第58話 闇
「きゃー、ヴェルミさまカッコいい〜!」
頬を染め叫ぶキヨメ。
「なにお前、あんなのが好きなの?」
ベンシーが冷めた目でそれを見た。
「何よ、うるさいわね、ほっといて」
先ほどとは打って変わった低い声で、キヨメがベンシーを睨む。
「お主そんな性格じゃったのか……」
ラクリマが困惑した表情でキヨメを見た。
「っは! これは失礼しました、ラクリマ姫さま。今は仕事中でした」
姿勢を正すキヨメ。
「まあ、無表情で何を考えてるかわからんさっきまでのお主より、その方が人間味があって良いわ」
ラクリマが笑う。
そんなやりとりをしている間に、残る聖騎士もヴェルミにのされてしまった。
「ふう、もう安心ですよ、可愛い魔女さんたち」
スーパーキュートなクリスタルクリーンスマイルで振り返るヴェルミチェッリ。
「きゃー! ヴェルミ様一!」
再び我を忘れたキヨメ。
そんなやりとりを見て困惑する魔法女学園の生徒たち。
「なんか緊張感ないなー」
呆れ顔のベンシー。
「あ、あのー、ありがとうございました!」
ラクリマ姫や、他の3人に礼を言うベル。
「礼など良い、それより聖騎士学院の生徒たちの精神支配を解いた事、誠に見事であった。今後とも精進し、困難を切り抜ける力を養うのじゃぞ」
「はい!」
ベルが返事を返し、魔法女学園の生徒たちもそれに続いた。
姫は生徒たちにヴェルミが倒した聖騎士たちの精神支配も解くように言った。
ちょうどその時、ノワゼット校長と、ファンデュ教頭がやってきた。
「皆さんがこれを……!?」
聖騎士学院の生徒たちが、皆黒い霧を吐いているのを見て校長が驚きの声をあげた。
その後、我に帰った校長は姫や生徒たちに怪我はないか尋ね、何事もないことがわかると、学園生たちに帰る準備をさせた。
「聖騎士学院の子達はどうします?」
教頭が校長を伺った。
「そ奴らはこちらで医療班を呼んでやろう。お主らはもう行って良いぞ」
その問いにラクリマ姫が答えた。
「それは助かります」
教頭が謝意を示す。
「では、あとはお任せしました。姫さま」
姫に一礼すると、校長は生徒たちを連れて闘技場を後にした。
ラクリマ姫はそれを見送ったあと、貴賓席の下まで行って、二人の姫にそろそろ帰るよう呼びかける。
「ラクリマ様もああ言ってますし、そろそろ帰りましょうかおもち様」
「そうじゃな、いいものも見れたし、そろそろ引き上げようか」
ペンネ姫の言葉に同意するおもち姫。
二人は席を立ち、ラクリマ姫に別れの挨拶をした。
◇
校長たちが生徒たちと合流する少し前、魔法女学園の教員たちは、プラリネの魔法で第四聖騎士団を蹂開していた。
「ぎゃー!」
「うわー!」
「やだー!」
錐揉み旋回しながら吹き飛ばされる聖騎士たち。
4800名以上の聖騎士たちがその魔法で沈められていた。
勝負が決したことを確信すると、校長と教頭がその戦いから抜けた。
倒れている聖騎士たちの精神支配を解いていく魔女たち。
観客席の一角で第一聖女アルマナと向かい合い切り結ぶ、宰相であり聖騎士でもあるルシェミ・キルスターシュ。
もはや、聖騎士で立っているのは彼だけだった。
闘技場の上部に取り付けられた映像用のボードには、他の場所でも聖騎士団が敗北している様子が映っていた。
◇
「姫さま戻りました。こちらも、もう終わりそうですか」
「姫さま、久しいですな」
突如となりに現れた人影をラクリマが見るとそれは、世界最強の魔女ミリ・ヴァレリアンヌと王立魔法協会会長のルシエル・ニルヴァネージュだった。
「そなたら遅かったな、他のところは無事に済んだのか?」
「ええ、まあ……」
ラクリマに問われ目元が泳ぐミリ。
「不肖の弟子が建物を破壊しまくって困りましたわ。修繕費用はミリに請求していただけますかな? 姫さま」
ミリの師匠であるニルヴァネージュが笑う。
「おほんっ! ともかく、うまくいきました。あとはあの男だけです」
ミリが話題を変えようと、ルシェミを指差した。
◇
魔法女学園の生徒たちが帰る際、医務室でチェルシーを寝かしていた首席魔法使いレイも呼びかけに応じて帰っていた。
レイが対戦相手のチェルシーを医務室につれていった時、医師は、「しばらく安静にしておれば大丈夫」と言った。
それを聞いたレイはチェルシーをベッドに寝かせて行こうとする。
しかし、ルシェミが使った大転移魔法で医師は転移させられて、いなくなってしまったので、レイはその側を離れられないでいた。
その後、しばらくして校長が呼びに来た。
ラクリマ姫が呼び寄せた聖騎士団お抱えの医師たちがやって来るのを待ってから、レイは校長の呼びかけに応じたのだった。
チェルシー他、聖騎士学院の生徒たちや、大人の聖騎士たちは、病院や寄宿舎へと——転移魔法が込められたアイテムで——転移させられた。
もはや逆転はあり得ないとみて興味を失った異国の姫2人も、すでに闘技場を後にしている。
今闘技場に残っているのは、聖女アルマナ、魔法女学園の教員5名、世界最強の魔女ミリ、魔法協会会長ニルヴァネージュ、ラクリマ姫、ベンシー含むラクリマの従者5人、宰相ルシェミ、そしてあと二人だけだった。
◇
「もう降参なさったら?」
聖女アルマナが、首をかたむけつつ聞く。
「もう勝ち目なんかないよ」
ミリもやってきていた。
「……」
二人から見据えられても、ルシェミは表情を変えなかった。
そして懐から何かを取り出す。
それを見たアルマナの顔色が変わる。
ミリにはそれが何かわからなかった。
「それは……、やめなさい!」
勝利を確信していた魔女たちだったが、聖女のその語気の強さに緊張が走る。
ルシェミは、黒い液体のようなものが中で浮いている、円筒形の呪印が施されたガラス瓶を高々と掲げた。
アルマナや、聖女の焦りを見てとったミリも止めようと前に出るが、足止め用の雷系の呪符を、ルシェミは周囲に放ち近づけさせなかった。
ガシャーン!!
雷が周囲を囲む中、その瓶は観客席の通路に叩きつけられ、黒い液体のようなものがベタりと地面に付着した。
そして、その黒い液体はモゾモゾと動き出した。
ルシェミは続けて、中にいるものを閉じ込める結界を張るアイテムを使う。
それは闘技場全体を覆う大きさの、軍勢を足止めする用のアイテムだった。
その結界を破壊する方法は、結界の防御を上回る魔法を叩き込むことだった。
「ははは、これでお前たちも終わりだー!」
さらに魔女たちの手札を減らすため、結界内を覆うアンチマジックフィールドを展開して、控え室の方へと走り去るルシェミ。
「待ちなさい!」
アルマナがルシェミを追いかけようとするのを、黒い液体が阻んだ。
大きく跳ね上がり、顔目掛けて襲いかかる。
聖女は寸前でそれをした。
「アルマナ!」
体勢を崩したアルマナを抱いて黒い液体から離れるミリ。
ミリは聖騎士たちとの戦いで魔力を消費し、魔法を撃つ余力が残っていなかった。
「なにあれ……」
困惑した表情を浮かべるプラリネ。
そして、距離をとるミリとアルマナを追いかける黒い液体。
「ミリさま! アルマナさま!」
ボワロンは黒い液体に向かって、未知の——聖騎士にとって——攻撃魔法を放った。
「いけません! 魔法は!」
放たれた魔法は、黒い液体に当たると吸収された。
魔法を飲み込んだ影響で、何倍にも大きくなる黒の液体。
「うっそ……」
「……」
驚愕の表情を浮かべるボワロンと、眉間にシワを寄せるミリ。
「……まずいことになったわね」
アルマナがつぶやいた。




