第3話 居場所
入学式の会場は広大で、120人ほどの新入生が並んでいた。
席についた瞬間、周囲の声が耳に入ってくる。
「あいつ、庭で土下座してたやつだよな」
「初日からマルコに目をつけられるなんて、かわいそうに」
聞こえていないふりをして、前を向いた。
男性教師が壇上に立つ。
「では、始めさせていただきます。まずは校長からのご挨拶です」
五十歳ほどの男性が前に出てきた。校長のヘンリー・ローレンスだ。
その瞬間、胸の奥がざわりと騒いだ。息が詰まり、思わず背筋が伸びる。
――強い。
今まで、お父さん以外にこんな圧を感じたことがなかった。
魔法が使えないはずの僕に、なぜこんな感覚が分かるのか。自分でもよく分からないまま、ただそれだけは確かだった。
「120人の皆さん、初めまして。真面目に鍛錬に励めば、2年間で聖騎士への道が開けます。くれぐれも、おかしなことはしないように」
校長の挨拶が終わると、教師が続けた。
「次に、セイクリッド学院学長、ストライト・ウィリアム様からのご挨拶です」
会場がざわめいた。
「ウィリアム家の王子が学長なのか……」
「なんでわざわざ学院の学長に?」
「一体どんな人なんだろう」
静かな足音が近づき、その人物が姿を現した。
僕は息を呑んだ。
僕と年齢がさほど変わらない青年。整った顔立ち。しかし、そんなことはどうでもよかった。
校長の圧に、まだ胸が騒いだままだったのに――その比ではなかった。呼吸の仕方を忘れそうになる。目の前が一瞬、白く霞んだ気がした。
「すごい……」
思わず言葉が漏れる。
同時に、うなじの辺りがひやりと冷たくなった。恐怖とも違う、もっと底のほうから込み上げてくる感覚。
――知ってる、この感じ。
なぜそう思ったのか、自分でも説明できなかった。
「皆さん、初めまして。ストライト・ウィリアムです。私が伝えたいのはただ一つ。何があろうと、この学院は守ります。ウィリアム家が代々守り継いできたこの学院を」
微笑みながら退場するストライトを見送りながら、僕は思った。
守りたいものを守れる強さ。
僕がなりたいのは、こんな人だ。
――――――――
1年生のクラスは4クラス。
指定された教室に入ると、30人ほどの生徒がいた。
席に座った瞬間、声が飛んできた。
「なんでお前がここにいるんだ」
マルコだった。
同じクラスか……最悪だ。
「先生にクラスを変えてもらいます」
担任のハレス・ストーンフォージ先生に申し出たが、許可されなかった。
そこへマルコが割り込んでくる。
「先生、こいつ魔法使えないらしいですよ?」
「それがどうした」
「そんな奴がこの学院にいるなんて、恥だと思いませんか?」
ハレス先生はわずかに目を細めただけで、何も言わなかった。しばらくして、首を振る。
「入学を許可したのは学院だ。問題ない」
マルコは舌打ちした。
そして、ゆっくりと教室を見渡す。
「魔法が使えない奴がこの学院にいるのはおかしいと思わないか?」
誰も反応しない。
マルコは一人ずつ、正面から問いかけていく。
「こんなやつ、でていってほしいと思うよな?」
「……はい」
「思うか?」
「はい……」
わかっている。あんな風に詰められたら、誰だってそう答えるしかない。
でも、悲しかった。
「クラス全員がお前に出ていってほしいらしいぞ、セオン・クレスト」
僕は拳を握りしめた。
逃げれば楽かもしれない。
でも――
村のみんなの顔が浮かんだ。お母さんの笑顔。カイルの言葉。
「やめません」
教室が静まり返る。
「はぁ?」
「なにがあっても、この学院をやめません」
声は震えていた。それでも続ける。
「居場所なんてなくていい。ただ、強くなれるなら」
しばらく沈黙が続いた。
そしてマルコは、ゆっくりと笑った。
「……後悔するなよ」
その口の端は笑っていたが、目はまったく笑っていなかった。




