第49話 聖騎士を統べる者 vs 世界最強の魔女
世界最強の魔女であるミリ・ヴァレリアンヌを貫こうと突き出された5本の剣は、地面に張り付く彼女の頭上で美しい扇子型を描いていた。
その剣を突き出すのは、聖騎士の中でもトップクラスの才能を持つものだけがなれるロイヤルガードたち5人。
他勢に無勢な上に、アンチマジックフィールドまで展開されていた。
そんなロイヤルガードの剣を、下からロッドで弾き飛ばすミリ。
その動きと同時に、背後から聖騎士を統べる者であり、最高の聖騎士の一人でもあるルシェミ・キルスターシュが突きを放ちミリへと迫る。
ルシェミの出した剣をかわしながら懐に飛び込むと、その顔目掛けて裏拳を放つ。
しかし、それはかわされた。
ミリとルシェミがすれ違う。
ミリはすかさず振り返り、ロッドを振り下ろす。
ルシェミは、それを剣で受けた。
ロッドを剣に引っ掛け、引いて崩しを狙いつつ、ミリは腰にぶら下げてある呪符を投げつけた。
ルシェミは力を逃すことで崩しをかわすと、ミリが投げた呪符を、腰から逆手で抜いた──稲妻を纏った──剣で裂き、ミリの上半身へ向かって斬撃を繰り出した。
ミリは上体を後ろに倒しながら斬撃をかわし、前蹴りをルシェミの腹に放つ。
前蹴りを受け後方に滑るルシェミ。
ミリは、前進してくるロイヤルガードたちに向かって火薬入りの小袋に火をつけたものを投げた。
それにより、ロイヤルガードたちの前進は止まる。
小袋を投げつつバックステップで距離をとったミリ。
「冥士の土産に見せてやるよ」
ミリを世界最強の魔女に押し上げた、得意魔法の構えに入った。
アンチマジックフィールド内でも、聖騎士によって解析、分析されていない未知の魔法は使用可能だった。
「!!?」
「な、なんなのあれは!?」
ミリは、自身の体を覆い隠すほどの光球──未知の風魔法の一種──、を一瞬で生み出すと、小指の先ほどの大きさに圧縮する。
圧縮が進むたびにブルブルと空気が震え、それを感じた肌が危険を知らせる。
ミリの魔法を止めようと投げ放たれた小剣は、その力場に入ると一瞬で勢いを失って落ちた。
動揺する、黒い妖精プリムと聖騎士たち。
それは、とてつもない密度が生み出した、魔力の宝石だった。
「光の加護〜!」
鍵を壊して後から入ってきた王国第一聖女アルマナが、聖騎士たちとプリム、および魔法の影響がおよびそうな範囲に、致命傷を防ぐ加護を施す。
今にも弾け飛びそうなギチギチに圧縮された光球を、ミリは投げ放った。
ズズーンッッッ!!!!
闘技場の一角が破壊され大穴が開いた。
◇
高密度に圧縮された魔法は、通常ではありえないほどの威力を発揮した。
それはミリの持つ驚異的な集中力と、暴れる魔法を抑え込む身体能力の二つが揃って初めてなせる技であった。
「修繕費、私は払いませんからね」
アルマナが冷たい笑顔で言った。
「聖女の力で、パパッと元に戻せないのかい?」
ミリが片方だけ眉を上げて、アルマナを見る。
「そんな術はありません。そうそう、念のためにこの術を」
アルマナはそっぽを向いた後、倒れている聖騎士たちに、直近の記憶を消す術をかけた。
この術は霊力の消耗が激しいため、1日に少人数しかかけることができない。
「あら、一人足りないようよ」
アルマナが顎に指を当てた。
ミリは、魔法を受けて伸びているロイヤルガードたちとプリムを見た、しかし、ルシェミの姿がなかった。
「仲間を盾にして逃げたか?」
そう言いつつミリは、手早くロイヤルガードたちを特別な呪法がほどこされた縄で縛り、プリムを魔法で拘束する。
そのタイミングで、扉を開けて魔法女学園の生徒が入ってきた。
「なんじゃこの穴ー! って、アミティア!?」
「おらー!!」
アミティアは──跡形もないが──絨毯の部屋に入ってくるなり、縛られているロイヤルガードたちに、妖精の加護をまとって体当たりする。
「ごはッ!」
「ぐふッ!」
「げヘッ!」
「がはッ!」
「ぎゃッ!」
腹に一発くらったロイヤルガードたちは、黒い霧のようなものを吐いた。
一仕事終えて、魔法女学園3年、生徒会長ベル・キャラメリーゼの方へとゆるゆる飛んでいくアミティア
「はあはあ、聖騎士ってあと何人ぐらいいるの?」
「ざっと、15000人ぐらいかな?」
ベルが笑顔で答える。
それを聞いて飛んでいたアミティアは、
「そ、そんなに・・・」
ベルの前で口から煙をはいて落下した。
「おおい! アミティア大丈夫かー!」
慌てて両手の平で受け止めるベル。
「妖精の加護で体を覆って、聖騎士どもの腹を叩く、か……」
それを見ていたミリが、つぶやいた。
聖騎士たちがプリムの黒いオーラの影響下にあることは、映像室に来る前にアミティアがミリとアルマナに話していた。
「妖精王の加護をあなたたちは持っているのでしょ? あとは、お仲間たちに聖騎士の腹を叩かせるだけで万事解決ではなくて?」
アルマナが思ったことを口にした。
「ああ、魔女たちは妖精を仰するものたちの集まりだから、妖精王の加護を持っている。ただそれは精神を守る加護だ。体全体に加護を纏って、それで相手を叩くなんて真似はできないのさ」
「えーそうなのですか、ではどうなされるおつもり?」
二人の会話にアミティアが割り込む。
「仲間たちは人間を怖がっているから手伝いに来てくれないだろうし……、妖精王さまとか会ったことないし、私一人じゃそんな大勢ムリだしどうしよう……」
アミティアの言葉に、ミリは顎に手を当て、
「うーん……」
目を閉じた。
ひととき、深刻な雰囲気が場を包んだ。
その雰囲気を打ち破ったのは、聖女アルマナだった。
「可愛い妖精さん、こっちを向いて〜!」
妖精ファンガールの聖女アルマナが、空気を読まずにへとへとのアミティアにじゃれついたのだった。




