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記憶の回帰〜Oath of Karma〜  作者: 儚威
第1章 セイクリッド学院編
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第8話 呪い

 前世で、楽しい思い出はひとつもなかった。


 12歳のとき、父と弟が交通事故で亡くなった。

 母は病気になり、入院生活に入った。

 戸惑いながらも、俺には母がいた。元気を取り戻してほしくて、毎日お見舞いに行き、明るい話をした。


 入院から一年が経った頃、いつものように見舞いに行くと、母のベッドの周りに医者と看護師が集まっていた。


 誰も、俺の方を見なかった。


 母の手を握った。まだ、少しだけ温かかった。


「お母さん」


 呼んでも、目は開かなかった。


 その日から、俺の笑顔は消えた。


 中学では「死んだ顔」「死んだ魚の目」と噂され、悪口を言われ続けた。

 俺は叔母に引き取られた。

 叔母はお腹に赤ちゃんがいたのに、俺にとても優しくしてくれた。

 叔父も文句を言わず、一緒に過ごしてくれた。

 心が壊れていた俺にとって、唯一の癒しの場所だった。


 でも——そこも壊れた。


 その日、俺は学校にいた。

 放課後、家に向かうと——見慣れた街並みの中に、黒く焼け焦げた建物の残骸があった。

 消防車がまだ止まっていた。

 足が止まった。


 隣の家からもらい火が広がったのだという。

 叔母は家にいた。お腹の子も、一緒に。

 逃げようとした形跡はあった。しかし、間に合わなかった。


 俺は焼け跡を見つめながら、何も感じられなかった。

 泣けなかった。

 ただ——また、か。

 また、俺のそばにいた人が消えた。また、俺だけが残された。


 しばらくして、仕事先から連絡を受けた叔父が駆けつけた。

 焼け跡を見た瞬間、叔父は声を上げることもなく、その場に膝をついた。

 肩が震えていた。誰も、何も言えなかった。


 それから数日後。

 叔父は家で泣き崩れていた。

 幸せの絶頂から、どん底に叩き落とされた絶望は、誰かのせいにしないと冷静でいられないほどだったのだろう。


「俺のせいだよ……叔父さん……」


 そう言うと、叔父は俺の首を絞めた。


「お前のせいだ……! お前が呪われているから……! 妻を返せ……! お腹の子を返せ……! 俺の幸せを返せーーー!!!!」


 俺は抵抗しなかった。

 本当に呪われているのか、正直わからない。

 でも——もう、この世界で生きる意味を見出せなかった。


 俺を殺すことで、少しでも気持ちが晴れるなら。

 それが最善だと感じた。


 ―――――――――――――――――――


 そして、俺はこの世界に転生した。


 前世の記憶——というやつだろう。マルコたちのおかげで、思い出せた。


 正直、まだ実感が伴わない。二十数年分の記憶と、たった十六年のこの人生が、頭の中でうまく馴染まない。


 それでも、一つだけはっきりしていることがある。


 もう、前世みたいな人生は送らない。


 きっと神様がくれた新たなチャンスなんだ。


 感謝するよ……。


 ◆◇


「そ、そんな……あのマルコさんが……」


 手下の2人が、灰を見つめながら震えていた。


「どうした」


「こ、殺さないでください……!!」


「今まで本当に申し訳ありませんでした……! 許してください……!!」


 俺はしばらく、その様子を黙って見ていた。


(いじめた者は忘れても、いじめられた者は一生覚えている。)


 前世でも、そうだった。俺をいじめてきた奴らに復讐したいと思っていた。でも結局、やる勇気も力もなかった。


 相手は違うが——


 この世界なら、できる。


「このことを誰にも言わないか?」


「は、はい……言いません……!!」


「わかった。じゃあ立って、体を寄せ合え」


「え……わ、わかりました」


 2人は言われた通りに立ち上がり、体を寄せ合った。


 ——このまま、見逃すという選択肢もある。


 頭のどこかで、そう思った。


 でも、指先はもう魔法を組み立て始めていた。


 見逃せば、いつか自分の弱みになる。それだけの理由で、もう答えは決まっていた。


 ──────────────────────

【スキル:魔法奪取(マジックスティール)】

 ■奪取(スティール)リスト

 ・悪魔の炎(デビルファイア)

 ・炎の矢(フレイムスピア)


 ■使用:炎の矢(フレイムスピア)

 ──────────────────────


「この位置だな……」


 別の魔法を試してみるか。


 そう思っている自分に、少しだけ寒気がした。


「『炎の矢(フレイムスピア)』」


 2人に向けて放った。


 ルキエが咄嗟に『水の盾(ウォーターシールド)』を使おうとした。


 しかし、間に合わなかった。


 マルコが使っていたものより、はるかに強く、速かった。


 魔法は2人の体を貫いた。


「がっ……ガハッ……!」


 2人は倒れ、血を吐きながら息絶えた。


 ──────────────────────

 ◇奪取(スティール)◇

 ◆癒し(ヒール)

 ◆水の盾(ウォーターシールド)

 ──────────────────────


「癒し(ヒール)か……助かった」


 ■使用:癒し(ヒール)


 マルコたちから受けた傷が、みるみる塞がっていく。魔力量の多さが、回復速度を上げていた。


 灰になったマルコ、体を貫かれた手下の2人。


 俺はその光景を静かに見つめた。


「さて、どうするかな……」


 隠蔽する必要がある。


 この3人が消えた理由を、誰にも悟られないように——。



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