第14話 証明
「……リン・レステニア、10点」
試験官の声が響いても、しばらく誰も口を開かなかった。
魔力で強化された的は、斜めに断ち切られたまま静止している。やがて遅れて上半分が滑り落ち、地面に鈍い音を立てた。
「……すげぇ」
「本当に壊したのか」
「剣撃で10点なんて聞いたことねぇ」
ざわめきが広がる中、ソフィアは割れた的から目を離さなかった。
「悔しい?」
エリックが小さく尋ねる。
「……もちろん。でも、次は負けない」
ソフィアは短く答え、前を向く。
「その意気だ」
エリックは笑って頷いた。
――――――――
「次――Ⅰ組ホラム、Ⅱ組グラディス・エバフォール、Ⅲ組エリック・フロストフォード、Ⅳ組……」
「ようやく僕の番だ」
エリックが軽く肩を回す。
「期待してるわ」
「任せて」
「撃ってください!」
4人が一斉に魔法を放つ。
「真空弾!」
「暗黒弾!」
「氷刃の舞!」
「火炎花!」
轟音が重なり、煙が立ち込める。
煙が晴れると、二つの的だけが粉々に砕け散っていた。
「グラディス・エバフォール、10点。エリック・フロストフォード、10点」
歓声が上がる。
「……運が悪かったな」
グラディスが鼻で笑った。
「同じ番にお前がいたせいで、目立たなくなった」
エリックは苦笑する。
「……だが、まぁ大した氷魔法だ」
グラディスがエリックを横目で見た。
「でも、所詮は氷だ。闇には敵わない」
その言葉に、エリックは肩をすくめる。
「そうかな」
「少なくとも、この学院じゃ俺以上の闇魔法使いはいない」
自信に満ちた声だった。
エリックは少しだけ笑う。
「君はまだ知らないだけだよ」
「何をだ」
「君より、ずっと深い闇を持った魔法使いを」
「なんだと…?」
二人は一瞬だけ睨み合う。
だがグラディスは鼻を鳴らすと、背を向けた。
「選抜戦で決着をつけよう」
「望むところだよ」
エリックは戻ってくるなり俺を見た。
「次はセオン君だね」
「ああ」
その目は笑っていたが、どこか確かめるようでもあった。
――――――――
「次――Ⅰ組トハナ、Ⅱ組ヒタメ、Ⅲ組セオン・クレスト、Ⅳ組デネシ」
「頑張って」
ソフィアが静かに笑う。
俺は一歩前へ出た。
魔法を使えるようになって、まだ二週間。技術も制御も未熟だ。
それでも――。
「撃ってください!」
3人が先に魔法を放つ。火球、雷撃、風刃。どれも正確に的を捉えた。
俺は一拍遅れて右手を突き出す。左手で右手首を押さえ、魔力を一点へ集中させる。
小さな火が灯る。その炎は、一瞬で膨れ上がった。
「お、おい……」
「なんだあの魔力量……」
周囲がどよめく。熱風が吹き抜け、制服の裾が揺れた。
魔法名なんてない。ただ魔力を炎へ変え、力任せに叩きつけるだけ。
「行けっ!」
炎の塊が一直線に走る。轟音とともに的へ激突し、爆炎が辺りを包み込んだ。
煙が晴れる。姿を現した的は、大きくひび割れ、半ばまで砕けていた。
「……セオン・クレスト、8点」
「魔法名もなしで……」
「まだ一年だろ?」
ざわめきが広がる。
俺は息を整えながら割れた的を見つめた。
まだ足りない。もっと魔力を制御できれば、この程度じゃ終わらない。
その時だった。
「……」
リンがこちらを見ていた。無表情のまま、ほんのわずかに目を細める。
その視線だけが、不思議と胸に引っかかった。




