第50話 教師たち、生徒たち
聖騎士学院、デウス校長の正面には、聖騎士学院3年、生徒会長のチェルシー・キルスターシュが立っていた。
チェルシーはデウスの無慈悲な折檻にも、なんの抵抗も示さなかった。
そのチェルシーの横に立つ、魔法女学園校長レンタ・ノワゼット。
「これ以上体罰を続けるというのなら、力ずくで止めさせてもらいます」
デウスに対してそう言い放つ。
ノワゼットの言葉など意に介さないデウスが、右の張り手をチェルシーに繰り出した。
即座にノワゼットがチェルシーの前に出る。
左手でデウスの右の張り手を弾き返すと、自身の右手を、自身の左肩の後ろに回し、何もない空間をつかむように指に力を込めた。
その右手の指先に現れる魔法陣。
ノワゼットは、何かを思い切り引っこ抜くように右手を振り抜いた。
突如、その腕の軌跡を追うように様々な書籍がバサバサと現れ出て、渦となってデウスの前に壁を作った。
文学、哲学、科学、歴史学、魔法学、光に包まれた世界中の名著が乱れ飛ぶ。
魔力を本のイメージに変えて障壁を作る、ノワゼットの趣味が反映された防御魔法だった。
その時、闘技場が轟音と共に大きく揺れた。
ミリの魔法が炸裂した。
ノワゼットは魔法で壁を作ると、チェルシーを抱いて後退した。
チェルシーは半ば意識を失いかけていた。
轟音に動揺せず、ノワゼットの魔法を氷属性の防御魔法で相殺するデウス。
この国では攻撃魔法を許可なく使用するのは法律で禁止されている。
ミリはプリムを追う際、大王に攻撃魔法の使用許可を得ていたが、他の教員たちはそうではない。
制止する審判を押しのけて、後退する二人を追いかけようとする聖騎士学院の教員たち。
しかし、魔法女学園の教員たちがそれを阻む。
「ここは通さねえよ」
ボワロンが、先端にチョコレートブラウニーがついたロッドを構える。
その横には、プラリネ、バニーユ、ラブラージュが並ぶ。
「実力もないくせに、ほざくな」
聖騎士学院の教員がアンチマジックフィールドを使おうとした。
「アンチマジックフィールドは使うな、魔女どもだけに魔法を使わせてはならん」
デウス校長が止めた。
未知の魔法があるとわかったため、魔女だけが魔法を使える状況になるのをデウスは避けた。
未知の魔法があろうとも、既知の魔法は魔女たちより聖騎士の方が巧みに扱えた。
依然、聖騎士たちの有利は揺るがない。
◇
「チェルシー!」
ノワゼットが抱き抱えるチェルシーに、駆け寄るレイ。
「医務室へ」
「はい!」
レイにチェルシーを託すと、ノワゼットは再び前線へ向かう。
チェルシーを連れて、レイは反対側のゲートから出ようとした。
「待てよ」
後ろから声がかかった。
振り返ると、以前収穫祭で会った聖騎士学院生の生徒会員、リリエラ、アジル、アン、ジル、そして見知らぬ二人の生徒が立っていた。
「チェルシーを医務室に連れて行く」
レイはそう答え、行こうとした。
「そんなことはどうでもいい、オレと勝負しろ」
聖騎士学院3年のアジル・ドラムリンが言った。
「アジル、それは生徒会副会長たる私の役目、あなたは下がって」
聖騎士学院3年のリリエラ・スリーズがアジルの前に出た。
どうやって話をつけようかレイが考えていると、
「センパーイ!」
レイが絡まれているのを見て、魔法女学園の生徒たちが数名、観客席から闘技場へ降り立った。
それは二年のキース、ロザリエ、ユズ、バニラ、マルシュたちだった。
他の生徒たちとは違い、聖騎士学院生徒会の者たちと直接話した経験がある5人は、レイが絡まれていることにすぐに気づいた。
さらに、ゲートの中からも声がした。
「ここは任せて、チェルシーを頼んだよ」
見ると、魔法女学園3年、生徒会長のベル・キャラメリーゼがそこにいた。
「ベル! ロザリエたちとここをお願い、すぐ戻るから」
「戻らなくていいって、あんたも休んできな」
ベルが、レイから剣とネックレスを受け取る。
「うん、ありがとう。でもすぐ戻る」
頑固なレイは意志を曲げない。
「戻る前に終わらせときますよ」
バレー部の後輩であるロザリエが、レイに軽口を叩く。
「全く、自信だけは一人前ね」
レイはロザリエの方を向いて少し笑うと、
「じゃあ少しの間、お願いね」
医務室へと急いだ。
そんな魔法女学園生徒たちのやりとりを、リリエラはじっと見ていた。
そして、
「……無視してんじゃないよ!」
レイを追いかけ、抜剣し飛びかかった。
ガァンッ!
割り込んで来た影に、リリエラの剣は弾かれた。
「邪魔、させてもらいます」
ベルが立ちふさがった。




