第4話 観察者
マルコが席に戻り、教室に静寂が戻った。
「セオン、お前も席につけ」
ハレス先生がそう言い、僕は前の席に座った。
周りの生徒たちは一定の距離を置き、毛嫌いするように避けていく。
……まあ、そうだよな。
強くなって、夢を叶えて、みんなを喜ばせてあげたい。今の僕には、その思いしかなかった。
――――――――
授業が終わり、教室がざわめき始めた頃、後ろの席から声がした。
「ねぇ、ソフィア。さっきのセオン君、なかなかだったと思わない?」
飄々とした声だった。
振り返ると、雪のような白みがかった髪の男子が頬杖をつきながら、どこか面白そうな目でこちらを見ていた。くっきりとした目が、値踏みするように細められている。
「……そうね」
隣には、長い明るい茶色の髪をした女子が座っていた。背筋がまっすぐで、その目には真剣な光がある。だが、その表情はどこか曇っていた。
「私、さっき……“はい”って答えてしまった」
彼女は静かにそう言って、膝の上できつく手を握った。
「仕方ないよ、ソフィア。あの状況じゃ誰だってそうなる」
男がさらりと返す。
「仕方なくない」
ソフィアの声は、揺るがなかった。
「将来この国を守る聖騎士を目指す人間として、あれは本当に不甲斐なかった」
「まあまあ」
男子は少し間を置いてから、声のトーンを落とした。
「それよりさ……気になるね」
「どういう意味?」
「魔力の流れを見る訓練くらいは、僕もそれなりに受けてる。その上で言うけど、あの魔力量は普通じゃない」
エリックが静かに言った。
「魔法さえ使えれば、マルコだって認めざるを得なくなるはずだ」
「……確かにそうね」
「うん。セオン君も気づいてるかどうかは分からないけど、あの目にはまだ光がある」
エリックは少し笑った。
「諦めてる目じゃない」
「エリック、あなたって時々鋭いわね」
「“時々”は余計だよ、ソフィア」
二人の小さな会話が後ろから聞こえていた。内容までは分からない。
それでも――
胸の奥が、少し軽くなった気がした。
――――――――
「ねぇ、マルコ君」
エリックが少し前に座っているマルコに声をかけた。
「なんだ?」
「セオン君を退学させたい理由、どっちなの? 魔法が使えないからか、それとも自由民だからか」
「しょうもねぇ質問だな」
マルコは鼻で笑った。
「まあ、どっちもだ」
その言葉を聞いて、エリックが小さく呟いた。
「しょうもないのはお前だろ……」
「ちょっと…!」
ソフィアが慌てて言った。
「あんたがどうこう言う資格ないでしょ。“はい”って答えたんだから」
「まあ、そうだね〜」
エリックは軽く笑いながら前を向いた。
(セオン君が魔法さえ使えていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。)
魔力の流れだけを見れば、あの量は明らかに規格外だ。一方でマルコは、技術は達者だが、流れそのものは細い。
(……妬んでる、とか。まさかとは思うけど。)
考えたところで、今の自分に何かできるわけでもない。
エリックは小さく息を吐いて、前に向き直った。
(せいぜい、こっそり見ておくくらいかな)




