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元エリートおっさんの配信ダンジョン~違法迷宮は調子に乗った奴から全滅する  作者: 夷摺木 帳(イスルギ トバリ)


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8/9

ボス部屋改装、うっそだろ、おい!

 バードンマンが、ちらりとラグナを見た。

 開始の合図でも頼むつもりか。

 ──そう思った刹那。


 黒い塊が、視界を埋めた。


「野郎っ、せこい真似を!!」


 物凄い速さで飛び込んできた。

 反射的に斜め前に踏み込み、盾で体当たりを受け流す。

 間一髪、直撃を避けた。

 緊張と威圧の中で、スローモーションのように視界が流れる。

 ギャリギャリと盾の装甲がゆっくりと削り取られ――衝撃が過ぎ去ると、巻き戻る感覚と衝撃に姿勢が崩れた。


「くそっ──」


 その隙を嘲笑うかのように、大鷲の鳥人(バードンマン)は天井近くまで跳び上がる。

 既視感が警鐘を鳴らす。ぐるりと旋回、そして。

 一直線に、落ちてきた。


 ──ご丁寧に、さっき見せたアレか!!


「なめん、な!」


 手早く白いキューブ(ダンジョンコア)を操作する。

 着地地点に『結着する罠』を展開し、すぐさま横へ飛び退く。


 風切音が遅れて届き、落下した巨躯が石床を踏み砕いた。

 割れ砕かれた床材が跳ね上がる。

 同時に、衝撃地点から立ち上がった青白い粘性網が破裂し、螺旋を描くように大翼の大男を巻き取った。


 決まった──


 『大鷲の鳥人(バードンマン)』ごと、幾重にも巻き付いた強粘性の網。次の瞬間、ビシリと音を立てたソレは、大きな繭となって締め付けた。

 猛獣さえも動きを奪う代物だ。これで試合終了といっていい、だが。


「――浅知恵、ご苦労!」


 大翼が広がる。軽く振り払うように。

 粘性網が、いとも容易く引きちぎられた。

 それだけで終わらない。鋼鉄の羽根が散弾のように放たれた。

 機関銃のような勢いで床から壁へと穴が走る。

 受けきれるのか?!

 咄嗟に盾の陰へ身を丸めたが──それがいけなかった。


「あぐっ?!」


 何かに肩を掴まれる、万力のような衝撃で。

 痛みに目を細めた次の瞬間、世界が反転した。

 上空に放り出されたと理解した時には、もう遅い。


『鳥さんの勝ちです。

 下剋上された不憫なマスターを、抱きとめてください』


「ふむ。承知した」


 屈辱だった。ラグナの毒舌も、今だけは受け止めきれない。

 放物線を描いて落ちた俺を、大鷲の鳥人(バードンマン)が、軽々と抱き止める。──それも、お姫様抱っこで。


 英雄にはなれなくても、中堅冒険者の矜持くらいはあった。

 それが今、見事に粉砕されてしまった。


「最初の威勢だけは良かったぞ、管理者殿」


 何も言い返せない。

 ゆっくりと地面に降ろされると、全身の力が抜けた。

 足がよろめいたのは疲労のせいじゃない。……自尊心の方だ。

 大鷲の鳥人(バードンマン)は満足気に息を吸い込むと、力強い声色で俺の思考を押さえつけてきた。


「それでは約定通りだ。

 私が勝った。ここを雑木林に改装してもらおう」


 有無を言わせないとはこの事か。

 背後のラグナもウキウキとした表情で見てくる。


「……わかったよ」


 遅かれ早かれというやつだ。

 だが、主導権を握られたようで、胸中が掻き乱される。俺は、また負けたのか。

 情けない気持ちをせめて隠すように、拳の力を解いた。


 観念して、手のひらに白いキューブ(ダンジョンコア)を出現させる。

 音もなく、澄んだ輝きが静かに立ち上がる。

 視線操作で起動すると、空中にダンジョン全体の立体映像(ホログラム)が立ち上がった。

 俺のダンジョンが、ミニチュア模型みたいに表示される。


 ボス部屋を選択し、詳細な情報を操作する。

 地形、環境、属性、魔物湧出傾向、生態系バランス……

 管理画面が次々に開き、雑木林に変更する要素が展開される。


 この辺りは正直わからない。

 いつもダンジョンにお任せで構築しているのだ。

 それにても……思わず、苦笑が漏れた。


「高ぇな……」


 雑木林に改装するのに必要なダンジョンスコアの消費量。

 だが、問題はないだろう。

 昨晩から大鷲の鳥人(バードンマン)が好き勝手に狩り散らかしたおかげで、ダンジョンスコアは見たこともない数値まで膨れ上がっている。


 それでも、大部屋の、それもボス部屋の改装は初めてだった。

 できれば、少しずつ改装して変化を楽しみたかった。

 ……まぁ、約束だからな。

 俺は、改装条件に目を通し、ボス部屋を雑木林に変更する意思を確定した。


 地形:起伏増加

 植生:広大な雑木林

 環境難度:上昇

 視界制限:中

 ▶ 改装実行


 光のラインがホログラム内を走る。



 ──『ダンジョンスコアを消費し、第一階層・ボス部屋を雑木林に改装します』



 天井から、いつもの無機質なアナウンスが落ちる。

 ラグナと変わらない声色だが、当の本人は我知らずと大鷲の鳥人(バードンマン)の鉤爪をつついてる。


「……あれ?」


 何も起きない。

 石床はそのまま。空気も変わらない。


 ──『特注素材が選択されていません』


「はい?」


 ──『改装に必要な適合素材が不足しています』


 いや、聞いてない。聞いてないぞ……?!

 何か、嫌な予感が過ぎる。


 ──『不足分を補填します。管理者イスルギの存在値を消費します』


「ま、待てまてまてまて!!」


 手元の白いキューブ(ダンジョンコア)が強く発光した。


 ──『レベルが1低下しました』


「うっそだろ、おい!!」


 胸の奥から、何かが“引き剥がされる”感覚。

 心臓の鼓動がワンテンポ遅れた。

 気だるいような重みがのしかかり、同時に身体が軽くなる。


 慌ててステータス画面を確認するがもう遅い。


 【レベル:34 → 33】


 下がっちまったじゃないか!


 焦る間にも、現実のボス部屋の床が、びきびきと音を立てて割れ広がり、石床が土へと変質していく。

 苔が走り、根が伸び、若木が芽吹き、瞬きの間に、景色が“屋内”から“広大な森”へと塗り替わった。

 天井の岩盤は霧と枝葉に隠れ、光は木漏れ日へと変わる。


 レベルを対価に、雑木林が産声を上げた。


 ──何が……いけなかった?


 ホログラムに表示された改装ログを見て、俺は言葉を失った。


 ▶第一階層 改装ログ・ボス部屋

  千年大樹 ×1

  高木 ×600

  低木 ×3000

  緑のダム ×2

  精霊の通り道 ※所持していません

  豊穣のゆりかご ※所持していません

  光の柱 ※所持していません


「……なん、だ、そりゃ」


 所持していない。

 つまり、ダンジョンスコアだけでは創れない?


「見たことも聞いたこともないぞ、こんなもん」


 精霊の通り道……豊穣のゆりかご?


「どうやって集めろってんだ……」


 一流冒険者になれば辿り着くのだろうか。

 英雄だけが入手できる領域なのか?


 愕然とする俺をよそに、大鷲の鳥人(バードンマン)が大木の枝へと飛び乗る。

 その姿は、既に“この領域の主”そのものだった。


『マスター、鳥さんが気持ちよさそうに、寝そべってます。

 ラグナもあれがやりたいです。

 管理人室にハンモックを要請します!』


 他人事みたいに言ってくれるな。

 こちとら数日でレベルが二つも下がってしまったんだ。


「……覚えとけよお前ら。

 次の増築費は天引きだからな!!」


 誰も返事はしなかったが、俺のうちの何かが告げていた。

 ダンジョンは確実に“強く”なっている。



 そしてたぶん──俺は、少し弱くなった。

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