第43話 反転
「決まったー! 秒殺ー!!」
吟遊詩人が拡声魔法で叫ぶ。
「おおー!」
「すげぇー!」
「先輩ー!!」
「フランベール!!」
観客席から様々な声が混じって大歓声となる。
「大丈夫かフランベール!!」
三年の担任のザブリコが声を上げた。
「レイちゃん!!」
「フランベールさん!!」
三年のクラスメイトたちが叫ぶ。
「先輩……」
「マジかよ……」
ショックを受け言葉が出ないキースと二年生たち。
「うそでしょ?」
「こんなのやだ……」
涙声のランセと一年生たち。
みんなが沈む中、ベルは最前列にある柵から身を乗り出すようにしながら叫んだ。
「レイー! 遊んでないでさっさと起きろー!」
ベルのその言葉を受けてか、倒れていたレイが反応し、モゾモゾと動いた。
カウントは7まで進んでいた。
「ザブリコ落ち着け、フランベールはさっきの一撃はかわしてる」
号泣するザブリコを落ち着かせようとするボワロン。
レイは打たれる瞬間、腰に刺したショートロッドを抜いてガードしていた。
「よくかわしたわ。でもロッドが壊れたみたいね」
プラリネが手を組んで言った。
レイはカウント9で立ち上がった。
「レイ選手立ち上がります!」
実況の吟遊詩人の言葉に続くように、場内は歓声と拍手に包まれた。
学園の生徒たちも歓声を上げた。
(全く、どうなってるの一体!)
状況を理解できないベルが一人呟いた。
◇
レイは怒っていた。
レイはチェルシーの事を信頼していた。
引き分けの作り試合でお互いの学校を守ろう、と提案して来たのはチェルシーだ。
大人たちの横暴を鼻で笑うような態度のチェルシーに、レイは畏敬の念さえ覚えていた。
それが、土壇場で裏切るような事をされた為、信頼感がそのまま怒りへと反転したのだ。
何か事情があるのかもしれないとも思ったが、友人に本気の殺意を向けていい事情などありえない。
それとも、はなから友人などではなかったということか? 3人で笑った時の、あの笑顔も嘘だったのか?
様々な感情が渦巻き、レイの思考は結論を出した。
(許せない、ただでは済まさないから)
レイは幼い頃、虐待まがいの鍛錬を受けていた。
その中で感情のタガを外す訓練も施されたせいで、切れると見境がなくなるのだった。
それゆえ、レイをよく知るものほど、彼女を怒らせようとはしない。
◇
レイは無造作に立つと、魔力を全身にみなぎらせた。
すると、纏っていたローブがそれに反応して真っ赤なアーマードレスへと変化した。
校長が渡した古風なローブは、持つものの魔力に反応して形を変える魔女専用の防具だった。
完璧そうに見えて、結構抜けたところのあるレイは今まで魔力を込めるのを忘れていたのだ。
ドレスとは言ってもアーマーである為、肩やデコルテ部分は覆われていて、硬質な素材に変わっている。
シャープなシルエットへと変化した上半身とは対照的に、ボリュームのあるフレアスカートは風もないのに緩やかにゆれていた。
それだけ見ればどこかの国の姫君にも見えた。
しかし、ボワロンから借りた茶色のとんがり帽子が、そうはさせなかった。
レイの魔力を受けてとんがり帽子も変化していた。
ツバやとんがりが長くなりよりゴージャスに、そして茶色から半透明の赤色の素材に変わり、『殺』という意味の単語が、白色で荒々しくデカデカと浮き上がって来たのだ。
(ちなみに特に特殊効果などはない)
「おお、かっこいい! のか?」
「えー、やば、あのドレスかわいー!」
「魔女がんばれー!」
「あー、もっさりがよかったんだけどなー、……でも可愛いから許す!」
観客が先ほどとは違う反応を示す。
「どーだ、参ったか!」
先ほどヤジった観客に対して、自慢げに言い放つボワロン。
「こら、やめなさい」
そして校長から止められる。
「さあ、ここからよ」
プラリネが拳を掌で勢いよく包んだ。




