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記憶の回帰〜Oath of Karma〜  作者: 儚威
第1章 セイクリッド学院編
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第45話 残されたもの

 

 本館の大階段、その中ほどにある広い踊り場には、逃げ遅れた生徒たちが身を寄せ合っていた。


 床に座り込んでいる者、壁に背を預けて息を整えている者。赤黒く汚れた包帯を巻いた腕を、黙って見下ろしている者もいる。ついさっきまで廊下の向こうから絶えず聞こえていた剣戟は、いつの間にか遠く、まばらになっていた。


 階段の上と下を、ガイウスとルインが見張っている。


「……だいぶ、静かになってきましたね」


 長剣の切っ先を床に下ろしたまま、ガイウスが言った。


「まだ気を抜くな」


 ルインは腕を組んだまま、階下を睨んでいた。足元の石の隙間から伸びた蔦が、いつでも動けるよう、ゆっくりと揺れている。


 その階下から、何かを引きずるような音がした。


 段を這い上がる音が、少しずつ近づいてくる。生徒の1人が短く悲鳴を上げ、ガイウスが剣を構えて前へ出た。


 手すりの陰から現れたのは、侵入者ではなかった。


「……リン!」


 リン・レステニアだった。


 脇腹を押さえた手は、指の先まで赤く染まっている。立つことはとうに諦めたのか、片手で手すりを掴み、膝で段を1つずつ上ってきていた。通ってきた段には、点々と血の跡が続いている。


 ガイウスが駆け下り、その体を支えた。


「その傷で、どうやってここまで――」


「先生……セオンが……」


 掠れた声だった。それでも、リンはガイウスの袖を掴んで離さなかった。


「セオンが……エリックと、戦ってる……」


「2人で、侵入者とやり合ってるのか」


「違う」


 リンが、首を振った。


「あいつが……エリックが、裏切った。ソフィアを……」


 そこで、言葉が切れた。


 袖を掴む指に、力がこもる。爪が、布越しにガイウスの腕へ食い込んだ。


「……あいつが、ソフィアを殺した」


 踊り場が、静まり返った。


 聞いていたのは、ガイウスとルインだけではなかった。近くにいた生徒たちが、顔を見合わせる。


「エリックって……候補生の、エリック・フロストフォードか……?」


「裏切ったって、どういう……」


 ざわめきの中で、壁際に座っていたオーウェンが呟いた。選抜戦でセオンと剣を交えた少年だった。


「……そんな、はずは」


 誰も、その先を続けられなかった。


「場所は」


 ガイウスが、短く訊いた。


「魔導具保管室の、前……。セオンに、先生を呼んでこいって……」


 それだけ聞くと、ガイウスはリンの体を近くの生徒に預け、立ち上がった。


「待て、ガイウス」


 ルインの声が、その背中を止めた。


「お前がここを離れたら、この子たちはどうなる。まだ、どこに敵が潜んでいるかも分からないんだぞ」


「セオン君が、危ないんです」


 ガイウスは、階下を見たまま言った。


「ここにいる生徒たちも、もう戦えます。それに――ルイン先生がいてくれるなら、大丈夫ですよね?」


「……それは、そうだが」


 ルインは、しばらく黙っていた。


 それから目を細め、意識を周囲へ広げる。肌に触れる魔力の気配を、1つずつ確かめていく。


「……侵入者の魔力が、ずいぶん減っているな」


 低い声で、呟いた。


「あちこちで暴れていた連中も、だいぶ片付いたらしい。中庭の方も、収まりつつある」


 ルインが、ガイウスを見た。


「行け。生徒たちは任せておけ」


「……ありがとうございます」


「ボクも……行く……」


 生徒の腕の中で、リンが体を起こそうとした。だが、腰を浮かせたところで脇腹を押さえ、そのまま崩れ落ちる。


「お前は、ここで手当てを受けろ」


 ガイウスが、リンの前に膝をついた。


「セオンに頼まれたのは、俺たちを呼ぶことだろう。……お前は、ちゃんと役目を果たした」


 リンの唇が、何か言いたげに動いた。


 だが、言葉は出てこなかった。代わりに、もう一度だけ、ガイウスの袖を掴む。


「エリックは……前とは、全然違う。選抜戦の時とは、比べものにならない」


「ああ」


「……気をつけて」


 ガイウスは頷き、長剣を握り直した。


 階段を駆け下りようと、一歩、踏み出した時だった。


 足元が、揺れた。


 手すりが細かく震え、天井から埃が降ってくる。遅れて、腹の底を揺さぶる轟音が届いた。踊り場の窓硝子が一斉に鳴り、そのうちの1枚に、音を立てて罅が走る。生徒たちが、耳を押さえてうずくまった。


 少しして、廊下の奥から風が吹き抜けてきた。熱いのか冷たいのか、分からない風だった。肌の表面は焼けるように熱いのに、吸い込んだ息だけが、喉の奥で凍る。


「なんだ、今の魔力は……!」


 ルインが、思わず声を上げた。


 ガイウスも、足を止めていた。


 ぶつかり合ったのは、2つの魔力だった。1つは炎。もう1つは、氷。どちらも、離れたこの場所でさえ肌が粟立つほど、桁外れに大きかった。


 リンが、風の吹いてきた方を見ていた。


「……セオン」


 その時には、ガイウスはもう走り出していた。


 ――――――――


 中庭に、瓦礫と煙が残っていた。


 校舎の方から届いた揺れで、崩れかけていた石壁が、また少し欠け落ちる。その手前で、ガネンは仰向けに倒れていた。


 折れた剣は、手の届かないところに転がっている。息を吸うたびに、胸の奥が軋んだ。肋が何本か砕けているのだろう。口の中は、鉄の味でいっぱいだった。


「なぜだ……」


 空を見上げたまま、ガネンは呟いた。


「なぜ、こうなった……。全部、うまくいってたはずだ……」


 ――――――――


 ガネンが襲撃の話を持ち込んだのは、窓のない、薄暗い部屋だった。


 長い卓の上に置かれた燭台だけが、集まった者たちの顔を下から照らしている。


「エリックの奴が、上手くやってる」


 ガネンは、卓に手をついて身を乗り出した。


「候補生になって、自分だけの部屋を手に入れたらしい。そこに転移陣を描かせれば、こっちから人を送り込める。誰にも気づかれずに、学院の内側からだ」


 卓の一番奥に、1人の男が座っていた。


 黒髪を、少し長めに伸ばしている。整った顔立ちだったが、表情と呼べるものはほとんど浮かんでいない。燭台の灯りは彼の顔にも届いているはずなのに、その周りだけ、影が少し濃かった。


「だから、なんだ」


 男が言った。


「……は?」


 ガネンは、一瞬言葉に詰まった。


「いや、だから――学院の教師も生徒も、不意打ちで片っ端から殺せるって言ってんだよ。セイクリッド学院を、内側から崩せるんだ」


「なるほどな」


 男は、頷きもしなかった。


「で、ストライト・ウィリアムはどうする」


「安心しろよ」


 ガネンは、口の端を吊り上げた。


「あいつは魔王討伐で、しばらく学院を空けるらしい。そこを狙う」


 燭台の火が、小さく揺れた。


 男は、しばらく黙っていた。


「……そうか」


 それだけ言って、背もたれに体を預ける。


「なら、なおさら行く意味がないな」


「は?」


「あの男がいない学院を潰して、何になる」


 ガネンの顔から、笑みが消えた。


「何にって……あそこは王国の要だろうが!聖騎士も、ライトサイドも、あそこから――」


「要は、学院じゃない」


 男の声は、少しも大きくならなかった。


「ストライト・ウィリアムだ」


 卓の周りが、しんと静まった。


「学院なら、壊してもいずれ建て直される。人も、また集まる。だが、あの男は替えがきかない。あれ1人が立っている限り、この国は倒れない」


 男は、燭台の火に目を落とした。


「あれが生きている限り、俺たちはどこにも辿り着けない。……俺が殺したいのは、あの男だけだ。いない時を狙って、どうする」


 壁際にもたれていた大柄な男が、組んでいた腕を解いた。


「なら、決まりだな。リーダーが行かねぇなら、俺も行かねぇ」


「おい――」


 ガネンが振り返るより先に、卓の端に腰掛けていた女が、自分の爪を眺めたまま言った。


「私も行かないわ」


「……俺も」


 その隣で、寡黙な男が短く続く。


「お前ら……」


 長椅子に寝そべっていた男が、大きく伸びをした。


「僕も行かなーい」


 最後に、柱の陰から、消え入りそうな声がした。


「わ、私も……行きません……」


 迷う者は、いなかった。誰一人、ガネンの方を見ようともしなかった。


「は……はぁ!?」


 ガネンは、卓を叩いた。燭台が倒れかけ、蝋が飛び散る。


「お前ら、どうかしてんのか!こんな機会、二度と来ねぇかもしれねぇんだぞ!エリックがここまでお膳立てしてくれたってのに――」


「エリックへの命令は、魔導具の回収だ」


 男は、遮るように言った。


「侵攻の必要はない。あいつ1人でできる」


「ふ……ふざけるなよ……」


 ガネンの声が、震えた。


「俺はやるぞ。ヴァルシア王国を、滅ぼすためにな。俺を捨てて……こんな人生にした、あの国を――」


「やるなら、勝手にしろ」


 男が、初めてガネンの目を見た。


「ただ、俺たちの邪魔になるようなことはするなよ」


 卓の上の影が、ガネンの手元まで伸びてくる。燭台の火は少しも揺れていないのに、影だけが動いていた。


「……もし、すれば」


 男は、その先を言わなかった。


「分かってるな?」


「くっ……」


 ガネンは拳を握りしめたまま、部屋を出た。


 それから、独りで頭数を集めた。金で動く者。ヴァルシアに恨みを抱える者。使えそうな者は、片っ端から。


 あいつらの力など、借りなくてもいい。


 そう、思っていた。


 ――――――――


「あいつのせいだ……」


 瓦礫の中で、ガネンは呻いた。


「あいつらが、来なかったから……!」


 手をつき、体を起こそうとする。腕が震え、また崩れる。もう一度、手をつく。血が、石畳にぼたぼたと落ちた。


「俺のせいじゃない……!」


 膝を立てる。揺れる視界の中で、どうにか上体を起こした。


「俺は、負けていない……!」


 懐に手を入れ、転移石を取り出す。


(エリックも、今頃は転移しているはずだ。俺とエリックにだけ渡された帰還用の転移石。ほかの連中に渡されたのは、学院へ向かうための片道分だけだ)



 ――それでいい。あいつらは、この機会を望んで来たんだから。


 ガネンは、石に魔力を込め始めた。


 ――――――――


 その光に、ハレスが気づいた。


 校舎へ向けていた顔を、振り向ける。崩れた石壁の手前で、倒れていたはずの男が膝をつき、その手の中で、淡い光が脈打っていた。


「貴様……!」


「よぉ、おっさん」


 ガネンが、血の混じった笑みを浮かべた。


「勝負じゃ、あんたの勝ちだよ」


 光が、強くなっていく。


 ハレスは、地を蹴った。


 魔人化した脚なら、この距離は一息で詰められる。そのはずだった。


 2歩目で、体が軋んだ。


「ぐっ……!!」


 胸の奥で、何かが焼けた。黒く浮き上がっていた血管の一本一本に、煮えた鉛を流し込まれたような痛みが走る。血に混じっていた魔族の魔力が、体の内側で暴れていた。踏み込んだ膝が、言うことを聞かずに折れる。


 力が、引き剥がされていく。


 さっきまで底が見えないほど湧いていた魔力が、どこかへ流れ出していく。鉤爪が縮み、赤黒い肌がまだらに色を失っていく。こめかみの角に、ぴしりと罅が入った。


「ぐ、わぁあああああッ!!!」


 叫びながら、それでも手を伸ばした。


 届かない。光の中で、ガネンの輪郭が薄れ始めていた。


「帰ったら、あいつになんて言われるか……」


 ガネンは、他人事のように呟いた。


「……まあ、いいか。じゃあな、また来るよ――」


 ━━━━━━━━


 視界が、ずれた。


 何が起きたのか、ガネンには分からなかった。


 最初に目に入ったのは、白い羽だった。1枚だけ、ひらりと目の前を落ちていく。


 その向こう、中庭の上空に、1人の女が浮かんでいた。


 大人とも、少女とも言い切れない。クリーム色の髪が、滑らかに、ふわりと伸びている。その周りを、白い羽がいくつも舞っていた。


 天使、という言葉が浮かんだ。


 自分を斬ったのは、あの羽だ。なぜか、それだけは分かった。


 シュン、シュン、と小さな音を立てて、羽が女のもとへ戻っていく。


 女が、ガネンを見下ろした。


「もう二度と、あなたがここに来ることはありませんよ」


 穏やかな声だった。


 それを最後に、ガネンの意識は途絶えた。


 ――――――――


 首を失ったガネンの体が、前のめりに崩れ落ちた。


 手から転がった転移石の光が、石畳の上で弱まり、消えていく。


 ハレスは、膝をついたまま動けなかった。


 息をするたびに、全身が軋む。角は根元から崩れ落ち、赤黒かった肌も、ほとんど元の色に戻っていた。それでも目だけは、宙に浮かぶ女から離せなかった。


 あの男を、一瞬で。自分が全てを懸けて、ようやく倒した男を。


 女が、ゆっくりと降りてくる。足が石畳に触れても、靴音ひとつ立たなかった。


「ハレス!」


 駆け寄ってきたロザリナが、ハレスの肩を支えた。若返ったままの顔が、青ざめている。少し遅れて、アレクも来た。


 アレクは、何も言わなかった。崩れ落ちた角の欠片から、目を逸らさずにいた。


 ロザリナが、女を見上げた。


「あの羽……まさか」


 声が、かすかに震えている。


「ライトサイドの……ミロア様……?」


 女は、ロザリナに小さく頷いてみせた。それから、ハレスの前に立つ。


「遅くなりました」


 穏やかな声だった。さっき、ガネンに向けたものと、少しも変わらない。


「学院の結界は、外から入ってくるものを見張るためのものです。内側に直接送り込まれては、結界も反応しません。私のところに知らせが届いたのも、つい先ほどでした」


 ミロアは、深く頭を下げた。


「ストライト様がいない今、駆けつけるのは私たちの役目でしたのに。……申し訳ありません」


「いえ……」


 ハレスは、首を振った。


「助かりました」


 顔を上げると、ミロアは校舎の方を向いた。目を閉じ、しばらくそうしていた。


「……中の戦いも、じきに終わりますね。よく、持ちこたえてくださいました」


 目を開け、中庭を見渡す。


 噴水の脇に、制服姿の生徒が倒れている。瓦礫の陰にも、1人。どちらも、もう動かなかった。


 ミロアの視線が、そこで少しだけ止まった。


「……間に合わなかった子たちも、いるようですね」


 誰も、何も言えなかった。


「あとは、私に任せてください」


 ミロアはそう言って、わずかに目元を緩めた。


「とはいっても、もうほとんど残っていないようですが」


 白い羽が、ふわりと舞い上がる。瞬きをした時には、もう、その姿はなかった。


 中庭に、羽が1枚だけ残っていた。


「ハレス、じっとしてて。傷を――」


 ロザリナが、ハレスの体に手をかざそうとした。


「俺より、生徒を診てやってくれ」


 ハレスは、噴水の方へ目を向けたまま言った。


 ロザリナは、何か言いかけて、やめた。


「……あなたも、十分ひどい有様よ」


 それだけ言って、ハレスの傷に光を当てた。


 ――――――――


 魔導具保管室へ続く回廊は、もう回廊と呼べる形をしていなかった。


 壁の半分が崩れ落ち、天井には大きな穴が開いている。そこから、灰色の空が覗いていた。床には砕けた石と溶けかけた氷が散らばり、壁には焼け焦げた跡と、突き立ったままの氷の柱が入り混じっている。


 炎と氷が、ここで正面からぶつかったのだ。さっきの魔力がどこで弾けたのかは、考えるまでもなかった。


 長剣を構えたまま、ガイウスは奥へ進んだ。瓦礫を踏むたびに、乾いた音が響く。


 その音以外は、何も聞こえなかった。


 回廊の突き当たり、開け放たれた扉の脇に、白く凍りついた警備騎士が立っていた。何かを指差した姿のまま、動かない。


 その扉の前に、1人の少女が横たわっていた。


 ソフィア・ムーンハート。


 目は、閉じられていた。誰かが、閉じたのだろう。


 その少し手前の瓦礫の上に、少年が1人、座り込んでいた。膝の上に、誰かの体を抱えている。


 ガイウスは、足を止めた。


 抱えられていたのは、エリック・フロストフォードだった。


 胸に、深い傷がある。右腕は、手首の少し上で途切れていた。顔は穏やかで、口元が、少しだけ上がっていた。


 ――何より、友達が見てるので。


 模擬戦の最中、そう言って笑った顔を、ガイウスは覚えていた。めんどくさいやつだと思った。嫌いじゃなかった。


 その友達が、今、エリックを抱えている。


 ガイウスは口を開きかけて、閉じた。剣を下ろし、一歩だけ近づいて、また止まる。


「……セオン・クレスト」


 ようやく、名前だけが出た。


 少年が、ゆっくりと顔を上げた。


 血と煤で汚れた顔だった。焦点の合わない目が、しばらく彷徨ってから、ガイウスを捉える。


「……先生」


「リンから、事情は聞いた」


 ガイウスは、セオンの前まで歩いて、膝をついた。


「勝ったん――」


 言いかけて、止めた。


 セオンの腕の中の、エリックの顔を見る。


「……終わったんだな」


 セオンは、小さく頷いた。


 それきり、どちらも何も言わなかった。


 天井の穴から、冷たい風が吹き込んでくる。セオンの腕は、エリックの体を抱えたまま、動かなかった。


「……こいつは」


 やがて、セオンが口を開いた。


「ソフィアを、殺しました。学院の、みんなも……こいつの仲間に」


 声は、平坦だった。


「分かってます。……分かってるんです」


 エリックの肩に置いた手に、力がこもる。


「それでも」


 その先は、出てこなかった。


 ガイウスは、何も言わなかった。立ち上がって扉の前まで歩いていくと、外套を外し、横たわるソフィアの体にそっとかけた。


 それから、セオンのところへ戻り、少し離れた瓦礫に腰を下ろした。回廊の入り口の方を向き、長剣を膝の上に横たえる。


「急がなくていい」


 背中を向けたまま、ガイウスは言った。


 セオンは、答えなかった。


 天井の穴から、また、風が吹き込んだ。


 ――――――――


 対ヴァルシア王国殲滅組織、セヴァリス。


 その一派が起こしたセイクリッド学院襲撃は、こうして幕を閉じた。


 在籍する生徒240名のうち、13名が命を落とし、47名が傷を負った。教員に死者こそ出なかったものの、重傷を負った者は少なくない。学院の警備にあたっていた騎士たちの中にも、帰らなかった者がいる。


 創立以来、学院の内側でこれほどの血が流れたことはなかった。この日の出来事は、学院の長い歴史の中でも、最悪の事件として記録されることになる。


 数日後。


 学院の掲示板に、亡くなった生徒たちの名前が貼り出された。


 選抜戦の出場者が発表された時と、同じ掲示板だった。あの朝、そこにはエリックとソフィアとセオンの名前が、上から順に並んでいた。


 人だかりが引いた後も、セオンは、その前に立っていた。


 13人分の名前の中に、ソフィア・ムーンハートの名前があった。


 エリック・フロストフォードの名前は、どこにもなかった。


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