第52話 来賓席にて
「おほんっ! 魔女たちに攻撃魔法の使用を許可する!!」
大王は何事もなかったかのように言い直した。
「さすがはフレジエ王国の大王様ですわ」
「堂々たるお言葉、お見事です」
ペンネ姫とおもち姫が拍手をした。
「噛んだのはともかくとして、父上、ここ数年のほうけはやはり演技でしたか。まあ、半信半疑でしたが、見事に騙されましたよ」
ラクリマ姫が笑う。
「ふふん、すまんな我が娘よ。聖騎士たちの様子がおかしい事を我も感じておってな、見極めねばならなんだのだ、許せ」
大王も笑顔でラクリマ姫を見る。
「娘が騙されるほどであれば、重臣たちもさぞや騙されたことでしょう」
「うむ、こんなことになるとは思わなんだが、あとは魔女たちに任せるとしよう」
大王は異国の2人の姫を見た。
「我は王都中心部へと向かうが、そなたらはどうする?」
その問いに異国の姫たちが答える。
「お許しいただけるのであれば、私は残らせて頂きたいですわ。聖騎士と魔女が集団で戦うところなど、なかなかお目にかかれるものではないですし」
「私も残らせて頂きたいです、大王。恥ずかしながら祭りには目がないので」
二人は笑顔を返した。
「父上、私も残ります。ことの顛末を見届けねばなりません」
(最悪の場合、わらわがあの宰相を斬らねばならぬしな)
ラクリマ姫が答えた。
「左様か、わかった。ではベンシー、3人の姫を頼んだぞ。くれぐれも怪我などさせぬようにな」
ラクリマ姫の後ろに立つ、黒髪の少年に声をかける大王。
「ふん、そんなの知るかよ。危なくなったら俺だけ一人で逃げさせてもらうからな」
「ベンシー、大王に対してなんじゃその口の聞き方は」
そう言いつつ、ラクリマ姫が指で印を結ぶと、
「痛ててて!! わかったからやめろー!!」
ベンシーの頭にはめられているリングが、青く光った。
そしてラクリマ姫の肩をバシバシ叩くベンシー。
ベンシー・ノワルシィルは、12歳ぐらいの黒猫っぽい雰囲気の少年だった。
しかし見た目とは裏腹に、彼は700年以上生きている。
いわゆる、ヴァンパイアであった。
500年前、創世の女王に討伐されそうになったベンシーは、最後に言い残すことはないかと聞かれ、
「続きを楽しみにしていた恋愛喜劇小説の連載が、再開するって発表があったんだ。夏の花火大会がどうなるかだけでも知りたかったな……」
と答えたことから、女王の眷属となることを条件に命を救われた。
女王もその恋愛喜劇小説のファンだったのだ。
それから500年もの間、ベンシーはフレジエ王国の王家に仕えてきた。
現在は、創世の女王の生き写しのようなラクリマに懐いている。
ベンシーは、創世の女王と自身がハマっていた恋愛喜劇小説を、ラクリマにも読ませようと何度もさりげなく面白さをアピールした、しかしラクリマは全然興味を示さなかった。
「お前も、こいつらも守ってやるから、帰ったらあの小説読めよ。感想聞かせてもらうからな」
「わかったわかった。 皆を守り切ったら3ページだけ読んでやるわ」
「はあー? 3ページだけとかないから! 全部読めよ!」
「わらわは忙しいのじゃ」
詰め寄るベンシーを押し除けるラクリマ。
「はっはっは、姫よ、たまにはベンシーの願いを聞き届けてやってはどうだ? 我らが生まれる前から王家に支えてくれているのだぞ」
「父上、こやつは甘やかしてはダメなのです」
「ラクリマは厳し過ぎだよ! ソフィアはもっと優しかったぞ! ……いてててててて!! もー!!」
「創世の女王さまを呼び捨てにするでないわ」
猫のように気まぐれで、すぐにどこかへ行ってしまいそうなベンシーだが、意外と律儀なところがあり、国と民を守るという創世の女王との約束を、今までずっと守ってきていた。
かつて城が火災に見舞われたときも、危険を顧みず王族や城で働くものたちを助け出し、命を救った。
その一件以来、ベンシーは人々から信頼されるようになった。
今までの人生では信頼などという言葉とは無縁だったゆえか、信頼されるのも嫌というわけではないが、居心地が悪かった。
ラクリマのように雑に扱ってくれた方が、ベンシーには心地良かった。
「もー! じゃあわかった。 3ページだけでいいから、読んで感想聞かせろよ」
「そういえば、メイドのマリーに今貸しておるから、あやつが読み終わってからじゃな」
「ッッッ! 人の本を勝手に貸し出すなー!!」
このようなやり取りは二人にとってはいつものことであった。
「はっはっは、では我は行くぞ。姫の従者たちよ、あとは任せた」
大王は自身の直属の配下である魔法重騎士隊とともに転移魔法でギャトー宮殿へと帰還した。
ラクリマ姫の背後には、ヴァンパイアのベンシーの他に魔法重騎士の精鋭4人がいた。
ペンネ姫の背後にはジェノベール騎士団筆頭、ミハイル・ヴェルミチェッリと配下4人。
おもち姫の背後には三大聖女に割って入るほどの実力の巫女、キヨメ・ケガレと配下4人。
いざという時、逃げるには十分な戦力だった。
◇
「皆の者落ち着け! 大王さまこそ魔女たちに精神支配を受けているのだ! 魔女たちを葬り去り、大王さまをお救いするのだ!」
ルシェミの言葉で、聖騎士たちは奮い立つ。
「口がうまいわねー、宰相さんは」
プラリネが関心したように言った。
「ともかくだ! 目にもの見せてやるから!」
ボワロンが吠えた。
「ミリとは連絡がつかない。フランベールと同じ条件で私たちもいきます。聖騎士たちを気絶させ、とらえるのです」
ノワゼットの言葉は、奥義を使わず勝つという意味だった。
「「「了解!」」」
校長の言葉に全教員が答える。
魔法女学園の教員たちは、元世界2位の魔女であるノワゼット校長を中心にして、円形の陣を組んだ。
先頭を一年の担任で、世界3位の魔女であるボワロンが務める。
右サイドには音楽教諭のバニーユと、美術教諭のラブラージュ。
左サイドには三年の担任のザブリコと、教頭のファンデュ。
最後列に二年担任のプラリネ、という陣形だった。
聖騎士学院の教員たちはデウス校長を中心にして、12名が魔女の陣形を取り囲むようにU字型に並んでいた。
「プラリネ先生、私たちで時間を稼ぎますので、あれをお願いします」
「わかりました」
ノワゼットに返答し終わると、プラリネは魔法の詠唱に入った。
目をつむり、手のひら同士を胸の前で交差するように合わせると、体が少し宙に浮いた。
それを合図に双方の攻撃が始まった。




