告白
私は走り続けた。シエラさんが敗退したことで、森全体を覆い尽くして魔法道具の魔力を阻害していた魔力が無くなった。これなら大まかな位置をたどれる。私はその方向へと走り続ける。
「───悪いが、君に勝たせる気はない。」
前からガレスとシオンが現れた。ここにいるということは、レオンとグランツは負けてしまったのだろう。
「私だってあんた達を勝たせるつもりはない。私はやらなきゃ行けないから。」
彼らの言葉を待たず、私は水で加速した。シエラさんには見せた水魔法の真似事を、まだ彼らは知らない。
「何───!?」
予想通り、彼らは初めて見た私の魔法に気を取られて止められなかった。私は噴射を続け、一気に魔法道具に向かって突き進む。そして、目的の物が見えた。
「見つけた.....!」
後ろを見る。2人は影を執拗に飛ばしてくる。少しでも気を抜いたら影に飲まれてしまいそうだった。私は魔力の枯渇を感じながらも、ただひたすらに前に進み続けた。
そして。
「───勝者、Aチーム!」
私はそのまま魔法道具へと突っ込んだ。手に掴み、そのまま大きく前へ倒れる。地面を転がり、それでも掴んで離さなかった。
そうして、王都総合演習は私達の勝利に終わった。私はふらふらと立ち上がり、そのままチームメイトの元へと戻った。
2人は医務室にいた。私は一旦表彰を後回しにしてもらい、2人を探した。手に魔法道具を持った私が入っていったのを見ると、2人はすぐにこちらへ寄ってきた。
「勝ったのか。流石だな。」
「僕たちの分まで頑張ってくれたようだね。君に感謝しよう。」
私はそのまま彼らと椅子に座った。そして、表彰式に出られるか聞くと、彼らは二つ返事で了承した。
「君がこんなに汚れるまで頑張ってくれたんだ、僕たちはそれに答えなければならない。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「総合演習優勝、レオン・グレイス、エイル・グランツ、アイリス・ノア!」
王族の方から拍手が起こる。最も貢献したとして、2人は私を代表にしてくれた。私はそのまま表彰状を受け取る。
「王が認めれば、あなたは謁見の機会を与えられます。連絡しますので、そのつもりでお願いします。」
「はい。ありがとうございます。」
これでようやく、王城に入れる。しかし、そこから書庫へ行けるかは別問題だ。まあ、今はこの勝利を祝ってもいいだろう。
一通りチームで祝い終え、私達は帰路に着いた。その時だった。
「優勝おめでとう。アイリス君、ちょっといいかい?」
アスター先生だった。私は2人に軽く手を振ると、そちらへ行った。先生は無言で歩き出す。私はそれに着いて行った。やがて人気のない学園の裏側、そこのベンチに先生は腰掛けた。続いて私も座る。
「...どうしたんですか。顔、暗いですよ。」
「.....君には、話しておこうかと思ってね。」
先生の顔は見たことないほど暗かった。私はどんな話が飛んでくるのかと緊張した。しかし、先生の口から放たれた言葉は私の想像を遥かに上回るものだった。
「.....君は、私に前世の記憶があると言ったら信じるかい?」
私は驚愕に目を見開いた。息が詰まる。先生にも、前世の記憶がある?
「.....それは、第一世界の話ですか?」
「何故、君がそれを...!?まさか、君にも...」
「.....ええ、私にもです。私も覚えています。」
先生は私と同じように驚いていた。当然だろう。自分に前世の記憶があると話した相手が、同じ境遇に居たのだから。
「なんということだ.....でも、これなら話しやすいかもしれない。」
「それで、先生の話はなんですか?」
先生は俯いた。悩むような、苦しそうな顔を浮かべていた。
「.....私は、罪を犯したんだ。」
「罪?先生のような人がですか?」
「.....ああ。私はね、前世で人を轢いて殺したんだ。」
「.....え?」
音が止まった。今、先生が言ったことが信じられなかった。人を、轢いた?呼吸が浅くなる。そんな訳ない、と自分に言い聞かせても不安が増す。事故なんてありふれたこと。まさか、的確に1つを当てるなんて───
「私が弾いたのは、高校生くらいの女の子だった。隣にもう一人、女の子が居たんだ。その子は無事だったんだが、酷く泣き叫んでいた。」
「.......轢いた人の、名前は?」
「名前、かい?名前は確か...白石...」
そこまで聞いて、私は耳を塞ぎたくなった。せり上がってくるものを感じて、私はベンチから滑り落ちて、その場で口を抑えた。
「げほっ...おぇっ...」
「どうした!?大丈夫かい!?すまない、何か君の気に障ることを...」
なんでだろう。なんで、なんでこんなにも運命は私を絶望させるのだろう。心の底で、ずっと憎んでた。あの日千影を跳ね飛ばしたあの運転手を。轢いた後に電柱に突っ込み、その後遺症ですぐに死んだとは聞いていた。それなのに、なんでこの人が───
「...なんで、ですか。」
「え?」
「なんで、なんであなたなんですか!!私が信用してきたあなたが!どうして、どうして.....っ!!」
私は涙を止められなかった。ただひたすらに、前のこの人を怒鳴り続ける。脳が事実を受け入れるのを拒否して私はただ叫ぶ。
「私の、私の...!千影を...!」
「待ってくれ、まさか君はあの時の───」
「.....返して...千影を...」
私はその場にへたりこむ。頭の中はぐるぐると意味不明なことが回っているようで正常に働かない。そして、私は気づけば刀を手に持っていた。そして、体が勝手に立ち上がる。先生はそんな私を見て、その場に立ち尽くしていた。
先生はやがて、私の刃を自身の胸元に当てた。私に判断を委ねるように。
「.....君が許せないなら、それでいい。」
「...うああぁぁぁぁぁっ!」
肉を貫く、嫌な音が響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、学園中をある1報が駆け巡った。
学園の教師、エリオット・アスターが学園裏で死亡しているのが発見された。そして、その場の痕跡などから、反逆者としてアイリス・ノアが身柄を拘束された───




