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記憶の回帰〜Oath of Karma〜  作者: 儚威
第1章 セイクリッド学院編
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第27話 届かない一撃

 

 控え室で、セオンは静かに待っていた。


 壁越しに響く実況の声から、これまでの結果は、大方察することができた。


(ソフィアは……ダメだったか。)


 三人揃って候補生になる――そんな都合のいい話はないと、分かってはいた。それでも、少しの落胆はあった。

 そして、もう一つ。シャルマが、新たなスキルに目覚めたということも。


 自分と、似ている部分もある。だが――決定的に、違う。


 シャルマの力は、誰に見せても恥じるものではない。だが自分の【魔法奪取(マジックスティール)】は、人を殺すことでしか手に入らない。

 シャルマとは違い、俺のこれは、決して表に出せるものじゃない。


 その事実を、改めて噛み締める。

「セオン、君の番だ」


 教員が、決勝戦の開始を告げに来た。


「わかりました。行きます」

 ゆっくりと立ち上がる。


 この一戦で、全てが決まる。

 候補生になったところで、劇的に何かが変わるわけじゃない。それは分かっている。


 それでも――もう、やるしかない。


 ――――――――


「さぁ、いよいよ、一年生によるライトサイド候補選抜戦も最後の一戦です!ここまで、本当に素晴らしい試合を見せていただきました。次で――全て、決まります!」


 モイナの声が、闘技場に響き渡る。


「Cブロック決勝ー!リン・レステニア選手、対、セオン・クレスト選手ー!!!」


 二人が、それぞれの入場口から姿を現す。


 リンは、いつもと変わらなかった。飄々とした足取り、感情の読めない表情。今までの試合と、何も変わらないように見える。

 だが――セオンは、感じていた。これまでとは明らかに異なる、張り詰めた空気を。


「セオン、やっぱりここまで来たね」


 リンが、静かに言った。


「二人とも候補生になれたら――なんて、少しは思ってたけど。こうして戦えるのも、悪くない」


 腰の剣を、指先でそっと撫でる。


「そうだな。この一戦で、決まる」


 セオンは、静かに答えた。


「初めて会った時より――俺は、成長してる」

 その言葉に、リンは小さく笑った。


「最後です。Cブロック決勝戦、試合開始ーー!!!」

 合図と同時に、セオンは地を蹴った。

「火炎の球(ファイアボール)!」


 放たれた炎の塊が、唸りを上げてリンへと迫る。

 リンは、腰の剣を抜き放った。ただ一閃。それだけで、炎は真っ二つに斬り裂かれ、火の粉となって舞台に散った。


 抜刀すら、目で追えなかった。


 だが、リンがセオンへと視線を戻した時にはもう――セオンは、次の魔法のために魔力を練り上げていた。

「火炎の嵐(ファイアストーム)!」

 炎の渦が、リンを飲み込もうと押し寄せる。


「はっ」


 リンは、それすらも真っ向から斬り裂いた。炎が、左右に割れて虚空に消える。

 その隙を突き、セオンは一気に間合いを詰めた。短剣を抜き、斬りかかる。リンは、当然のようにそれを受けた。


 甲高い金属音が、幾度も舞台に弾ける。火花が散るたび、視界の端が白く弾けた。


「くっ……!」


 どれだけ攻めても、隙が見えない。リンの表情には、余裕すら滲んでいた。

「最初から、飛ばしてくるね」

 疲れなど、一切感じさせない声だった。

 セオンは、一度距離を取った。

「疾風加速(ゲイルダッシュ)!」

 風を纏い、素早く回り込む。

「風の刃(ウィンドスラッシュ)!」


 風の刃が、リンへと放たれる。


 だが、その裏で――セオンは、もう一つの魔力を密かに練り上げていた。炎と、風。二つの魔力を、慎重に混ぜ合わせていく。


 まだ誰にも見せたことのない、混合魔法だった。

 リンの目が、僅かに細まった。異質な魔力の高まりに、気づいたのだろう。纏う空気が、変わった。今までとは違う、本気の色。


「――させない。『紅月斬(クリムゾンムーン)』!!」


 赤く染まった斬撃が、セオンへと迫る。

 だが、それよりも早く――

「『炎激竜巻嵐(フレイムトルネード)』!!」


 セオンの周囲に、猛烈な炎の竜巻が生まれた。


 轟音と共に、それが闘技場全体を包み込むように広がっていく。観客席には結界が張られているとはいえ、肌を焼くような熱が、そこまで届いていた。


「素晴らしいよ、セオン君……」

 観客席で、エリックが小さく呟いた。



「っ……!」

 リンの表情に、初めて――僅かな緊張が滲んだ。


「はぁーー!!!」

「『真紅月光斬(クリムゾンムーンライト)』!!」


 リンが、全力でその一撃を放った。


 紅の斬光が、渦巻く炎を一直線に貫く。轟音と共に、炎の竜巻は真っ二つに斬り裂かれ、粉々に消し飛んだ。


「うおおおおおおーー!!!なんという応酬でしょうかーー!!!」


 モイナの絶叫が、闘技場に響き渡る。観客たちが、総立ちになって沸き立った。


 炎と熱の名残が、静かに晴れていく。


「はぁ……」

 リンが、僅かに息を乱していた。


 その様子に、セオンは驚きを隠せなかった。

(あれで――この程度、で済むのか……。)


 自分が出せる、最大限の一撃だった。それを、こうもあっさりと。


「すごいよ、セオン」


 リンが、静かに言った。


「ただの混合魔法に、あれだけの魔力を注げるなんて。威力だけなら、もう最上級並みだと思う」


 称賛の言葉だった。だが、セオンの胸に広がったのは、喜びではなかった。


 これだけやって、なお――届かない。その事実が、重くのしかかる。


「さっきのが……俺の全力だ。それを、そんなに簡単に」


「そうだったんだ」

 リンは、少し考えるように、間を置いた。


「じゃあ――降参する?」

 その問いに、悪意はなかった。ただ純粋な、確認のようだった。


「いいや」


 降参など、するはずがなかった。少しでも早く、強くなる。少しでも早く――村のみんなを、守れるだけの力を手に入れる。そのために、ここにいる。


「やっぱり、そう言うと思った」

 リンが、小さく笑った。

 まだ、負けたわけじゃない。

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