第22話 託されたもの
「Cブロック第1試合は、入学当初は魔法も使えなかったところから、この二週間で目覚ましい成長を遂げた戦術家、セオン・クレスト選手!対するは、正々堂々とした剣技を貫く騎士道の体現者、オーウェン・ハルトゾルト選手!」
二人が、それぞれの入場口から舞台へと歩み出る。
(ここまで来られたのは、悪くない。)
(だが、これからだ。エリックもソフィアも、もう決勝に進んでいる。俺も、行く。そして――リンに勝つ。)
今は、目の前の一戦に集中する。
「試合開始!!」
オーウェンが、肩に担いでいた剣を引き抜いた。
「セオン・クレスト、君がすごいことは重々知ってるよ。入学当初は魔法も使えなかったんだって。それが今や、この由緒ある大会に出ている。ほんと、尊敬するよ」
その言葉に、偽りがあるようには感じなかった。
だが、悠長に話している場合ではない。俺は静かに構えをとった。
オーウェンが剣を両手で高く掲げる。
「『業炎斬』!!」
炎を纏った大きな斬撃が、まっすぐに飛んでくる。
それはまるで、大剣そのものを投げつけられたかのような重い一撃だった。俺は瞬時に風を纏い、体を横へ滑らせてかわす。
掠めた頬に、じりっとした熱が走った。かすっただけでこれか。
「風魔法も使いこなせるんだね」
この二週間の特訓で、俺は風魔法も多少使えるようになっていた。威力はまだ乏しいが、速度を上げる程度になら十分に使える。無理に大技を狙うより、堅実に、使える手札を増やしてきた。
「『疾風加速』!」
一気に間合いを詰め、オーウェンの懐へと潜り込む。
その瞬間、腰に差していた短剣を抜き放った。深みのある青紫の刀身が、陽光を受けて怪しく煌めく。切っ先を、オーウェンへ突き出した。
「くっ!!!」
オーウェンはその一撃を、辛うじて受け止め、打ち合う。
そこから先は、言葉を交わす余裕もない攻防が続いた。剣と短剣がぶつかるたび、甲高い金属音が舞台に弾け、火花が散る。何合、何十合と刃を重ねても、互いに一歩も譲らない、拮抗した打ち合いが続いた。
一定の距離を保ちながら、オーウェンが口を開いた。
「セオン、君は剣を使っていたかい?俺の記憶では、使ってなかったはずだが……」
「色々あってな。……まだ、使いこなせてるとは言えないけど」
――――――――
数週間前のことだった。
バルスケの森へ魔物討伐に出て、寮に戻ってきた時のことだ。寮の前に、見たことのない男が立っていた。
その男は、こちらに気づくとゆっくり顔を上げた。どこか悲しげで、申し訳なさを滲ませた表情だった。
「君が、セオン・クレスト君か……」
「私は、マルコ・グリムウェルの父親だ」
マルコの父親――その言葉に、あいつのことを思い出す。前世の記憶を取り戻すきっかけを作った男。あれ以来、自分があいつらを殺したという事実を、意図的に思い出さないようにしてきた自分がいた。
まさか、その父親がこうして目の前に現れるとは思っていなかった。何を話せばいいのか、分からなかった。
戸惑ったまま黙っていると、マルコの父親が静かに口を開いた。
「マルコが、君に酷いいじめをしていたことを知った。本当にすまなかった」
深く頭を下げる。その肩が、微かに震えていた。
本当に辛いのは、この人のはずだ。息子を失い、その上、その息子がいじめをしていたという事実まで知った。それでも、こうして頭を下げてくれている。
「頭を上げてください」
その言葉に、マルコの父親はゆっくりと顔を上げた。
「マルコは確かに、俺をいじめていました。当時の俺は魔法も使えず、弱く、後ろ盾もない――それに村出身です。そんな俺は、耐えられないいじめを受けていました」
それを聞いた父親の顔が、一層苦しげに歪んだ。
――本当のことは、言えない。
「でも、もう俺はマルコを恨んではいません。今は、新しい道を歩めています」
マルコの父親は、その言葉を噛み締めるように何度も頷いた。
「ありがとう……セオン君。君がそう言ってくれて、私の心は救われたよ……」
そう言うと、マルコの父親は手にしていた短剣を、静かに差し出した。
「これを受け取ってもらいたい。詫びの品というと、軽く聞こえてしまうかもしれないが……本来はこれを、入学祝いとしてマルコに渡すつもりだったんだ。制作に時間がかかってしまい、間に合わないまま、あの子とは別れることになってしまってね」
「いじめられていた君が、マルコのために作られた剣を使うのは、抵抗があるかもしれない。だが――マルコは魔法をメインにしながら、近接戦闘もこなす。そういう戦い方をする子だった。奇しくも、君と似ている。ミスリル製で、品質は最高級のものだ。使ってもらえるなら、それが一番だと思う」
差し出された短剣は、柄まで美しい細工が施されていた。刀身は深い青紫に輝き、一目で名品だと分かる。
「ありがとうございます。ぜひ、使わせてもらいます」
マルコの父親は、安堵したように微笑んだ。
「剣と魔法、両方を使いこなせるようになれば、きっと良い武器になる。頑張ってくれ」
それから俺は、その短剣を持って魔物狩りに出るようになった。最初は慣れず、結局いつも魔法ばかりに頼ってしまっていたが、使い込むごとに、少しずつ手に馴染んでいった。剣を持つことで、戦い方の幅が広がっていく感覚があった。
――――――――
観客席の後方。
マルコ・グリムウェルの父親が舞台上のセオンを静かに見つめていた。
その視線にはそどこか寂しげな色が混じっている。
男は何も言わず、ただ息子がかつていじめていた少年の戦いをじっと見守っていた。
――――――――
舞台の上、オーウェンは剣を構えたまま、こちらの出方を窺っていた。
俺は短剣に魔力を込め、風魔法で一気に加速する。
オーウェンは驚いた表情のまま、辛うじて剣で受け止めた。だが、衝撃の重さに、体勢が崩れる。
驚愕の色が、オーウェンの目に浮かんでいた。まさか魔力を纏わせた一撃だとは、思っていなかったのだろう。
その怯んだ隙を、逃す理由はなかった。
「『火炎の嵐』!」
炎の渦がオーウェンを飲み込む。防御が間に合わず、そのまま膝から崩れ落ちた。
崩れ落ちたオーウェンの周りで、焼け焦げた土埃がゆっくりと舞い上がる。会場は、一瞬だけ静まり返った。
「試合終了ー!!凄まじい激闘でした。勝者は、セオン・クレスト選手ー!!!」
歓声が沸き起こる中、俺は短剣を鞘に収めた。
「続いてはCブロック第2試合にいきます!」




