第13話 同じ舞台へ
食堂でエリックとソフィアと昼食を取っていると、エリックがふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばセオン君、魔法は使えるようになったかい?」
「ああ。まだ少しだけど、炎を出せるようになった」
「本当!? おめでとう、セオン!」
ソフィアが嬉しそうに微笑む。
「ありがとう」
「へぇ、まぁそのうち使えるようになるとは思ってたから驚かないけど!」
「ごまかしても無駄よ、エリック」
「ははは……」
エリックは苦笑しながら肩をすくめた。その苦笑いの奥に、微かな驚きが滲んでいるのが分かった。
「そうだ。さっき知らない女子から『選抜戦で会おう』って言われたんだけど、何のことだ?」
「『ライトサイド候補選抜戦』のことだね」
エリックが少し身を乗り出す。
「各クラスの成績上位3人、合わせて12人が出場できる。それをA〜Cの3ブロックに分けて、4人ずつのトーナメント形式で戦うんだ。各ブロックの優勝者、合計3人がライトサイド候補生になる」
「候補生?」
「学院から特別扱いされるんだ。専用の部屋、魔導具、個別指導……本気で育ててもらえる」
「候補生になればライトサイドに入れるのか?」
「いや。2年の終わりに候補生3人でもう一度戦う。その勝者1人だけが、ライトサイドへの挑戦権を得る」
「なるほど……」
「私は今年、候補生になるわ」
ソフィアは迷いなく言い切った。
「僕もね」
二人の視線がこちらへ向く。
「……どうせ目指すなら、早い方がいい」
「やっぱりそう言うと思った」
エリックは苦笑する。
「正直、セオン君とは戦いたくないんだ。二か月も鍛えられたら、僕を追い越してもおかしくない」
「それは買いかぶりすぎだ」
「どうかな。同じ山に入らないことを祈るよ」
「俺もエリックとは戦いたくない」
「奇遇だね」
エリックは笑みを浮かべたまま言った。
「でも、もし戦うことになったら遠慮はしない…」
「本気でやり合おう」
軽い口調なのに、その言葉だけが妙に胸に残った。
――――――――
寮へ戻ると、一人でベッドに腰を下ろした。
今のままじゃ上位には入れない。
筆記は二割。残り八割は魔物討伐と模擬戦。
スキルは使えない。なら、鍛えるべきは魔法だ。
翌日から、毎日訓練場へ通った。
「ハッ!」
炎を生み出す。魔力を練り、放ち、消える。また練り、また放つ。発動速度、威力、コントロール。ひたすら、それだけを繰り返した。
――前世のような人生は、もう送らない。
「強くなる……。エリック、ソフィア、すぐ追いついてやる。お母さん、村のみんな……待っていてくれ」
拳を握るたび、炎が揺らめいた。
「なかなか頑張ってるな」
訓練場の隅から声が聞こえる。
「関わらない方がいいですよ。マルコ・グリムウェルが死んだ件、覚えてますよね?あいつ、鑑定じゃ魔法を使えなかったはずなのに、今は普通に使ってるんです。あれがセオン・クレストですよ」
「……確かに不気味だな」
「行きましょう」
二人の視線に気づき、振り返る。
「ひっ……!」
二人は慌ててその場を離れていった。
邪魔さえしなければ、何もしない。
俺は再び炎を灯した。毎日。来る日も、来る日も。炎だけを見つめ続けた。
――二週間後――
「今日の実技は成績に入る。魔力で強化された的を魔法で撃ってもらう」
朝、ハレス先生の言葉が教室に響いた瞬間、空気が変わった。
「ちょっと先生、確認試験は2週間後じゃなかったんですか……?」
「会議で現状把握の話が出てな。急遽、今日やることになった。それと——今日の実技は1年全員、同じ場所でやる」
どよめきが起きた。
Ⅰ組からⅣ組まで、全員の前で試験を受けることになる。
訓練場に出ると、魔力で強化された的が並んでいた。4クラスが横一列に整列する。
「セオン君、大丈夫かい?」エリックが小声で言った。
「今の俺の実力がどこまでか確かめるいい機会だ」
「最近自分のこと全然話してくれないから、どれだけ成長したのか気になって仕方ないんだ」
「今日わかるんだし、いいんじゃない?」ソフィアが言った。
エリックは静かにこちらを見た。
(初めて会った時より——確実に魔力が濃くなっている。)
「ああ、今の俺の全力を見せてやる」
遠くから、リンがこちらを見ていた。
――――――――
「試験を始めます。各クラス1列。1回4人ずつ行います。点数は0〜10点。正確さと威力を総合して判定します」
最初の4人が前に出ると、それぞれ魔法を放った。火球や風刃が的を打つが、魔力で強化された的には浅い傷が残る程度だった。
「Ⅰ組エリアス4点、Ⅱ組ソレナ5点、Ⅲ組エレリ4点、Ⅳ組デリン5点」
「コントロール重視で威力が足りない。当然だね」
エリックが静かに呟く。
その後も次々と試験は進み、最高得点は7点のまま変わらなかった。
そして――。
「Ⅲ組、ソフィア・ムーンハート。Ⅳ組、リン・レステニア」
ソフィアは落ち着いた足取りで前へ出る。一方のリンは、相変わらず表情ひとつ変えない。
(リンはどんな魔法を使うんだ……)
「撃ってください!」
ソフィアが静かに手を掲げる。
「花の破裂!」
咲き誇る花弁が渦を巻き、一斉に的へと襲いかかった。鋭い破裂音とともに的の表面へ大きな亀裂が走る。
「ソフィアさん、8点」
周囲から感嘆の声が漏れた。
「さすがソフィアだ……」
だが、その隣ではリンが静かに刀へ手をかけていた。刀身が淡い光を帯び、刃に魔力が宿っていく。
「リン・レステニア。的まで距離があるが、近接武器で問題ないか?」
「問題ない」
短く答えると、リンはゆっくりと刀を振り抜いた。
「月光斬」
放たれた銀色の斬撃が一直線に駆け抜ける。次の瞬間、的は音もなく真っ二つに割れた。
静寂が広がる。誰も声を出せない。ただ割れた的を見つめることしかできなかった。
試験官も一瞬言葉を失い、ゆっくりと口を開く。
「……リン・レステニア。10点」




