第54話 すきすき
「これ、『小鹿のドーナツ』先生の本じゃん」
リリエラが落としたのは『花冠のミルフィーユ』12巻だった。
「へー、聖騎士もこういうの読むんだ」
銀の苺のブローチを付けたチエロが、興味深げに言った。
リリエラはあわあわ震えている。
「そりゃあ読むでしょ、っていうか返してあげたら? ギータ」
バレー部キャプテンのギャレットが言った。
「うん、わかった。って、なんか折り目ついてる」
ギータが目ざとく見つけた。
「こらギータ、人の本勝手に開くのはやめなさいって」
常識人のデロアが言った。
ギータはその言葉に一瞬止まるも、好奇心が抑えきれずページを開く。
「あ、線も引いてある」
「こ、こら、やめろー!」
リリエラが手を伸ばし、走って近づく。
そしてまじまじと読むギータから、本を奪い取った。
リリエラは本を拾おうとした際、剣を地面に突き立てていたので、慌てて走って来た今は手ぶらだ。
「あなた、白騎士が好きなの?」
リリエラに笑顔で話しかけるギータ。
「う、うるさい! 私に話しかけるな!」
真っ赤な顔で下を向き、両手で本を抱き抱えるリリエラ。
「私もだよ。かっこいいよねー白騎士」
リリエラは後ろを向いて立ち去ろうとしたが、その言葉で止まる。
「白騎士のどういうところが好きなの? 私はね一優しくて賢いところ」
敵意のない、無邪気な笑顔を向けるギータ。
「……」
リリエラは背を向けたまま、チラチラとギータの方を見た。
「皇帝の世話を焼いてるところも好き」
なおもリリエラに話しかけるギータ。
リリエラは、今までこの小説について話す相手がいなかった。
軟弱な恋愛小説など読んでいては、聖騎士学院生徒会の名折れだと思っていたからだ。
「あとねー、主人公に気を遣ってくれるとことかも好き」
今、真後ろに話せる相手がいる。
しかも同じ殿方を好いている、同士だった。
指揮官として早く戻らねばならない身ではあったが、今まで溜まりに溜まった思いが抑えきれず、わずかだがこぼれてしまった。
「わ、私は白騎士がたまに天然なところが好きなの……」
リリエラがうつむきながら振り返らずに言った。
「あー、わかるー! いつも完璧なのに、たまにすっごく変な事するところがギャップがあっていいよね!」
言いながらリリエラの前に回り、さらにニコニコ笑うギータ。
リリエラはすぐに横を向き、目の前の少女から視線を外した。
しかし、チラリとギータを見た。
そしてほんのちょっとだけ、笑顔を返した。
次の瞬間、
「隙ありー!!」
「ぼげぇーツ!!」
ギータは、リリエラのみぞおちに思い切りパンチを入れた。
お腹を抑えて崩れ落ち、口から黒い霧を吐くリリエラ。
「えー!?」
「な、なんで!? 楽しげに話してたじゃん!」
驚く魔女たち。
「リリエラ!!」
「リリエラ先輩!!」
同じく突然の出来事に、動揺し動けない聖騎士たち。
「うん、だって今は悪い人に操られて私たちに酷いことしようとしてるんでしょ? だから元に戻ってもらって、友達になりたいなと思ったから殴ったの」
えへへと笑ってギータは言った。
「ははは、うちのギータは一味違うねー、やっぱり!」
ギータの言葉を聞いたチエロが、リリエラを担いで聖騎士たちに向かって突っ込んで行った。
それに反応してギータ、ギャレット、デロアも続く。
チェロは、担いでいるリリエラを騎士達の先頭にいたアジルに、
「この子返すよ」
と、抱き投げるそぶりを見せた。
卑怯な不意打ちでやられたリリエラに、まだ仲間意識が残っていたのか、アジルが抱き受けようとした。
瞬間、チエロは閃光魔法を前面に放った。
「なっ!?」
通常、状態異常を起こすような魔法は指種官がその防御を行うが、今はその指揮官がいなかった。
実戦経験もない初等科の聖騎士たちは、状態異常の防御を忘れていた。
目を抑えて顔を伏せるアジルや他の聖騎士たち。
リリエラを手早く地面に寝かせると、目がくらんだアジルの腹に一発入れるチエロ。
アジルは黒い霧を吐きながら崩れ落ちた。
事実上のトップ二人を失った上に、視界も奪われた聖騎士たち。
そんな彼らの腹をボコスカ殴りまくるチエロ、ギータ、デロワ、ギャレット。
「……あ、いかんいかん」
人質を使った、あまりに酷い戦術に、言葉を失っていたベル。
「みんな一行くよー! 聖騎士の腹を叩く! 私に続けー!」
しかし、立ち直って皆に号令をかけた。
◇
魔法は一度放つと、3秒間は次の魔法が使えない。
簡単な魔法であれば誰でも動きながら、僅かの詠唱時間で撃つことができるし、上位者であれば高位の魔法でも、約1秒ほどの詠唱で撃つことが可能だった。
しかし、極端に短縮できる詠唱時間とは違って、どんな簡単な魔法であっても一度魔法を放つと、再度魔法を撃つにはどうしても3秒必要だった。
世界最強の魔女ミリ・ヴァレリアンヌですらこの壁を越えることはできなかった。
体内のエネルギーが再び魔法が打てるまでに回復するのに、必要な時間と言われていた。
◇
プラリネが準備している魔法は、高い威力があるものの、複雑な術式を組み、詠唱にとても時間がかかるものだった。
その時間は約4分間。
詠唱中は無防備であるため、攻撃を受けることは致命傷になり得た。
詠唱を解除して攻撃を防ぐなどすると、また一から4分間をやり直さないといけない。
ノワゼット校長の「私たちが時間を稼ぐ」という言葉を信じ、魔法に集中するプラリネ。
プラリネが詠唱を始めるとともに、前に出る魔法女学園教員たち。
「思い知らせてやるよ!」
一年生の担任で、世界三位の魔女のボワロンが正面の4人の聖騎士を、一人で相手にする。
「行きますよ! 聖騎士さんたち!」
「行くぜー!」
左方の聖騎士4人を、美術教諭のラブラージュと音楽教諭のバニーユが抑える。
「させるかよ!」
「止めさせてもらいます!」
三年生の担任のザブリコとファンデュ教頭は、右方の聖騎士4人を相手にした。
プラリネの前にはノワゼット校長が立つ。
プラリネの詠唱を阻止しようと聖騎士たちが短剣を投げた。
また、魔法を放とうとした。
魔女たちは僅かな詠唱時間も与えないように、ロングロッドで打撃を打ち込み、それを阻止する。
投げられた短剣はノワゼット校長が、全て叩き落とした。
聖騎士たちの持つ大魔法は、都市を覆うような巨大な魔法防御結界を張るもののみだった。
攻撃用の大魔法はプラリネが開発した、彼女にしか使えない新魔法だ。
プラリネの新魔法は100以上あり、仮に聖騎士にこの魔法を解析されたとしても、まだまだ奥の手があった。
剣とロングロッドでの撃ち合いの中、数の優位により僅かな隙が生まれ、聖騎士学院の教員から一発の攻撃魔法がプラリネに向かって放たれた。
キシィーン!!
ノワゼット校長がカウンターマジックを発動し、その上位の炎魔法を術者へと跳ね返す。
自身が放った炎魔法を受ける聖騎士学院教員、しかし魔法のダメージを大幅に軽減させるマントで防御する。
マントは炎に焼かれ燃え尽きた。
炎魔法を跳ね返し、ノワゼット校長のカウンターマジックも砕け散った。
1秒も経たないうちに、続けて別の聖騎士が上位の氷魔法をプラリネに向けて放った。
お読みくださりありがとうございます。
カウンターマジックのルールを少し失礼します(O_O;)
複雑な術式を組む大魔法は、カウンターマジックでは跳ね返せない。
通常魔法は全て跳ね返すことが可能。
1秒間の詠唱を必要とする上位の攻撃魔法は一回しか跳ね返すことができない。
詠唱をほぼ必要としない低位の攻撃魔法は、十数回跳ね返すことが可能。
カウンターマジックで跳ね返された魔法は跳ね返せない(カウンターマジックを無効化する術式が上乗せされるとかそういう感じです)
しかし、跳ね返された魔法は防御魔法で防ぐ事が可能。
みたいな感じです。
こういうのは書かないと思っていたのにどうしてこうなった(O_O)スミマセンです
次回は来週水曜日朝更新予定です。




