第38話 新魔法
収穫祭の前日。
レイは、校長室で担任のザブリコと共に、御前試合に招待されたという件の説明を受けていた。
「折角の機会だし、受けようかと思うのだけれど、あなたの意思を確認しておこうと思って今日は来てもらったのよ」
校長は、組んだ手を重厚なルベリウム材で出来た机の上に置いた。
「相手は誰なんですか?」
立ったままのレイが問う。
「ピカビア聖騎士学院、三年、生徒会長のチェルシー・キルスターシュという子よ」
突然旧友の名が飛び出し、レイはやや驚いた表情を浮かべた。
しかし、その後微笑する。
「わかりました。またとないチャンスですし出場させてください」
「そう、じゃあこの書類にサインして」
校長の差し出した書類を見ると、
『敗北した方の学校を廃校とする』
という文字が見えた。
「これは?」
「そこの部分については今対応中だから、気にしなくても大丈夫よ」
「お前は、自分の実力を発揮して戦えばそれでいい、細かいことは気にするな」
校長も担任のザブリコもそう言うが、気になる内容だった。
「負けてもこの学園は無くならないんですよね?」
「ええ、そうなるように今動いてるところよ」
なかなか歯切れの悪い回答だった。
「こんな名誉な機会は滅多にないぞ、心配しなくても大丈夫だからお前の実力を見せてやれ」
ザブリコに促され、また、自分でも興味はあったため、あまり深刻に考えずに、レイは書類にサインした。
◇
収穫祭の翌日。
レイ・フランベールが御前試合に出場することが正式に決まり、全体朝礼にてそのことが発表された。
校長から促されて、レイは朝礼台に登る。
「この学園の名に恥じない試合をしたいと思います。以上です」
試合当日は、同じ幼稚舎の友人であったチェルシーと、両者引き分けの『作り試合』をやると密かに決めていたため、後ろめたさもあってそそくさと朝礼台を降りた。
そのことが逆にクールでカッコいいと評判になり、元々多かったレイのファンがさらに増えた。
◇
御前試合の発表があってから、レイにプレゼントするために、キースを中心として2年生たちは新しい魔法の開発を始めようとしていた。
各地の図書館を巡って古文書を紐解いた結果、朧げな作り方は判明したものの、そこから先に進むことが出来ず、いよいよお手上げ状態となった。
そんな生徒たちを見て、担任のプラリネはちょくちょく茶々を入れた。
茶々を入れつつ、それとなくヒントを与えて導いた。
世間には秘密にされているが、魔法女学園の生徒達は高等科を卒業する際、それぞれの特性に合わせてまだ世に知られていない魔法を一つ伝授される。
奥義は一部の者にしか伝承されない為、一般的な魔法使いにとって、この魔法が聖騎士や既知の魔法に対応してくる相手に対する切り札となる。
プラリネはその魔法の伝授を断った。
「人と同じ魔法はつまんない」
新しい物好きの彼女は、自分で新魔法を編み出すと言った。
高等科の教員たちやほとんどのクラスメイトたちは呆れていて、誰もそれができるとは思っていなかった。
新しい魔法が最後に生み出されたのは40年も前だった。
もう魔法は出尽くしたと、魔女たちの間では言われていた。
プラリネはキラキラと輝く綺麗なものが好きだった。
自身を飾る、綺麗なものにばかりこだわる姿勢を見せる彼女に、魔法もアクセサリーと同じようなものとしてみているのだろうと、クラスメイトに陰口を叩かれたこともあった。
初等科の頃から、プラリネはロッドに魔力を込め、魔法が発動する手前で消すことを繰り返していた。
魔力が集まり、魔法へと編み込まれていくさまが綺麗なことと、先人達の工夫したあとや、その大きな時間の流れを感じて、気持ちが沈んでいる時でも気が紛れるからだった。
ある時、それぞれの魔法発動の綺麗さについて友人に熱く語ったことがあったが、
「なに? どうしたの? そんなに急に熱くなって」
「そんな違いあるかー?」
などと仲の良いボワロンやムーランに言われ、そのほかの友人にも理解を得られなかった。
飽き性のプラリネだが、魔法を見るのだけは飽きずに何年も続けた。
そうして繰り返すうちに、
「もっとこういう色のがあればいいのに」
「こういう編み方してみたらどうなるんだろ」
「大きくはみ出したものが見たいな」
などと思うようになった。
新しい魔法を作ると決めてからは、普段ののほほんとした雰囲気とは打って変わって研究室に閉じこもり没頭した。
やることはいっぱいあったが、気づけばどんどん成果が上がっていた。
今まで思い描いてきた魔力の形や、編み上げ方、魔性色素の組み換えなどを試しては修正して、何度も何度も繰り返した。
思ってもみないことだったが、その時自分は魔法が好きなのだと気づいたのだった。
そして新たな魔法が完成し、皆を驚かせる。
それは見た人の気分を上昇させる、艶やかで魅力的な発動を持つ魔法だった。
プラリネは独特の発想とセンスを持っていた。
そうしてプラリネの密かなアドバイスを受けた二年生たちは、御前試合の5日前、ついに新しい魔法を完成させるのだった。
新魔法の完成に、クラスは歓喜に包まれた。
「さすが私の教え子たちね!」
そしてプラリネは誰よりも喜んだ。
「なんで先生が一番喜んでんだろ?」
「ねー、先生何もしてないのにね」
「いやいや、先生は茶々入れ係としてみんなに協力してくれてたから」
「私も茶々入れ係りがよかったー」
などと暴言を吐く教え子達。
「でも、先生の茶々のおかげで気づけた事何回かあったよね」
バニラがキースの方を向いた。
「うん、もしかしたら意外とそういう風にアドバイスしてくれてたのかも」
事実に気づきそうなキース。
「ええ? そんなー、まさかー、考えすぎだよレモちゃん」
「ねー、たまたまでしょー?」
「そんな回りくどいことしないと思うよ先生は」
プラリネが普段見せない一面のため、信じきれないユズとビスキュイ姉妹。
「でも本当に新魔法ができるなんてね、思いもしなかったよ」
興奮気味のロザリエ。
「よーし、みんな頑張ったから、今日は先生がケーキを奢ってあげるわ。好きなもの何個でも食べなさい!」
教え子達の暴言も、今日は聞き流せるプラリネだった。




