第11話 一瞬の賭け
(バレたはずはない。なら、なぜ呼び出される……)
そんなことを考えながら、俺はハレス先生の後をついていった。
「俺はここまでだ……くれぐれも失礼のないようにな」
ハレス先生がこんなに緊張しているのは初めて見た。
嫌な予感がする。
俺は表情を整え、学長室の扉を開けた。
――――――――
奥の席にはストライトが座っていた。
対面のソファには、苛立った様子のヘンリー校長と、その隣ににこにこしているおじさんとおばさんがいる。
(多いな……)
率直な感想はそれだった。
だが——
奥からこちらを見ているストライトの視線が、妙に引っかかった。その視線が、胸の奥に焦りを呼び起こす。
「はじめまして、セオン・クレスト」
ストライトが穏やかに言った。
「改めて、私はストライト・ウィリアムだ。こちらはヘンリー校長、魔法研究のアレク先生、そして癒しの部屋のロザリナ先生だ」
「……あの、俺をここに呼んだ理由は?」
戸惑いながら聞く。
するとストライトが、少し申し訳なさそうに言った。
「セオン君。君はマルコ君たちにいじめられていたそうだね。それに気づけなかったこと、学長として本当に申し訳なく思っている。だが——」
声が少し低くなる。
「君をいじめていた3人のうち、2人が何者かに殺され、1人が行方不明だ」
「は、はい……知っています」
「その日、俺はいつも通り殴られて……寮に引きこもっていました」
するとストライトが静かに言った。
「マルコ君は、もう死んでいるんだ」
「え……」
思わず声が出た。
(なぜわかった……!?)
アレク先生が資料を見ながら言った。
「死体があった場所を詳しく調べたところ、灰の中からマルコ君と思われる細胞が見つかりました。さらに灰を分析したところ、興味深い結果が出ています」
一拍置いて、続ける。
「通常の炎魔法では、人間をここまで完全に燃焼させることはできません。つまりこれは、通常の炎とは性質が違う、特殊な炎魔法によるものです」
(そこまで気づいてるのか…)
「そうだったんですね……」
俺は驚いたふりをした。
「一体どんな魔族が……」
するとストライトが、わずかに目を細めた。
「魔族?いや——私は人間の仕業だと思っている」
「な、なんでですか……?」
ストライトは穏やかに笑った。
「勘だよ」
理由がないなら、俺だと決めつけることはできない。
「亡くなった3人の親御さんにはすでに伝えた。マルコ君の父親が、君と話したいと言っていてね。機会があれば、話を聞いてあげてほしい」
「……はい」
「だが、その前に」
ストライトの声が少し変わった。
「確認しておきたいことがある」
嫌な汗が背中を流れる。
「君——何か隠していないか?」
心臓が跳ねた。
「え……?」
するとヘンリー校長が机を叩いた。
「お前がやったんだろ!!森に魔族なんて出ない!お前しか考えられん!寮にいた証拠もない!クラスの奴がお前が連れて行かれるのを見ている!!」
(……確かに状況は最悪だ)
だが、それだけで断定はできないはずだ。
「まあまあ」
ロザリナ先生が穏やかに言った。
「決めつけるのは良くありませんわ」
「はぁ……」
ヘンリー校長はため息をつくと、立ち上がって俺の前に来た。
「逃げるなよ。今から『鑑定』する」
(!?)
背筋が凍る。
(鑑定スキル……!!まずい……『魔法奪取』は見えるのか……!?)
もしバレたら、この場にいる全員を——
右手に、無意識に力がこもる。
それが生き残る唯一の方法かもしれない。そう思った瞬間——
「スキル——『鑑定』!!」
室内の空気が張り詰めた。全員がこちらを見ている。ストライトだけは椅子に座ったまま、静かに観察していた。
「お、お前……!!」
ヘンリー校長が目を見開いた。
「お前……魔法をひとつも持っていないじゃないか!!」
「え……?」
「本当かい?」ロザリナ先生が聞いた。
「ああ、間違いない」
ストライトが小さく笑った。
「ハハッ、すまないセオン君、魔力量が多いから、てっきり君かと疑ってしまった。まさか魔法が使えないとは……驚いたよ」
(……助かったのか?)
だが、油断はできない。
「当たり前ですよ。魔法が使えない俺が、あの二人を殺せるわけないじゃないですか」
ロザリナ先生が立ち上がった。
「その言葉に嘘は感じませんね。セオン君、体の傷を治して差し上げます」
淡い光が広がる。痛みが、ゆっくりと消えていく。
(助かった……)
ふと、あることに気づいた。
(待てよ……ヘンリー校長はスキル持ちだから魔力が強い。なら俺は——)
胸が高鳴る。
(何かが変わっているかもしれない。)
早く試したい。
そんな俺を——
部屋の奥から、ストライトは静かな眼差しで見つめていた。まるで、何かを見極めるかのように。




