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記憶の回帰〜Oath of Karma〜  作者: 儚威
第1章 セイクリッド学院編
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第5話 帰る場所

 授業が終わり、僕は一人黙々と寮へ向かっていた。


 学院の門を出て、人通りが減ってきたところで——


「ぐはっ……!!」


 気づいた瞬間、腹に重い一撃が入っていた。息ができない。地面に手をついて顔を上げると、マルコが冷たい目で見下ろしていた。


「ほんと、弱いなー……」


「なに……するんだよ……」


「言ったよな。力ずくで退学させるって」


 逃げないと——立ち上がった瞬間、後ろから羽交い締めにされた。身動きが取れない。


 マルコの拳が腹に直撃した。


「ゔっ……!!」


 息が詰まる。手が離され、地面に倒れた。這いつくばりながら呼吸していると、今度は胸を蹴られた。


「やめない、って言うなら、毎日これが続くと思え」


「……やめない」


 声が震えていた。それでも、言わずにはいられなかった。


「そうか」


 マルコが手下に目配せした。


「3人がかりでやるぞ」


 それから先の記憶は、ほとんどない。ただ、3人が笑いながら殴っていたことだけは、覚えている。


 ――――――――


「誰かに言っても無駄だぞ。なんの取り柄もない自由民と、グリムウェル家の跡継ぎ。どっちが信じてもらえるか、わかるよな」


 意識が朦朧とする中で、声だけが聞こえていた。


 わかってる。そんなことは、最初からわかってる。


 頭の奥で、あの時と同じ痛みが一瞬走った。でも、今感じている痛みに比べれば、何でもなかった。


「今日はこれくらいにしといてやるか。帰るぞ」


 足音が遠ざかっていく。


 壁にもたれたまま、1時間ほどかけてようやく立ち上がった。寮に戻って応急処置をした。回復魔法が使えたら、と思いながら。


 ――――――――


 夜、お母さんへの手紙を書いた。


 ヴァルシア王国は活気に満ちていること。学院には優れた人がたくさんいること。クラスメイトもみんな優しくて、楽しい毎日を過ごしていること。


 全部、嘘だった。


 卒業したら、必ず謝ろう。


 書きながら、村のみんなの顔が浮かんだ。涙がこぼれそうになるのを堪えながら、筆を置いた。


「辛いな……お母さん、会いたい」


 疲れていたのか、すぐに眠りについた。


 ――――――――


 ある日の放課後、路地裏に連れ込まれると、マルコは僕の指を一本掴んだ。


「まだ心が折れてないみたいだからさ。分かりやすくいこうぜ」


 骨が軋む感触があって、それから、視界が白く弾けた。


「ぐああああ……!!」


 叫び声を上げても、誰も来ない。


 マルコが目配せすると、手下の一人が『癒しヒール』を唱えた。一瞬で痛みが引いていく。まるで、何もなかったかのように。


「もう一回言うぞ。退学しろ」


「……やだ」


 声にならない声で、それだけ答えた。


「そうかよ」


 二本目の指に、マルコの手が伸びた。


 それから、同じような日々が続いた。先生のいないところで殴られ、血が出すぎたり意識が遠のいたりすると『癒しヒール』をかけられて、何事もなかったように終わる。退学を迫られては、拒み続けた。


 多分、その頃の僕は、精神がおかしくなっていた。


 どちらを選んでも、地獄だった。


【退学しない】→ マルコたちから毎日痛くて苦しい暴力を受け続ける

【退学する】→ 村にいつ魔物が来るかわからず、怯え続ける毎日


 2年間耐えれば、僕の勝ち……いや、その前に魔法が使えるようになれば……


 毎日、ベッドの上で頭を抱えながら、そんなことを繰り返し考えた。


 ある夜、手に違和感を覚えた。


 見てみると、抜けた髪の毛がたくさんついていた。


 頭では大丈夫、耐えろ、我慢しろって言い聞かせてきた。


 でも、体が拒否していた。


 とっくに、限界だったんだ……。


 いいよね? もう、頑張ったよね……?


 ふと、お母さんの声が蘇った。


『少しでも辛いと思ったら、いつでも帰ってきなさい……』


 涙が、静かにこぼれ落ちた。

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