第15話 炎の証
「おい……あいつ、いつの間に魔法を使えるようになったんだ?」
「マルコのオモチャだった奴だろ?」
「嘘だろ……」
周囲の視線が一斉に俺へ集まる。
さっきまで見下していた連中が、今は驚きと戸惑いを隠せずにいた。
「すごいじゃないか、セオン君!」
振り向くと、エリックが満面の笑みで手を振っていた。その隣ではソフィアも穏やかに微笑んでいる。
「ありがとう」
「ありがとう、じゃないよ。8点なんて十分すごいじゃないか」
「エリック」
ソフィアが小さくたしなめる。
「今は、そっとしてあげなさい」
「あっ、ごめん」
思わず笑みがこぼれる。
この学院で心から信頼できるのは、やっぱりこの二人だけだった。
人混みの向こうから、リンがまっすぐこちらへ歩いてくるのが見えた。今度は、遠くからでもその気配がはっきり分かった。
「セオン」
「……二週間ぶりだな」
「やっぱり、ボクの勘は間違ってなかった」
リンは小さく頷く。
「一か月後の選抜戦。セオンと戦えるのを楽しみにしてる」
「俺は、まだ出場できるかも分からない。8点だっただけだ」
「だからだよ」
リンはまっすぐ俺を見つめた。
「這い上がってきて」
それだけ言うと、リンは軽く手を挙げて踵を返した。今度は、雑踏の中に紛れていく後ろ姿が、最後まで見えていた。
◇
その時、一人の教師が生徒たちの前へ歩み出た。
「今日の試験結果を受け、学院で協議を行った」
ざわついていた訓練場が静まり返る。
「その結果、10点を獲得した者は、実力が選抜戦出場基準に達していると判断し、成績に関係なく選抜戦への出場を認める」
会場がどよめく。
「なお、出場が確定した者も、今後の模擬戦や魔物討伐、筆記試験は通常どおり参加してもらう。選抜戦への出場権のみが保証される」
なるほど。
授業を免除されるわけじゃないらしい。
「今回は、リン・レステニア、グラディス・エバフォール、エリック・フロストフォードの三名が該当する」
エリックがこちらを見て、小さく手を振る。
「残る出場枠は、魔物討伐、模擬戦、筆記試験、そして今回の実技試験を含めた総合成績で決定する。上位者から順に選抜戦への出場権を与える」
教師はそれだけ告げると、その場を後にした。
静まり返った空気の中、最初に口を開いたのはソフィアだった。
「……負けない」
その瞳には、さっきまでの悔しさはもうなかった。
「一か月後には、必ずあの舞台に立つ」
「俺もだ」
短く答える。
エリックは二人を見比べ、柔らかく笑った。
「待ってるよ。選抜戦で」
「当然」
ソフィアが口元を緩める。
「逃げないでよ」
「逃げるわけない」
「ははっ、それでこそだ」
三人で笑い合う。
その時間はほんの数秒だった。
笑顔が消えると、現実だけが残る。
一か月。たった一か月で、総合成績を上位まで引き上げなければならない。
魔物討伐。模擬戦。筆記試験。どれ一つ落とすことはできない。
この二週間、炎を練ることしか考えていなかった。机に向かった記憶などは、ほとんどない。
嫌な汗が滲む。
そして、その先にはリンがいる。今日の一撃を見て、実力差は嫌というほど思い知らされた。
それでも——。
負けるつもりはない。
「セオン君」
顔を上げると、エリックが笑っていた。
「一か月後、楽しみにしてるよ」
「ああ」
今度は俺も笑って答えた。




