第20話 開幕
朝から詰めかけた観客の歓声が、闘技場を包み込んでいた。
すり鉢状に広がる観客席が、闘技場全体を見下ろすように取り囲んでいる。中央の闘技場を囲むように張られた結界が、陽光を受けてかすかに虹色の光を帯びていた。
学院の生徒、一般人、貴族――様々な人々が、開幕の瞬間を待ちわびていた。
「今回司会を務めさせていただきます、セイクリッド学院2年Ⅱ組、実況委員会のモイナ・シカルソインです!」
司会席で、モイナが魔導マイクに向かって明るく声を発した。
「そして、今回は特別解説として、2年Ⅳ組ライトサイド候補生である、カルザス・ヴォルグレイブさんにきていただいています!」
「お願いします。こういうのよくわからないんで、うまくできなかったらすみません」
「いやいや、何を言ってるんですか!今、この学院で最もライトサイドに近い存在と言われてるんですから、どんどん発言してくださいねー!」
「ところで、カルザスさんの方はどうなんですか?2年生の方の候補選抜戦も、開催まであと1週間ほどですが」
「あぁ……そういえば、そうでしたね」
あまりにあっさりとした返答に、モイナが思わずずっこけた。
「まぁ、対戦相手も含めて、みんなで盛り上げられたらいいですね」
カルザスは、自分の勝敗についても、選抜戦そのものについても、多くを語らなかった。勝つことが当然だと誇示する様子すらない。ただ淡々と、そこにいるだけだった。
その素っ気なさに、モイナは思わず気まずさを覚える。
「あ、あはは……では試合開始の前に、改めて今回のライトサイド候補選抜戦についてご説明させていただきます!」
モイナは気を取り直し、声を張った。
「1年に1回の大行事。選ばれるのは1学年につき3名。各クラスの成績上位者3人が選出され、4クラスありますから、合計12人。そしてA〜Cブロックに分かれて、1ブロック4人のトーナメント戦を行います!」
「勝ち抜いた者だけが――ライトサイド候補生になれるんです!」
観客席から、どよめきと拍手が上がった。
「ただし、候補生になったからといって、すぐにライトサイドになれるわけではありません。候補生としての活躍や貢献を重ね、ふさわしいと認められて初めて、ライトサイドへの道が開かれます」
「その代わり、候補生には学院からとてつもない支援があります!学費の全額免除、学院内での専用の部屋、自分に合わせた魔導具の提供、それに最高級の食事まで――候補生になるだけで、学院生活が一変するんです!」
「皆さん、理解できましたね!ではいよいよ――の前に、セイクリッド学院学長のストライト・ウィリアム様も観戦するということで、お言葉をいただきたいと思います!」
闘技場から少し離れた、ガラス張りの貴賓室。
そこからストライトが、静かにこちらを見下ろしていた。
マイクに声を乗せる。
「お久しぶりです。学長だというのに、あまり顔を出せず申し訳ない。今はケルスト王国との情勢が思わしくないことに加え、魔物と魔族の増殖への対応に追われていてね。それでも、今日こうして見届けられることを、嬉しく思う」
ストライトの声は、静かでいて、どこか威厳を纏っていた。
「この候補戦は、君たちがこれまでどれほどの努力を積んできたかを示す舞台だ。そして、そこで得た力は、いずれこの国を支える力になる。誇りと名誉のために――全力で挑んでほしい」
「ありがたいお言葉をいただきました……。この学院は、ストライト様がいてくださるからこそ、いつも安心感がすごいんです……」
モイナが感慨深そうに頷く。
「さて、選手の皆さん、聞いていましたね!」
セオンを含めた選手たちは、それぞれの持ち場で静かに構えていた。呼吸を整える者。目を閉じる者。ただじっと、開幕の合図を待つ者。
――ライトサイドに一番近い男、か。
先ほどの実況の言葉が、頭の片隅に残っていた。自分もいずれ、あの場所に立たなければならない。
「面白い試合を見せてくださいよ!ライトサイド候補選抜戦、まずはAブロックから――開始!!!」




