第41話 勝負服対決
プリムは争いを好む妖精として生まれた。
様々な種族のものたちを争わせることが生き甲斐だった。
とりわけ人間を争わせる事を好んだ。
人間には感情がある分、プリムには面白く感じられたのだ。
プリムが右手から放つ黒いオーラを吸い込むと、人間たちは仲間だと思う範囲が狭くなり、攻撃性が高まった。そしてプリムの意識の影響を受け、その意識が向かう先の者たちと争いを始めようとした。
黒のオーラは三ヶ月に一度しか作り出すことができなかったので、様々な権力を有するものを狙って、プリムは黒いオーラを飲み込ませた。
しかし、少数の人間に争いの種を植えるだけでは、その周りの人間に集団で潰され、なかなか大きな争いにまで発展しなかった。
もっと多くの人間を同時に自分の影響下に置かなければならないとプリムは思った。
様々な失敗を経て、プリムは畑の土壌に黒いオーラを撒く方法を編み出した。
水に混ぜてもうまくいかなかったが、土壌では効果が現れたのだ。
効力は弱まったが、その畑で採れた農作物を通して人々の体に微量だが吸収され、多くの人間を同時に黒いオーラの影響下に置くことができた。
効力が弱まることで、争いは起こりにくくなるかと思われたが、人間たちの元々持っている性質によって、効力が弱まるというデメリットは無いのと同じ事がわかった。
人間たちは常に自分の生存を有利にする条件を求めており、自分の生存にとって不利になるとほんの僅かでも感じるだけで、怒りを滲ませた。
その性質を黒のオーラが少し後押しする事で、簡単に争いを始めたのだ。
この発見を経て、約5000年前、プリムは人間たちの住む大陸で国と呼ばれる集団同士を争わせた。
その大陸では、120あった国がプリムによって10年で30国にまで減らされた。
そんな折、ある国に魔女と呼ばれる奇術を使う者がいることを知った。
興味本位で近づいたところ、魔女は妖精王の加護を持っていて、黒いオーラの影響を受けていなかった。
そして、魔法と言われる奇術は人間の兵器などとは比べ物にならない威力で、プリムは発見されるや否や戦いに敗れ、霊山の奥深くに封印されのたのだった。
◇
レイはカビ臭い控え室を抜けると、入場ゲートへと向かった。
入場ゲートを抜け、観客席が顕になると歓声に迎えられる。
中には知った顔達もあり、気持ちが弛緩した。
学園のみんなに一度だけ手を振ると、それからはよそ見せず闘技場の中央へと進んだ。
闘技場の中央に到着すると、今度はチェルシーが入場してきた。
聖騎士の紋章が大きく金色で刻まれた白いマントをはためかせ、同じく金色の緻密な細工がふんだんにほどこされた白く輝く鎧を着ている。
その鎧には、ホワイトベリリウムという高硬度で希少な鉱物がふんだんに使われていた。
美しい曲線でデザインされたその鎧を、端麗な容姿のチェルシーが身に付けているさまは、まさにお伽話の英雄のようだった。
一方のレイはというと、美貌ではチェルシーに引けは取らないが、魔法女学園の制服の上に、校長から渡された古風な深緑色のローブを羽織って、一年の担任のボワロンが貸してくれた茶色のとんがり帽子をかぶるといった出立ちで、お世辞にも見栄えがいいとは言えなかった。
「おいおい、何だあの帽子は、ダサすぎるだろ」
「っていうかあのローブ、いつの時代の服なのかしら」
「ばあちゃんのお古かー?」
観客席から、嘲笑やヤジが飛んだ。
「あ、い、つ、らー!」
ボワロンが袖をまくって、ヤジる観客の方へ行こうとする。いつもなら二年の担任で友人のプラリネが止めるのだが、プラリネも若干の笑みを浮かべながら一緒に向かおうとした。そしてその二人を押しのけ三年の担任のザブリコが先頭に躍り出る。慌ててその他の教員が止めに入ったのだった。
幸いなことに、集中状態にあったレイには観客の声は届いていなかった。
◇
「もー、だから入場前に魔力を込めとけって言ったのに」
「魔力温存のためよ、仕方ないのよ、もうっ」
「次は許さんからな」
イライラが隠せないボワロンとプラリネとザブリコ。
そんな3人を尻目に、闘技場内では吟遊詩人によって戦う二人が紹介されようとしていた。
聖騎士学院生徒会長、チェルシー・キルスターシュの名が呼ばれると、観客たちは大声援を送った。
その声援には、国の最難関の試験を合格したものに対する羨望と、歴代聖騎士たちの働きに対する感謝の念、そしてただただ美しいものへの愛着が含まれていた。
魔法女学園首席魔法使いレイ・フランベールの方にも、チェルシーほどでないにせよ大きな声援が贈られた。
貴族風を吹かす聖騎士が嫌いな観客や、聖騎士に対して圧倒的に不利と言われる魔女が、この舞台に上がった事への賞賛と判官贔屓、完璧に整えられた見た目のチェルシーより、もっさりした格好のレイに親近感を覚えた者たち、などが声援を送ったのだった。
紹介が終わると、審判がルールの説明をした。
「どちかかが敗北を宜言するか、10秒間倒れたままでいるかで決着となる」
ルール説明が終わると、二人は少し離れた戦闘開始位置へと分けられた。
そして試合開始直前、拡声魔法を使った吟遊詩人の声が響き渡った。
「なおこの試合は、お互いの学校の承諾を得られた為、敗れた方の学校が廃校となる特別ルールで行われます」
観客席からどよめきが起こった。
「すごいルール」
「よく飲んだなそんなルール」
「そんなルールで子どもを戦わせていいの?」
「これが経費削減とか言ってたやつか?」
「魔法女学園側が言い出したらしいよこの話」
「御前試合は名誉なこととは言え、子供に背負わせすぎだろ」
荒れる観客席。
「え? あの人今なんて言った?」
「なんか、聞いてはいけないようなことを喋ったね」
「先生、今の本当なの?」
「先輩が負けたら学校なくなる?」
動揺する魔法女学園の生徒たち。
「心配いらないから落ち着けお前ら」
一年の担任であるボワロンが立ち上がり後ろを向き、上げた手を下ろすような動作で落ち着くよううながす。しかし、ボワロン自身も動揺を隠しきれないでいた。
学校がなくなると聞いて、パルフェ魔法女学園一年、ポンコツ魔女見習いランセ・ヴァレリアンヌは嬉しさのあまり反射的に両の拳を突き上げた。
「ランセ、あんたね……」
「ランセちゃん、笑えないよ」
ランセに白い視線を送るクラスメイトのピノとビート。
ランセは、おずおずとその両手を下ろして、すまし顔を作った。
「どんだけ学校嫌いなんだよ」
「しかしすごいルールだね」
「もしかしたらハメられたのかも知れませんわ」
意外と冷静な、同じくクラスメイトのエレル、ズコット、ディタ。
ランセ達のそのやりとりを見終えると、ボワロンは校長の方を見た。
校長は立ち上がって大きな身振りで、大王にジェスチャーを送り「どういうことなのか!?」と、問うていた。
しかし、大王は冷や汗を流しながら首を振るばかりで、話にならなかった。
「招待状を出された時点で、詰んでおったようじゃな」
大王の隣の席に座るラクリマ姫が目を細めた。
「あら、なんの話ですか?」
その隣の席のペンネ姫が扇子を閉じた。
「私も知りたいなー」
さらにその隣の席のおもち姫が楽しそうに言った。
「国家機密じゃから話せぬのじゃ、許せ」
ラクリマ姫の言葉に、二人の異国の姫は、
「ぶー」
「ぶー」
ブーイングを送った。
◇
自身も聖騎士であり辛相となったルシェミ・キルスターシュは、大王が廃校の条件を取り下げよと言いに来たのを、聞くふりをして袖にした。
そして、聴衆の面前で言い放つことで後に引けないようにした。
気弱な大王にこの場を収拾することはできないだろうとの考えからだ。
あとで時間をかけて説得すれば、大王は折れるとも思っていた。
もし折れなくても、折れさせるという覚悟が含まれていた。
ルシェミの「国のためを思えばこそ」という信念には嘘偽りはない。
「聖騎士がいれば魔女など不要」
「魔女の育成など無意味な出費でしかない」
「国の資金は無限に湧いてくるものではなく、不要な出費は抑えるべきだ」
ルシェミが常々思っている事だった。
王国民に知らしめるために、様々な方法を使ってその言説を流した。
また、招待状を断ったら不戦敗で、事を進める算段だった。
「さあて、魔女たちはどうするのかのう」
ラクリマ姫が口元を緩めて言った。
副審が試合開始を告げる鐘へと歩を進めた。




