第53話 落下するもの
魔法女学園の教員たちは目の前の相手に集中していて、両校の生徒たち同士が揉めているのに気づいていなかった。
「おねえちゃーん!」
「姉様ー!」
睨み合いの中心へと、ピノとディタが向かう。
「ピノ、危ないからさがってな」
「ディタ、こっちに来たらダメだよ」
姉二人が前を向いたまま返答する。
「って言われても、もう着いちゃった」
「姉様、言うのが遅いですわ」
到着してしまう妹二人。
「えー? も一」
「・・・ちょっとー」
緊張感のない妹たちに、困惑する姉二人。
「あー、収穫祭の時の怖い人たち!」
遅れてやってきたランセが、聖騎士学院生徒会の面々を指差した。
「人を指差すとは失礼な魔女だね、お前から始末してやろうか?」
アジルが邪悪な笑顔で言った。
「ランセちゃん、うちの妹と、その子の妹連れて後ろへ下がってくれない?」
ベルがランセにお願いした。
キースも、ベルを見た後、ランセに向かって頷いた。
「わかりました! 行くよピノちゃん、ディタちゃん」
恐ろしい笑顔を目の当たりにしたランセは、ピノとディタの手を取ってそそくさと、逃げるように後ろに下がる。
「お姉ちゃん頑張ってねー」
「姉様ファイトですわー」
姉たちにエールを送る妹二人。
「よーし、3年生は前に来て! それと、せっかく来てくれたのに悪いけど、2年生は3年のサポートをお願い!」
「はい!」
「ベル先輩、ギャレット先輩たち呼んできます!」
キース、ロザリエたちが返答する。
対する聖騎士学院側も動いた。
「こちらも三年生前へ! いつもの隊列を組むぞ!」
アジルが、声を発する。
お互いにやや引いて、隊列を整える。
リリエラが完成しつつある隊列の前で檄を飛ばす。
「アンチマジックフィールドは使わずにいく! 魔女たちの得意な魔法を叩き潰した上で勝ち、完全なる勝利を得るぞ!」
先ほどのベルの一撃の重さに驚いたリリエラは、剣の勝負一辺倒では手こずると判断した。
いくら剣が重かろうが、魔法で優位にたてば問題はないと考えていた。
「ふぁ~あ、なんか大変な事になったね、ベル」
大きなあくびをしながら魔法女学園生徒会長のベルに近づいて来るのは、チエロ・オランジュベール。
チエロはベル、レイ、と共に、成績優秀な上位3名に送られる銀の苺のブローチをつけていた。
「あんたいつも呑気よねー、見習いたいわ」
「いやいやベル、チエロを見習ったらダメだよ。ただのぐうたらなんだから」
ベルにツッコミを入れたのは、クラスメイトでバレー部主将のギャレット・ポルトサイダー。
本人曰く、ベルが生徒会長をやっていて主将を兼任できないため、仕方なくやっているとの事。
「あ、主将待ってたよ!」
「待たれても困るんだけど、あと主将って呼ばないで」
チエロとは別のベクトルでやる気がないギャレット。
「ベルー! 来たよー!」
続けて現れたのはギータ・ボンボン。
勉強はてんでダメだが、みんなができないことができたりする天才肌の、天然少女。
「ギータ! きてくれて嬉しいよ。またすごい技見せてよ」
「うん、任せて一」
ギータはオッケーのポーズをした。
「前に来たはいいものの、戦うってどうやるの?」
最後に現れたのは、デロア・コンフィノール。
バレー部リベロで常識人。
他にもクラスメイトたちが集結してくれた。
「私にもわからないけど、とにかくやるしかないの! みんな頼んだよ!」
ベルの勢いだけの、丸投げの檄が飛んだ。
「ベルの丸投げは、いつものことだからねー」
「しょうがない、やるかー」
そんな檄でも、なんとなくまとまる3年生たち。
魔女達がアンニュイな隊列を組んでいる時、空から大量の金色の雫が魔女めがけて降ってきた。
それを受けると、体の周りが金色に輝くオーラで包まれた。
「何これ?」
魔女も聖騎士も、その場にいた全員が困惑していると世界に轟く大拡声魔法が響いた。
「魔女達、今降り注いだのは妖精王の加護だよ。細かいことは後で話すから、とりあえずその状態で聖騎士の腹を殴って目を醒させてやんな」
世界最強の魔女ミリ・ヴァレリアンヌの声だった。
ミリは妖精国にいて、妖精王と話をつけたようだった。
飛行魔法を圧縮して放つことで、ミリは通常ではあり得ない速度で飛ぶことができた。
それを利用して一瞬で妖精国へと到達したのだった。
本人はその後、黒の妖精プリムを霊山に封印し、王立魔法協会の応援に向かうとの事だった。
「これで腹を殴ればいいってことか……。よーし!」
ベルは気合を入れた。
◇
金の雫が降るという謎の現象に動揺しつつも、聖騎士たちは魔女たちのようなザックリとした隊列ではなく、きっちりした隊列を整えていた。
「動揺するな、何も問題はない! 三年生、抜剣!」
リリエラが言いながら剣を抜く。
聖騎士学院三年生たちがそれに続く。
「一、二年は一斉に魔法で攻撃、三年は魔法着弾に合わせて突撃する! 一、二年、魔法詠唱始め!」
言いつつ剣を高く掲げた。
その時、リリエラの制服のポケットから一冊の本がバサリと落ちた。
「あ、」
「ん?」
「じー……」
隊列を組む際、お互いが少し距離を取ったので、魔女サイドからは何の本が落ちたのかは良く見えなかった。
ベルが目を凝らしていると、リリエラが拾うよりも早く、ギータがカサササっと野生み溢れる動きで落下物を回収して戻ってきた。
「ああっ!」
あまりのスピードに驚愕の声を上げるリリエラ。
「ベル、これ」
そしてにっこり笑ってベルに取得物を見せるギータ。




