48.宴会と別れ
宴会は続いていた。
「翔真さーん。なんでそんなに女の子が好きなんですかぁ?」
シナッとした体制から上目遣いにこちらを見つめてくる美晴さん。
くっ。
なんて色っぽいんだ。
「いや、あのー。見境なく女の子に手を出している気は無くてですねぇ」
「むーー。無自覚ですかぁ?」
そう言いながらグビグビ飲んでいる。
「はっはっはっ! ヒーローも女の前では形無しか?」
「いやー。参りましたね」
周りを見ると結構出来上がってきている。
「美晴さんって今何処に寝泊まりしてるんです?」
大矢さんに念の為に聞いてみると。
「安心しろ。今日は皆この宿で部屋とってんだ。それはギルドで出した」
「そうなんですね。よかったぁ」
「はっはっはっ! 部屋には運んでやれよ? お前以外だと問題にされそうだ」
「えぇー」
チラッと蘇芳を見る。
首を振っている。
自分で運べってか!?
俺の煩悩が仕事をし始めてしまう。
今も腕に柔らかい感触があるのだ。
「美晴さん? 部屋に行って寝た方がいいですよ?」
バッとこっちを向いた。
「美晴!」
「はい?」
「美晴って呼んでって言った!」
「み……はる」
「そう。よく出来ました」
ニヘラァっとした顔で褒めてくる。
美晴さん、その顔は反則ですよ。
可愛すぎます。
「飲みすぎですよ? 部屋に送りますから、一緒に行きましょ?」
「むー。分かりましたよぉ」
フラッと立ち上がる。
腕を掴んであげる。
「行きましょ」
部屋を聞いて鍵貰わなきゃと若女将を探す。
「あっ! 若女将! すみません。美晴さんの部屋何処か教えて貰えます? 鍵も貰っていいですか?」
「雪乃です……」
「はい?」
「雪乃です!」
えっ? なに?
デジャブ……
「ゆき……の」
「はい! これが桃野さんの部屋の鍵です! ここに部屋番号も書かれています! ご案内しますね!」
「有難う御座います」
若女将を先頭にして後ろを着いていく。
美晴さんはもう目が虚ろで眠そうだ。
「こちらになります」
部屋の鍵を開けると中に入る。
ベットに美晴さんを寝かせて布団をかける。
「おやすみなさい」
鍵をテーブルに置いて部屋からでる。
扉を閉めて固まる。
あれ?
これ、鍵閉めれなくない?
この旅館はオートロックではない。
「私が鍵閉めますよ?」
ガチャっと鍵を閉めてくれる。
マスターキーか。
着いてきてもらってよかった。
「助かりました。有難う御座います」
「いえ! いいんです。お疲れじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「はははっ。ちょっと疲れましたね。俺も休もうかと思います」
「はい! おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
そのまま自分の部屋に行きその日は眠ってしまった。
◇◆◇
その頃大広間では
「翔真のやつ戻ってこねぇな? まさか……」
「いや! ギルドマスター! 翔真さんにそんな度胸はありません!」
『部屋に戻っちゃったんじゃない?』
「そうですね。部屋に戻ってみます!」
「あぁ。まぁ俺はどっちでもいいけどな」
「よくありませんよ!」
一斗が焦りながら立ち上がる。
「蘇芳さん、戻りましょう!」
『はいよぉ』
蘇芳も立ち上がる。
「では! 皆さんごゆっくり!」
「おう! じゃあな! 今回は助かったぜ!」
「お疲れさん!」
「ゆっくり休んでくれ!」
口々に労いの言葉をかけてくれる。
部屋に戻ると鍵が開いている。
「不用心ですねぇ」
中に入るとベッドに大の字に寝ていた。
『全く……お騒がせなやつ』
「幸せそうに寝てますね」
『翔真を好きになる人は大変だ。全く手を出されないんだからね』
「それがいい所何でしょうけどね。寝ますか」
『だね』
それぞれのベッドに寝るとすぐに寝息を立てた。
◇◆◇
目を覚ますと朝日が差し込んでいた。
「あっ……美晴さん送ってそのまま部屋戻って寝たんだった」
隣を見ると一斗と蘇芳が寝ている。
「今日にはここを発つかな」
温泉に入って眠気をとり、準備をする。
一斗と蘇芳も起き出しだ。
「あっ、おはようございます。もう準備してんですか?」
「あぁ。今日伏志摩領に発とうと思ってな」
「分かりました。準備します」
『また美晴ちゃんにさよなら言わないの?』
「会えば言うけど、まだ寝てると思うからなぁ」
『ま、いいけど。次会った時また言われるよ?』
「はははっ。そん時はそん時さ」
笑いながら準備をする。
各自準備を終えるとエントランスに行く。
「若……あっ。雪乃さん、お世話になりました。俺達、今日ここを発って伏志摩領に向かいます!」
カウンターの向こうからトテトテとこちら側に出てくる。
「行っちゃうんですか?」
上目遣いで見つめてくる。
耐えるんだ俺……。
「はい。また来ますよ」
「絶対ですよ!?」
「はい!」
するとニコッと笑って。
「行ってらっしゃいませ!」
笑顔で送り出してくれた。
「行ってきます!」
「お世話になりました!」
『雪乃ちゃんまたねぇ』
蘇芳は手を振って別れを告げている。
三人は振り返らないように町を出る。
『次は何処だっけ?』
「伏志摩領だそうだ」
「どんな所なんですか?」
「そうだなぁ。美味しいご当地グルメもあるみたいだし、昔ながらの街並みのところがあるらしい」
「へぇ。楽しみですね!」
『じゃあ、また翔真は人魔一体閉じて鍛錬だよ!』
「わぁったよ!」
「はい! 行きますよ!」
一斗が走っていく。
それに必死で食らいついていく。
中々食らいついて行けるようになっているのだ。
鍛錬の賜物である。
これが後に生きてくるのだ。
◇◆◇
その頃、翔真達が去った後の旅館では一悶着あったようだ。
「はぁ。昨日は寝ちゃってダメだったなぁ。もっと翔真さんとお話したかったのに」
遅く起きてしまった美晴。
エントランスに向かう途中でギルドマスターの大矢さんと会った。
「あっ! おはようございます! 今日くらいはギルド大丈夫ですかね?」
「あぁ。大丈夫じゃないか? この町の解放者はみんな昨日の飲み会に参加してるし、ほぼみんな寝たのは朝だからな」
「私も昨日はあんまり部屋に行ったのも覚えてなくて……」
「翔真が送っていってくれたんだぞ?」
「そうだったんですか!? 悪い事したなぁ」
下を向いて暗くなる。
受け付けで鍵を渡す。
「おはようございます! ゆっくりできましたか?」
「あっ、はい。ゆっくりし過ぎちゃいました……」
「ふふふっ。あっ! 真仲さん達、今日発つって2時間前位に宿を出ていかれましたよ?」
「えぇぇぇぇぇーー!」
「アイツは全く。ちゃんと挨拶しやがれってんだよなぁ」
呆れたように大矢が言うと、隣で美晴が鼻息を荒くしている。
「むむむむむ! まぁたあの人はちゃんと挨拶をしないで出ていってぇぇぇ!」
「まぁ、落ち着けって」
大矢の言葉は届いていない。
「今度あったらまた、お説教ですからねぇぇぇぇぇぇ!」
街の外まで絶叫が届いたとか届かなかったとか。
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