仕切り直し
「ここからは私の番。」
その言葉を聞いている暇などなかった。私はその場に浮き上がり、いくら体を捻ろうとそれは私の体ではなくなってしまったかのようにその場で身を捩るだけだ。
「さあ、これを超えてみて頂戴。」
シエラさんが私を攻める。顔、腹、足───あらゆる場所を殴り、蹴られる。無重力状態の私はただその攻撃を受けるしかない。氷を出そうにも、彼女の攻撃の頻度が高くて発動の隙がない。視界が明滅する。また、負けるのか。前回より強くなったと言われても、たかが新しい技を1つ作り出した程度。嫌だ、負けたくない。それなのに、私の体は言うことを聞かない。そんなことを考えている間も彼女の攻撃は止まない。抵抗も出来ない。ただひたすらに、痛い───
「あら、時間切れね。」
私は地面に投げ出された。受け身も取れず地面を転がり、木にぶつかった。肺の中の空気が押し出され、激しく咳き込んだ。ぼやけた視界の中で、シエラさんがこっちへ向かってくる。私は浅い息を絞り出すことしか出来ない。
「前より強くなったみたいだけど...そんなんじゃ、まだ届かないわよ。」
シエラさんが片足を引いた。それを見て、私は目を瞑った。蹴られる。無防備な腹部、きっと私の意識は飛ぶ。防ごうにも体は動かない。私はただ、これから襲うであろう痛みに覚悟することしか出来なかった。
けれど───
「───らぁッ!」
その足が私に痛みをもたらす前に、シエラさんに誰かが殴りかかった。彼はシエラさんを遠ざけると、私の方へ走ってきた。
「おい、大丈夫か?」
「......グランツ、君...」
「あいつは無理だ、逃げるぞ!」
エイル・グランツ君がそこに居た。私は彼に背負われ、その場を退いた。私がぼんやりと振り返ると、シエラさんは追いかけて来ず、残念そうな顔をしていた。
ひとしきり離れると、彼は私を木の根元にもたれかからせてくれた。
「大丈夫か。動くなよ。.....治癒」
体の痛みが引く。全てとは行かないが、かなり動きやすくなった。私は木の幹に手をついて立ち上がる。
「悪い、全部は無理だった。」
「大丈夫、よくなった。ありがとう。」
「気にすんな、チームだしな。」
そこからは私と彼で行動を共にすることにした。彼の話によると、魔法道具は見つからなかったそうだ。シエラさんの魔力による妨害もあったが、それ以上に範囲が広いらしい。レオンの居場所も掴めないそうだ。
「...かなり面倒だね。レオンと連絡が取れないと状況も分かりないし...」
「ああ。審判が何も言わないからまだやられちゃいねえんだろうけど、あの2人の強さも測りかねるからな。」
「それに、シエラさんがまた動くかも...」
「それが一番面倒だな。最悪なのは俺ら二人で立ち向かって2人ともやられるってオチだ。」
「.....もしシエラさんが来たら、私がやってもいい?」
気づけば口にしていた。グランツ君は拍子抜け、と言った顔をしていた。当然だ。さっきまで散々ボコボコにされた相手に、また1人で挑もうとしているのだから。無謀にも程がある。
「...あんたって、馬鹿なのか?」
「違う。私は彼女を超えなきゃ行けないの。...それに、確定とは言えないけど勝機も少し見えるし...」
「それを信じてもいいんだな。もちろん、それは戦闘を余儀なくされた時だけだぞ。」
「分かってる。魔法道具さえ取れればいいんだから。」
「よし、まずはレオンさんと合流するぞ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同刻。レオンとラウル兄弟の戦闘は苛烈を極めた。お互いの魔法、そして拳がぶつかり合う。ラウルの兄弟の魔法は「影」。 影を纏うことによる攻撃の吸収、影による視界不良。さらにそれらが兄弟で同時に使用されることで強度を引き上げている。レオンはそれらを掻い潜り、同時に魔法による賭博に2人を引き込む必要があった。
「第3ゲームだ。僕は全魔力の半分を賭ける。さあ、君達は何を賭ける?」
シオン・ラウルは兄に判断を委ねた。兄、ガレス・ラウルは迷わず言い放った。
「全魔力だ。」
「なんだと...!?」
レオンがその言葉に驚愕している間に、シオンがレオンの背後を取っていた。
「ッ、しまった───」
賭博の勝利によって強化された一撃。レオンは何とか受け止めるも、このままでは敗北が目に見えていた。
「レオンさん!」
その時、アイリスとグランツがレオンの前に立ち塞がった。アイリスの氷が壁を作り、一時的にガレスとシオンを止めた。
「レオンさん、大丈夫ですか?」
「君か。君達が戻ってきたということは、まだ魔法道具は見つかっていないんだね。」
「...はい。」
「ならまず、あの二人を倒さないと───」
「2人じゃないわ、3人よ。」
頭上から声が降ってきた。全員が見上げると、そこにはシエラがいた。シエラは着地すると、アイリスの氷を壊した。
「これで全員揃ったわね。仕切り直しよ。」
「グランツ、レオンさん。私がシエラさんと戦ってもいいかな。」
「.....あまり盲目になり過ぎない方がいい。だが、ここは君の判断を信じようかな。」
「俺もだ。」
「ありがとう。」
レオンとグランツはラウル兄弟の方へ、アイリスはシエラの方へと視線を向ける。シエラは再び立ち向かってくるアイリスを見て、深い笑みを浮かべた。
「また負かされに来たのかしら。」
「.....もう、負けない。2回も負けた。それでも私は諦めるつもりはない。」
「今度こそ、あんたを打ち負かす。」




