第40話 ブルネラ大闘技場
例年通りなら、御前試合は王宮内のさほど広さのない演武場で行われるのが慣例だが、幸か不幸か、今回はルシェミ・キルスターシュの計らいで一般客を入れて『ブルネラ大闘技場』で行われることになったので、生徒全員が応援に行くことができた。
魔法女学園の全校生徒は大型馬車3台で闘技場に向かった。
その闘技場に入る為には、レジェ大橋を渡らなければならない。
真っ白いその大橋の両の欄干には、今にも動き出しそうな見事な闘士たちの像が、一定の間隔を空けて並んでいた。
歴代の名彫刻家が、時の人気闘士の像をしたためたものだった。
表情の読めないそれら闘士たちの像が、闘技場へと向かう人々を見送った。
橋を渡り切ると目の前にブルネラ大闘技場が見えた。
数え切れないほどの赤い柱と、精緻な細工が施された壁面、その上に真っ赤なドームが見える。
そして、天辺からドームを四つに分けるように十字に白いラインが入っていた。
屋根部分に等間隔で乗せられている苺のモチーフが、闘技場にはあまりに不釣り合いで、その異様さを増していた。
◇
「おーい、お前ら逸れずに先生についてこいよー!」
馬車を降りると、生徒達は列を作って場内へと入った。
一年の担任のボワロンが先導し、二、三年の担任と特別教諭が脇を固める。
しんがりは校長と教頭が務めた。
大闘技場の広い通路を進んでいると、途中、売店があり肉の焼ける美味しそうな香りが漂ってきた。
「あー、いい匂い」
ランセが売店の方を見ながら歩いていると、
「ダメだよランセ、遊びに来たんじゃないんだから」
ピノが注意する。
「わかってるよピノちゃん、言ってみただけだって」
「今日のランセちゃんは物分かりがいいね」
ビートがそう言うと、
「今日はレイ先輩の晴れ舞台だからね。買い食いなんてしないよ」
ランセはビートに笑顔を返した。
「もー、わかってるんなら変なこと言わないでよ」
眉間にシワを寄せるピノ。
「それにしてもすごい人数だよな、こんな大勢の前で試合なんて相当緊張しそう」
頭の後ろで手を組んで歩くエレル。
「レイ先輩は緊張なんてしないよきっと」
エレルに向かって首を振るズコット。
「相手のチェルシーは、キルスターシュ家の中でもトップクラスの才能の持ち主よ。レイ先輩には頑張って欲しいけど、相手が悪いかも」
弱気なディタ。
「レイ先輩だって、魔法女学園始まって以来の天才って言われてるんだから大丈夫よ」
強気のピノ。
一年たちがそのような話をしていた頃、生徒達の列の最後尾では、
「肉串三本」
「はいよ」
校長が買い食いしていた。
「校長! 何やってんの!」
怒る教頭。
「だって、あまりに美味しそうだったんですもの」
呑気な事を言う校長の肉串を奪い全て食べ尽くす教頭と、それをみて落涙する校長。
そんなこんなで、学園の生徒たちは観客席に到着した。
◇
観客席はすでに満員だった。
生徒たちは指定された席へと座った。
魔法女学園の生徒たちの座席は、王族たちが座る席の対面の最前列だった。
肉眼でも十分闘技場内の人が見える。
後方の席ではあまり視認性が良くない為、魔法で映像を映す技術が開発されていた。
ドーム上部に、大きな四面の白い板があり、それに拡大された映像が写される仕組みだった。
御前試合の開始時間になると、選手が入場する門から楽団が現れた。
楽団員たちは、赤いシャツの上に金のボタンのついた同じ赤のジャケット、同じく赤いタイ、そして赤いトラウザーに白いドレスシューズを履いていた。
指揮を務めるものだけが全身真っ白の異装だった。
ガヤガヤしていた観客たちが静まり、楽団が演奏を始めた。
行進曲のリズムに乗って、本日技を披露するもの達が入場してきた。
その中にはレイとチェルシーの姿もあった。
入場が終わると、大王お抱えの吟遊詩人が朗々と語りだし、この催しを開催することを決めた大王を称えた。
観客達から歓声が巻き起こる。
大王は立ち上がると手を挙げてそれに応えた。
(ふう、こんな大きな催しになるなど効いておらなんだが、ルシェミめ相張り切っておるな)
大王は呑気にそう思った。
「全く、何じゃこの騒ぎは」
足を組んで、肘置きに肘を立て顎を乗せた姿勢で、不貞腐れるラクリマ姫。
「わたくしは、こういうの嫌いじゃないですわ」
西の同盟国であるプリマピアット共和国からやってきたペンネ姫が、にっこりと笑った。
「私も祭りなら何でも歓迎だぞ」
東の同盟国のアカツブキ国からやってきたおもち姫が、ワハハと笑った。
ペンネ姫はラクリマ姫と同い年の15歳、おもち姫は一つ年上の16歳だった。
二人の他国の姫の背後にはそれぞれ5人の屈強そうな従者がいた。
◇
レイとチェルシーの試合は演目の一番初めだった。
レイは開会の儀が終わると即控え室に戻り、試合の準備を始めた。
控え室は戦うもの同士離れていて、顔を合わせることはない。
だがチェルシーと顔を合わせなくとも、試合の流れは頭に入っている。
(まずは下段の斬り上げをかわして、斬り返すだな)
頭の中で何度も練習した殺陣を思い出していた。
「レイ・フランベール殿、まもなく試合となります。闘技場へ向かってください」
「はい」
闘技場を運営する職員に呼び出され、レイは戦いの舞台へと向かった。




