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第32話 御前試合



「いや一終わってみればあっという間だったな」

「ねー、姫さまも案外学園のこと考えてくれてたし、王族に味方がいるのは心強いわ」


 海辺にあるレストランの2階、オープンテラスで食事をするボワロンとプラリネ。


「私の教え子たちも頑張ってくれたし、けど、ホント全員成功させるなんて思わなかったわ」


 言い終わると、プラリネはシャンパンを一口飲んだ。


「あんたね、いくら姫さまから言われてたからって、生徒たちをほったらかしにしすぎ。ちゃんと担任として責任持たないとだめでしよ、全く」


 プラリネを睨むボワロン。

 それに対して、てへ、と照れ笑いを浮かべてノーダメージのプラリネ。


「ごめーん、遅くなって」


 しばし遅れて、二人の元同級生のムーランがやってきた。





「へー、じゃあ大王さまも納得して帰っていったんだ」


 ムーランがサラダをつつきながら聞いた。


「そうなのよ、校長ともご機嫌で話して帰っていったんだから。大王も力のある騎士にせっつかれて仕方なく来たって感じだったんでしょ」


 チーズとほうれん草の入ったたまご料理を食べながら、プラリネが言った。


「まあ、また何か仕掛けてくるかもしれないけど、とりあえず今回は事なきを得たってわけ」


 香草をまぶして焼き上げた魚料理を食べながら、ボワロンが言った。


「今年は御前試合があるんでしょ? そこで何かしてくるんじゃない?」


 ムーランはそう聞くと、サラダをつつくのをやめて二人を見た。


「だよねー、やっぱりそう思うよねー」


 フォークの柄でムーランを指差すようにしながら、プラリネは言った。


「まあ、いざとなったらミリ様に相談だな」


 言うとボワロンはワインをぐいと飲んだ。





 フレジエ王国、王都プルガステルにあるギャトォ宮殿。

 何層にも重ねられた巨大なイチゴのケーキのような形をしたそれは、シンメトリックな庭園の中にそびえ立っていた。

 国の象徴である建築物に相応しい絢爛な外観は、ある種の威圧感を感じさせた。


 宮殿内の廊下を歩く大王に、キルスターシュ家当主のルシェミ・キルスターシュが声を掛けた。


「これは大王さま。お戻りでしたか、視察の方はいかがでした?」

「おお、ルシェミ。うむ、みなよくやっておったぞ。お主の心配していた事も杞要であったわ」


 ルシェミの視線を受けて、大王に付き従う伴の聖騎士が、ルシェミに頷いた。


「左様ですか、それは王国にとっても良き話でありますな」

「そうじゃな、まだまだ我がフレジエ王国は安泰であろうて」


 そう言うと、ルシェミの前を上機嫌で笑いながら、大王は通り過ぎていった。

 大王を見送った後、ルシェミは片腕を組み、もう片方の手を顎に添えた。

 

 ルシェミがキルスターシュ家の当主となり、大王の補佐役となったのは3年前。

 以降、ことあるごとに魔女と聖騎士の間の実力差を大王に説き、魔法女学園を廃校に追い込もうとしていた。

 国軍としては聖騎士がいれば十分であり、魔女を育てることなど無意味だと考えたからだ。

 ルシェミは意味のない事が嫌いだった。


 藁斬りの失敗を見せつけ、実力差を明確にさせることで大王を学園廃校へ誘導するつもりが、魔女たちは以外にも成功させたようだった。


(となると……、御前試合か。直接ということになるな)


 御前試合は4年に一度、ルシェミが当主となってからは初めての試合だった。

 しばらく思索に耽ったあと、組んだ腕を解いたルシェミは、


「まあ、それも悪くない」


端麗な容姿に、無表情で言った。





「チェルシー様、チェルシー様は今度の収穫祭どうされますか?」


 ピカビア聖騎士学院は、巨大な3つの白いキューブで構成されていた。

 左のキューブが初等科、真ん中が高等科、右が中等科の校舎となっていた。

 

 キューブの角は落とされ、少し丸みを帯びている。


 それぞれ、キューブを逆さまにして赤い絵の具に5分の1ほどを浸けたように、上部が透明感のある赤色で塗装されている。

 言われてみればケーキに見えなくもない、そんなミニマルな外観をしていた。


 学院内部は1階から7階まで吹き抜けになっていて、各階へは飛行魔法での移動が前提の設計になっていた。

 そんな中、数冊の本を胸に抱えながら歩く少女の問いかけに、その前を行くチェルシーと呼ばれた少女が答えた。


「特に、まだ決めてないの。あまりそういう事には興味がなくって」


 声がかけられた方を向く事もなく、艶のあるミディアムヘアを風で揺らしながら、チェルシーは颯爽と歩いた。


「そ、そうですよね、チェルシー様にはあのような庶民の祭りなど、相応しくなかったです。変なことを聞いてしまってすみません!」


 チェルシーの後ろを歩いていた少女は、そう言うと勢いよく頭を下げた。


「いいのよジル、気にしないで。それより食事にしましょう。もうお腹が空いてたまらないわ」


 また、背後を確認せずにチェルシーは言った。


「は、はい!」


 ジルと呼ばれた少女は頭を上げると、少し嬉しそうに前を行く少女を追いかけた。


 ジル・プレドーは聖騎士学院、初等科の一年生。

 入学試験及び、学内の前期試験で上位の成績をとるという要件を満たし、生徒会に入った。

 生徒会長であり、憧れの先輩であるチェルシー・キルスターシュと知り合いになれた事で、ジルは舞い上がっていた。







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