第48話 文化
プリムが魔女に敗北し山の結界内に封印されたのは、約1000年前。
それからは、──蚊ぐらいのサイズの分身体だけ結界の外に出られたので──来るべき日のために世界を観察していた。
ある時プリムは見た。
魔女が聖騎士に敗北するのを。
そこからは聖騎士について調べる日々だった。
聖騎士は魔女より巧みに魔法を扱える騎士で、魔女の上位互換とも言える存在だった。
おまけに彼らは独自の信仰を重視したため、妖精王の加護を持っていなかった。
この事実に、プリムは小躍りするほど喜んだ。
気が狂いそうなほどの時間が過ぎた6年前のある時、都市化により自然が破壊され、霊山の霊力が弱まり、山火事が起こった。
その火災の影響で、結界が弱まる。
この好機に、ダミーの分身体を残しプリムは脱出した。
長年の調査の結果、聖騎士だけが食べる苺畑があるのをプリムは知っていた。
そこへ黒いオーラを撒くことで、ほぼ全ての聖騎士を黒いオーラの影響下に置くことができた。
効果はすぐに現れた。
良きライバル関係であった聖騎士と魔女だが、聖騎士たちは魔女たちを敵視するようになっていた。
◇
闘技場内で試合を終えた選手ふたりは、入念な医療チェックを受けた後、立ち上がると観客席に挨拶し、控え室に戻ろうとした。
別々の出口へと歩を進める、レイとチェルシー。
チェルシーがゲートから退場しようとした時、聖騎士学院のデウス校長が場内へと飛び降りた。
チェルシーの前に立ち、いきなり顔を張った。
騒然となる観客席。
5発、6発とビンタは続いた。
それに気づいたレイが止めに走る。
しかし、それよりも早くボワロンが到着した。
「おい、いい加減にしろよ」
ボワロンは、デウス校長の腕をつかんだ。
デウス校長は顔をほとんど動かさずに、ボワロンを睨む。
「手を離せ」
怒気を含んだ声が響いた。
睨み合うふたり。
「校長から手を離せ!」
聖騎士学院の教員たちが、闘技場内へ向かう。
それを見た魔法女学園の教員たちも、
「ボワちゃんの加勢に行くわよ!」
「おうよ!」
闘技場内へと降り立つ。
「おおい、コラコラ、待ちなさい!」
教頭は立ち上がり、飛び降りる教員たちを止めようとした。
しかし、間に合わない。
「あなたたちはここを動かないように」
振り返りそう言い残すと、教頭も闘技場内へ降りていった。
腕をつかんで睨みあう二人に、飛び出したボワロンを追いかけていた、魔法女学園のノワゼット校長が追いついた。
「ボワロン先生やめなさい」
そして、ボワロンの手をつかんでデウス校長から離す。
「うちの教員が失礼しました、デウス校長。しかし、今の折檻には教育的意味があるようには見えませんでした。無為に暴力に訴えるのではなく、言葉で語りかけるのが教育ではないでしょうか?」
「他校の教育に口出ししないで頂こう」
デウスは聞く耳を持たない。
「これ以上続けるというのなら、力ずくで止めさせてもらいます」
言葉での説得を一瞬で諦め、デウス校長を睨み付ける武闘派なノワゼット校長。
(おいおい、争いを止めに来たんじゃないのかよ)
審判はそんなノワゼットを見て、乾いた笑みを浮かべていたが、気を取り直して、
「両陣営とも席に戻ってください!」
場を取り仕切ろうとした。
しかし、次の瞬間、デウス校長はもう一度ビンタを繰り出した。
◇
ミリの前に立つロイヤルガードたちは、すでに抜剣している。
松明の明かりを受けて、青い鎧は紫みを帯びていた。
一瞬の睨み合いののち、ロイヤルガード5人は大きく踏み込むと、一斉に突きを放った。
それを、地面にべったり張り付くようにして避けるミリ。
頭上で交差する聖騎士たちの剣を、下から自身のロッド──先っぽにマーブルカラーのドーナツが縦に取り付けられた──で押し上げる。
直後、背後からルシェミが襲いかかった。
◇
太古の昔、過酷な自然環境で生き延びるために人々は様々な技術を生み出した。
魔法もその中の一つだった。
最初の魔法は、12000年前、妖精を信仰していた人々が、妖精王から力の一端を授かったところから生まれた。
それから時を経て、フレジエ王国のあるアルレア大陸では、6000年ほど前に魔法が生まれた。
火山地帯で生まれた「炎」魔法
氷雪地域で生まれた「氷」魔法
熱帯地方で生まれた「雷」魔法
砂漠地帯で生まれた「風」魔法
魔法はそれぞれの地域の生活や、文化に根ざす形で存在していた。
それから1000年後、急激な気候変動が起こった。
大陸の三分の一程が海に沈む。
人々は、土地を捨てて移動しなければならなくなった。
初期の魔法は、その土地が持つエネルギーを魔力に変換するものであった為、他の地域に持ち出せなかった。
しかし、魔法はそこで育った人々の誇りであり、文化の結晶でもあった。
なので、大地が沈みゆくまでの間に、魔法を持ち出すための技術が開発された。
そうして生まれたのが、体を流れる血液のエネルギーを魔力に変換する魔法であった。
魔女たちは体内にその土地の力を少量宿すことができたので、その力を体内エネルギーと混ぜ合わせて、土地の力がなくても魔法を使えるようにした。
魔法の威力は大幅に弱まったが、誇りと文化は守られた。
大陸各地で、同じように人々の大移動が起こった。
それぞれの地域で、同じように魔法を持ち出す方法が同時多発的に誕生していた。
こうして、離れ離れに存在していた魔法たちは出会い、新たな魔法が生まれる。
新たな魔法は、土地の力を利用していたときには得られなかった様々な効力を人々にもたらした。
また、新たに住み着いた土地では、大地の力が無いか弱すぎたため、そこに根差した魔法は生まれなかった。
そのような事情が重なり、時が経つにつれ原始の魔法は忘れられていった。




