んでいた。千影を殺した張本人とはいえ、優しくしてもらった恩人を殺した。先生だって後悔していた。それなのに私は、また感情の昂りに支配されて、怒りのままに人を殺した。初めて血に染ったその手は、もう昨日までの私は居ないようで。
たとえもう一度やり直せたとしても、きっと私はまた殺人に手を染めてしまうだろう。千影の為なら全てを厭わないと。
───ああ、そうか。私はもう壊れているんだ。千影以外の命に価値はない。心の底でそう思っているのかもしれない。自己嫌悪に陥っていると、看守がやって来た。
「アイリス・ノア、出ろ。」
「お前が殺したアスターさんは、セレネ様も信頼を置いていた。お前は今から、王直々に断罪される。」
「セレネ...」
セレネ・センテリア。人前に姿をあまり見せないこの国の王。それなのに崇拝されているのは、彼女が国民を大切にしているからだと言う。
私は王の前で跪くのを強要され、さらに頭を地面に押し付けられた。酷い扱いだ。まあ、人を殺したのだから当然だろう。王は玉座に座り、こちらを見ている。顔はよく見えないが立ち振る舞いは美しかった。
「.....表を上げるがいい。」
「しかし、セレネ様.....」
「よい、下がれ。」
私の頭を押し付けていた手が離れ、私は顔を上げる。王が玉座から立ち上がり、私の方へ近づく。光が差し込み、顔が良く見えるようになった。その瞬間、私の思考は停止した。
「.....え、なん....で...?」
私の口からは掠れた声しか漏れなかった。目の前の彼女を見て、私の視線はそのままセレネに釘付けだった。白髪、青い瞳。その2点は似ても似つかない。らそれでも、その顔は、その奥底にあるのは、どう見ても───
「.....ちか、げ.....?」




