第9話 違和感
―― 数分前 ――
【セイクリッド学院の学長室にて】
「ストライト様、変な魔力を感じましたか?」
グリムが静かに尋ねた。
「ヴァリアンの森方面から……今まで感じたことのない炎魔法の気配がしました。魔物討伐の予定はありましたか?」
「いえ、確認されていません。」
「聖騎士を5人ほど連れて確認しに行きましょう。」
―――
森の中は静寂だった。
やがて開けた場所に出た瞬間、聖騎士たちの動きが止まった。
2人の学院生が倒れていた。体を何かに貫かれたまま、息絶えている。
「学院の制服……!」
「調べます。」
ストライトは2人の体に手をかざした。
「『魔法洞察(マジックアナライズ』」
「炎の矢……炎魔法によって殺されています。」
「魔物は名前のある魔法を使えない。つまりこれは——人間か魔族によるもの。」
聖騎士たちが顔を見合わせる中、ストライトだけは別のことを考えていた。
(学院にいた時に感じたあの魔力……一体何者だ。)
「この森の調査と近隣への聞き込みをお願いします。私はこの2人の身元を確認して、親御さんに会いに行きます。」
ストライトは沈んだ表情のまま、2人の顔を静かに見つめた。
◆◇
翌朝、学院は騒然としていた。
「マルコ・グリムウェルが行方不明で、手下の2人が何者かに殺されてたって……」
「あの森、最近は魔物の出現も少なかったのに……。」
「魔族が出たんじゃないか?」
生徒たちはその話で持ちきりだった。
―――
その頃セオンは、学院の門の前で静かに風を感じていた。
「……気持ちいいな。」
入学してから初めてだ。こんなにリラックスできているのは。
昨日はいろいろあったが——お母さんからの手紙も読めた。
セオンへ
『手紙ありがとう。無事に入学できたみたいで本当に良かった。クラスのみんなとすぐ仲良くなれたなんて、さすがセオンね。大変なこともあると思うけど、無理はしないで。またセオンの笑顔を見せてね。』
母より
ありがとう、お母さん。
また——本当の笑顔を見せに帰るよ。
俺は絶対的な自信を持って、学院へ足を踏み入れた。
大丈夫だ。【魔法が使えない】俺が疑われることはない。
―――
「来たぞ……。」
教室に入ると、生徒たちが不気味そうにこちらを見た。
(傍観していただけの、加害者。)
やり返したい気持ちはある。
でもそれで台無しになれば元も子もない。
席に座ると周りは静まり返った。マルコがいなくなっても、誰も声をかけてこない。誰も隣に座ろうとしない。
まあ、いつものことか。
「ねぇ、隣いいかな?セオン君。」
振り向くと、白みがかった髪の男子が立っていた。
「エリック・フロストフォード。セオン君に謝りたくて。」
「なぜ、マルコたちがいなくなった今になって。」
「だって、セオン君と話したら殴られるって聞いてたから!」
「正直なんだな。」
俺は静かに言った。
「許さない。」
「なんで?」
「俺はこのクラス全員に裏切られたんだ。体の傷は治せても、心の傷は治らない。」
エリックは静かに頷いた。
「……確かにそうだね。僕はただ許してもらって、責任を逃れようとしてただけかもしれない。」
(最初からそのつもりだったくせに。まぁもういいけど…)
•••
「ところでセオン君。」
エリックが少し首を傾けた。
「なんで一人称、『俺』になってるのかな……」




