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記憶の回帰〜Oath of Karma〜  作者: 儚威
第1章 セイクリッド学院編
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第6話 意思

「マルコさん、あいつ、まだどれくらい耐えると思いますか?」

 ルキエがマルコに聞いた。


「知らねえよ。どうせいずれ限界が来る」


「そうっすね!じゃあ今日も例の酒場——」


「悪いな。今日は久しぶりに家族で食事なんだ」


 マルコは珍しく、柔らかい表情で言った。

「そうですか!楽しんできてください!」

「ああ。話したいことがたくさんあるからな」

 その声は、いつものマルコとは少し違った。


 ――――――――

「ただいま」


 家に入ると、母と父が出迎えた。

「おかえりなさい、マルコ」

「おかえり。久しぶりだな」


「父さん……!忙しいのはわかるけど、帰ってこなさすぎだよ……!」


「悪いな。俺が作る魔導具じゃないとダメって奴がいてな」


 マルコは少し不満そうにしながらも、納得した。

 豪華な料理がテーブルに並んだ。

「やっぱり母さんの料理は美味しい!」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。普段は全然そんなこと言ってくれないのに」

「うるさいな……!」


 マルコは照れながらそう言った。

「ははっ。仕事も落ち着いてきたから、これからは毎日帰れると思う」

「本当?!じゃあ稽古もつけてよ」


「仕方ないな、わかった」

 父は笑いながらそう言って、少し間を置いた。


「マルコは最近どうだ?友達はできたか?」

 その質問に、少しだけ間が空いた。

「友達じゃないけど……面白いやつがいてさ」


「どんな奴だ?」

「自由民で、魔法も一切使えないほんとダメなやつなんだよ。父さん、試験担当だったよね?なんであんなやつ合格させたんだよ。自由民の入学はダメって言ったじゃないか」


 父の表情が、わずかに曇った。


「マルコ、なぜそこまで自由民を嫌うんだ」

「だって、セイクリッド学院はヴァルシア王国を守る聖騎士になるための場所で——」


「昔、自由民が聖騎士になったこともある」


 父の言葉がマルコを遮った。


「……それが唯一の”失態”だよ」

 マルコは静かに言った。

「その人は護衛任務で魔族に遭遇して殺された。みっともない」

「俺はそうは思わない」

 父は真っすぐにマルコを見た。

「その自由民は最後まで諦めず戦って、護衛相手を守り続けた。そんな生き方が、俺は好きだ」


(父さん、何を言ってるんだ……。)


「マルコ、お前に言うか迷ったが……言おうと思う」


「その自由民を合格にしたのは、俺だ」


「……は?」


「不合格になりそうだったところを、俺が推薦して合格にした」


(なにをしてるんだよ……父さん……。)


「彼は魔法が使えないが、魔力量は多い。実技試験ではそれをカバーするために緻密な作戦を立てて挑んでいた。失敗したが、最後までボロボロになりながらも戦い続けた」


(久しぶりの家族の食事なのに。なんで父さんはあいつの話をするんだ。なんで俺を褒めてくれないんだ。俺の方が魔法も使えて強い。なんで……。)


「そんな彼に俺は惹かれた。まるで昔の自分を見ているようで——」


「やめろ……!!」


 マルコは思わず声を荒げた。

 父と母が驚いた顔でこちらを見る。


「……やめてよ、父さん。もう、この話はやめよう」


 マルコは静かに、そう言った。

「そ、そうだな……すまない」


 母が席を立ち、酒を取りに行く。

 マルコは下を向いたまま、動かなかった。


(許さない……。父さんをおかしくさせたあいつを、俺は絶対に許さない……。)


 ――――――――

 翌朝。


「マルコさん、おはようございます!昨日の食事はどうでした?」

 ルキエが話しかけてきた。

「……良かったよ」


 いつもと違う雰囲気に、手下の2人は戸惑った。

「どうかしましたか?」


「黙れ……。俺に話しかけるな」


「は、はい……」

 しばらく沈黙が続いた後、マルコは静かに言った。


「放課後、あいつを連れてヴァリアンの森に行くぞ」

「え、いつもの路地裏じゃなくて……?あそこ、魔物が出るって話ですよ?」


「黙って従え」

 2人は顔を見合わせながらも、頷いた。


 ――――――――

 その日、僕はいつも通り過ごしていた。


 不思議なことに、マルコたちが暴力をしてこなかった。

 いつもと違う。何かある。


 でも——もう、決めた。

 今日、学院をやめると言う。


 ―放課後―


「おい、ついてこい」


 門を出ようとしたところで、ルキエに止められた。いつもと違う場所で止められたことに違和感を覚えながら、2人に連れられてヴァリアンの森へ向かった。

 人気がない。

 しばらく歩くと、開けた場所に出た。

 そこにマルコが座っていた。


「来たか……」


「……何をするつもりだ」


「怖がるなよ。ただ、少し話がしたかっただけだ」


 明るめな声だった。

 でも、マルコの目に光は一切なかった。


 嫌な予感がする。


「ぼ、僕……学院を——」


「認めてやるよ。俺の負けだ」


 退学と言いかけた言葉が、止まった。


「よく逃げずに耐えたな、セオン・クレスト。お前は……しぶとかった」


 マルコの声には重さがあった。


「希望に満ちたお前を見るのが辛かった。俺はグリムウェル家の跡継ぎでしかないから……そんな自分を否定したかったんだ」


 気づいたら、口から言葉が出ていた。


「……許すよ」

「毎日、辛かった。楽しいと思えた時なんて一度もなかった。全部お前たちのせいだ」


「でも……許すよ。全部なかったことにして、やり直そう、マルコ」


 マルコはしばらく、驚いた顔でこちらを見ていた。

 一瞬、迷うような表情が過ぎった。父の顔が、頭のどこかをよぎったのかもしれない。

 だが、それも一瞬だった。


「フン……はっはは」

「ほんと、お人好しだなお前は」

「別に許してもらわなくていい。俺はお前を許さねえから」

「退学するしないなんて、もうどうでもいい。父さんをおかしくさせたお前を——この世から消す」

 手下の2人がざわついた。


「マルコさん、消すって……」

「そのままの意味だ。抑えろ」

「わ、わかりました……!」


 僕は逃げなかった。

 逃げる気力も、もうなかった。

 マルコの拳が何度も振り下ろされる。


「俺の気持ちがわかるか、セオン!!」

「親に期待されず、誰も俺自身を見てくれない……!!」


(こいつは、おかしい。)

 ただ、そう思った。


「セオン……なんでお前なんだ。なんで俺じゃなくて、お前なんだ……!元の父さんに戻してくれよ……!」


 そう言いながら、マルコは僕の指を握った。


「ああああ——!!!!」


 指が折れる。


「なんだ、まだ慣れてなかったのか。何回も折ってるのに」

「1本ずついくぞ」

 指を折られるたびに、叫んだ。意識が遠のいていく。

「ヒールした方がいいですか?」レウシが聞いた。

「いらない。どうせ消すんだ」


 手下2人の顔が青ざめた。


「……まだ意識あるか?」

 涙をこぼしながら、顔を上げた。


 マルコが顔を近づけてきた。


「この森、知ってるか?数年前まで魔物の巣窟だったんだ。魔物はいくら倒しても、どこからともなく現れる……」


 予感は、最初からあった。


「セオン、お前を殺す。そして——魔物に殺されたことにする」


(……そうか。)

 僕みたいなやつが魔物に殺されたって、誰も疑わない。

 ほんと、クソみたいな話だ。


 弱いから馬鹿にされ、弱いからいじめられ、弱いから、誰も守れない。


(お母さん……村のみんな……ごめん。結局、何も変えられなかった。)


(そういえば、今日お母さんの手紙が届く日だったな。最後に読みたかった。)


「最後は楽にしてやるよ」

 マルコが距離を置いて、手を前に出した。


「お前ら、離れてろ。火傷するぞ」


 2人が即座に下がる。

「じゃあな……『炎の矢(フレイムスピア)』……!!」

 炎が、矢の形をとって迫ってくる。

 諦めかけていた。

 でも——


 悔しかった。悔しくて、悔しくて。


 お母さんの笑顔を、まだ見ていない。


 村のみんなを、まだ守れていない。



(許さないよ……俺も、お前を許さない……)



 炎が当たるまで、約一秒。


「殺してやる……!!!!!」


 その言葉が口から出た瞬間——


 頭の中で、何かが弾けた。


 知らない光景が、次々と流れ込んでくる。誰かの声。誰かを失った時の、あの感覚。10数年分の人生が、一気に押し寄せてくる。


「っ……!!????!!」


 0.8秒で、全てを思い出す。整理する。


 目の前には炎。当たる、寸前。


 俺は右手を前に出し——炎の矢を、受けた。


 熱くない。なぜか、そう思った。

 煙が広がる。


「直撃……確実に死んだな」


「死体を運べ。それから先生に——」

 煙の中から、笑い声が聞こえた。


「ハハハ……ハハハッ……!!」


「マ、マルコさん……煙の中から……!」


(確実に当たった。なぜだ……!)


 煙が少しずつ晴れていく。

 その先に立っていたのは——ボロボロの体のまま、笑っているセオンだった。


「はははっ……はー……」


「結局、この世界も前世と何も変わらないな……」


 人は優越感に浸りたがる。弱者を踏みにじり、差別し、己の劣等感を埋めようとする。


 どの世界にも、闇はある。


 クソみたいな世界だ……。


 いや——

 違う。

 この世界には、守りたい人たちがいる。

 お母さんも、村のみんなも、いる。

 前世では得られなかった幸せが、ここにはある。

 だから——


 それを邪魔するやつは。

「殺す……!!」


 ──────────────────────

【 スキル:魔法奪取(マジックスティール )】を取得

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