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元エリートおっさんの配信ダンジョン~違法迷宮は調子に乗った奴から全滅する  作者: 夷摺木 帳(イスルギ トバリ)


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7/9

階層ボスが下剋上宣言しやがった

 ボス部屋の扉をくぐった瞬間、軽口でも叩いて出方を探るという気は失せた。


 空気が重い。

 ──準備が足りないなら引き返せ、か。

 無言の圧が、喉の奥で言葉を詰まらせる。


 部屋の四隅に転がっているのは、なんだ?


 巨大な岩の塊が積まれている。

 いや、鱗に覆われた長い胴体が幾重にも折れ曲がっている。


 黒曜に濡れた額が特徴的な大蛇──『地底の抱擁(クラッシュロックボア)』。

 階層主クラスの魔物だ。それも数体。

 それが、四方の壁際に無造作に討ち捨てられていた。


「ボスクラスが……湧いたのか」


 大鷲の鳥人(バードンマン)の気配が、この部屋の環境を書き換えたのかもしれない。

 強い生物がいる場所に、強い魔物が引き寄せられる。

 ダンジョンとは、そういう場所だ。


『一晩で、弱小ダンジョンが初見殺しと化してしまった件』


 ぴょんっ、と俺の脇から前に跳び出し、ワクワクした表情で振り返るラグナ。


「……ああ、だが、一階層しかないウチのダンジョンには、過酷すぎる環境だ。

 食事は構わないが、もう少し力を抑えることはできないのか?」


 視線だけを上げて声を投げる。

 天井近く、新たに切り出したような石柱の影。

 そこに、巨大な翼がゆっくりと動いた。


「管理者殿か」


 低く、愉悦を孕んだ声が降ってくる。


「なんの。こやつらときたら、我が寝床に湧き出したようでな。

 可食部は少ないが、力を取り戻すには悪くない手合いなのだ」


 ゆらりと翼を広げて降り立つ巨体。

 床がわずかに沈む。

 無意識に息を詰めていたのを、ラグナが腹をつついて気づかせてくれた。


 ──というか、でかくなってないか?


 筋肉の張り。鋼の如き羽の艶。飛行ゴーグルの奥から漏れる眼の光。

 昨日より、……レベルも上がってるよな。

 平然を装って、手元に白いキューブ(ダンジョンコア)を出現させる。

 視界の端を操作して、鑑定画面のウィンドウを立ち上げた。



 ▶ 階層主:■■の■■(バードンマン)

  ステータス:開示拒否



「ん。……え?」


 表示はそれだけだった。口元が引きつる。

 開示拒否なんて、初めて見たぞ。


 ──この鳥野郎、何考えてんだ?


 頭上から、喉の奥で転がすような笑い声が落ちてきた。


「俺にステータスを見せたくない理由でもあるのか?」


 ちらりとラグナの様子を見る。

 いつも通りだ。ラグナは無警戒に大鷲の鳥人(バードンマン)に近づき、兵装に覆われた筋肉や、鋭い鉤爪を弄んでいる。

 つまりは、ダンジョン側は、これを正常扱いしているらしい。


「管理者殿にお願いがあってな。

 そう易々と手の内を晒しては、興が削がれるだろう?」


「……何が言いたい」


 ぞわり、と空気が重くなる。

 バードンマンは石造りのボス部屋を見渡し、

 最後にゆっくりと、視線を合わせてきた。


「翼の調子を確かめたくてな。軽く、ダンジョンを散策した」


 ドンッ──!!


 視界から巨躯が消える。慌てて目で追うと、大鷲の鳥人(バードンマン)は、既に上空から見下ろしていた。


「だが、どうも寝付けなくてな」


 巨体が旋回し、垂直落下に降り注ぐ。

 次の瞬間、ボス部屋が揺れるほどの衝撃が、石床を荒々しく砕いた。


「良い“寝床”が見つからん」


 着地と同時に空振が生じ、衝撃が胸を打つ。

 土埃が顔を打ち付けるが目を逸らしてはいけない。


「管理者殿よ。ゲームといこうではないか」


『おっふ。何ということでしょう……昨日、修繕《リペア》したばかりのボス部屋が、まるで料理研究家がキッチンごと爆発させたような仕上がりに』


 カッコつけた大鷲の鳥人(バードンマン)の決めポーズに対して、うちのラグナさんが水を差す。

 聞こえてないふりして固まってるじゃないか。

 おかげで少し、冷静になった。


「……言いたいことは大体わかった。

 要するに、ボス部屋の改装だろ?

 ゲームとか面倒な手順踏まなくても、もう少し──おい待てって」


 大鷲の鳥人(バードンマン)の周囲の空間が揺らめいた。

 うねるような戦意が、物理的な圧となって肌を撫でる。

 勝手に重心が落ち、腕が反射的に武器を構えた。構えさせられた。


「合理的なのは嫌いではないが、──それではつまらん事もある」


 おいおい、マジかよ。


『マスター、準備したほうがいいですよ。

 鳥さんは“序列”を確認したいそうです。

 ラグナは、少し楽しみです』


「軽く、ひと当てといこう。私が勝てば、この部屋は、広大な雑木林に変えてもらう」


 鋼の輝きを散らして、大翼が広がる。


「失望させるなよ、管理者殿」


 マスクに隠れた口元が、わずかに吊り上がったように見えた。


「命の保証は──置いてこい」


 ──来る。

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