第10話 疑いの影
「なんで一人称が『俺』になってるのかな」
エリックが静かに聞いてきた。
「入学したばかりで緊張してたから『僕』にしてただけだ。慣れてきたから戻した」
「……本当に?」
冷や汗が出た。
記憶が戻ってから一人称が変わったこと、全く気にしていなかった。たった一人称の変化だけで、ここまで看破されるのか。
「昨日まで目にあった光が、今日のセオン君にはない気がして」
エリックはそう言いながら、静かにこちらの目を見てきた。
(こいつ、なんて観察力だ。)
「守りたいものがある限り、俺の希望は消えない」
エリックは一瞬だけ目を見開いた。
「……ははっ。僕の勘違いだったみたいだ」
「そうか、ならそれでいい」
「これからよろしく、セオン君」
手を差し出してきた。
(傍観者だったくせに。)
頭をよぎったが——握った。
――――――――
「エリック、何してるの」
ソフィアが近づいてきた。
「セオン・クレスト」
真剣な、どこか悲しげな表情だった。
「許してもらおうとは思っていない。言い訳もしない。ただ——聖騎士を目指す者として、君を守れなかったこと、本当にすまなかった」
ソフィアは深く頭を下げた。
「仕方ない。ソフィアさんが助けようとしたら、君も標的になってた」
「……不甲斐ない」
「気にしないでくれ。これからよろしく」
手を出すと、ソフィアは少し戸惑った後、握手して微笑んだ。
「呼び捨てでいいわよ、ソフィアって」
「わかった」
「ねぇセオン君!」
エリックが割り込んできた。
「僕の時は怒って、ソフィアの時は仕方ないって——おかしくない?」
「誠意が感じられなかったから」
「なんでよ……」
「エリックは考えすぎなのよ」
ソフィアが言った。
「ハハッ……」
なんだろう、この感じ。
村にいた頃を思い出す。みんなが笑って話しているのを近くで見て、つい自分まで笑顔になってしまうあの感じ。
村以外でも、楽しいと思えるなんて——。
三人を殺した次の日だというのに。
そのことに、自分でも少し戸惑った。
◆◇
「おい、あいつら、よくあんなやつと話せるよな……」
「マルコが帰ってきたら標的よ、あの2人も」
他の生徒たちが俺たちを見ながら話していた。
マルコはもう帰ってこない。
でもそれを言えば、俺がやったとバレる。
エリックとソフィアが俺のせいで孤立するかもしれない。
俺なんかと一緒にいたら——
「セオン、大丈夫か?」
ソフィアの声に、頭の中が静かになった。
「そんなこと、帰ってきてから考えればいい」
エリックが言った。
「そうね。やっとセオンと話せたんだから、もう見て見ぬふりなんてできないわ」
胸に、静かに沁みた。
嬉しかった。
これからもこの2人と一緒にいたいと、そう思った。
――――――――
「“セオン・クレストッ”……!!」
教室の扉が開いた。ハレス先生だった。顔が青ざめている。
「話している暇はない……!!」
「ストライト・ウィリアム様が——お呼びだ……!!」




