ハレスの正体
アップでの動きを見る限り、ドリブラーズというチームも結構、レベルが高いように思えた。
ドリブラーズの選手はファイターズのように全員男性選手で成り立っているチームである。
「それでは、ドリブラーズのオフェンスから始めてください!」
ボールを持っている相手の五番は軽くドリブルすると、そこから見事という他ないドリブル術を披露した。
幾度となく連続で膝下にボールを通すドリブル技術、レッグスルーを繰り返す。まさに魅せるバスケ。
先ほどの試合、見事なディフェンスを見せたエレメンツの五番も少なからず動揺しているのが分かった。
ゆっくりとドリブラーズの選手がディフェンスとの距離を詰めると、ドリブルしている手を持ち帰るクロスーバー、そしてボールを自身の背中側から逆方向へ移動させ、逆の手に持ち替えて相手選手を突破するビハインド・ザ・バックを交互に使い、あっさりとエレメンツの五番を抜き去った。
「カバー!」
エレメンツのキャプテン、アイリが指示を出すと、エレメンツの六番の選手がカバーのディフェンスへと入った。
そこですかさず、フリーで待ち構えていた選手に正確なパスを出すドリブラーズの五番。
フリーでボールを貰った選手は落ち着いた様子でシュートを打ち、スリーポイントシュートを決めた。
「相手チームも中々レベルが高いわね」
「ああ、確かに」
俺はリオンの意見に賛成だった。
ワンプレイ見ただけであるが、さすがはアマチュアリーグの選手と言わざるを得ないほどの実力である。
「アイリ!」
エレメンツのキャプテン、アイリはボールを受け取るとトリプルスレットの体勢を取る。
打つか、それともパスか、抜いてくるか。
「チェック!」
シュート体勢に入ったアイリに対し、ドリブラーズの四番はシュートチェックをした。
しかし、アイリはスリーポイントラインから一メートル後方までドリブルでステップバックした。
「な……!」
さすがに予想外であったのか、ドリブラーズの四番のディフェンスが遅れた。
「「打って! アイリ!」」
味方の声を聞き、すかさずロングスリーポイントシュートを放つ、アイリ。
ボールは綺麗に縦回転がかかっており、リングに触れることなく、ノータッチで入った・
「「「「おおお!」」」」
俺たち四人は今のスーパープレイに思わず、同時に叫び声を上げてしまった。
「す、すごい! 見たユウタ? 今の?」
「あ、ああ。あの距離をあっさりと。これはすごい」
「あの強大なるシュート。我もぜひ自分のものにしたい!」
「こ、これは絶対にスカウトしないと!」
先ほどは若干スカウトにネガティブな様子だったラグリーがあっさりと傾いた。
その後の試合はというと、一度もお互いがディフェンスに成功することはなかった。
やがて八対七でエレメンツが一点差リードされた状態でのドリブラーズの攻撃の機会がやってきた。
「ドリブラーズがスリーを決めることができれば試合が終わるわね」
「確かに。どっちが勝つのか、正直読めないな」
コートからピリピリとした様子が伝わってくる。両チームとも凄まじい集中力でプレイしている。
「ボール! ボール! ボール!」
エレメンツの五番は積極的に距離を詰めて、相手にプレッシャーをかけた。
あれだと簡単にドリブルで抜かれてしまうが、スリーだけは打たせないという作戦だろう。
逆言えば、最悪ここは二点シュートとを決められてしまってもエレメンツからしたら構わないということだ。
ドリブラーズの選手はすかさずドリブルで相手を抜くが、誰もヘルプにはやってこない。
他の二人は自分のマークにピッタリとついていた。
無人のゴールへとレイアップシュートをし、決まる。これでスコアは八対九。
そうしてやってくるエレメンツの攻撃。
「アイリ!」
アイリがスリーポイントラインの外でボールを受け取る。あと二点入れれば勝利するエレメンツからしたら、特にスリーポイントにこだわる必要はない。
相手も二点シュートでくるかもと考えているためか、少しアイリから距離を取ってディフェンスしていた。
だが、俺は直感した。これは……
「打つわね」
リオンがそういった次の瞬間、何の躊躇いもなく、アイリは先ほどの試合、俺が最初のオフェンスでやったようなノーフェイクでのシュートを放った。
「何……!」
あまりのクイックモーションにディフェンスはブロックに飛ぶことすらできない。
アイリが打ったシュート。これはノータッチで決まる。
試合は十一対七で幕を閉じた。
「いやぁ、すごい試合だったね」
ラグリーが深いため息を吐くと、感動した様子で試合の感想を述べた。
「確かに。正直、あの四番のシュートを止めるのは俺とリオンでも難しいかもしれないな」
「なるほど。そこで我の出番というわけだな。あっはっは!」
「違うわよ! こうしちゃいられなわね! 二人とも、戻ってすぐに練習。そして、作戦会議よ!」
リオンがそう言うので、俺たちはラグリーの魔法でエンジェルライトの体育館に戻った。
暗くなるまで練習した後、センターラインに円になって集まり、早速明日の試合について、話し合うことにした。
「まずは何ていってもあのアイリっていう選手よね! 私とユウタ、どっちがマークする?」
「アイリはリオンに任せたい。俺は五番をマークする」
二試合見たところ、ゲームメイクをしているのは基本的にはあの五番のようである。同じ司令塔である俺がマークするのが妥当であろう。
「では、我は六番だな?」
「ああ。良いか、ハレス。ピッタリとマークするんだぞ。スリーもしっかり止めるよう頑張ってくれ」
「うむ! 任された」
「あの三人を勧誘するかどうかはみんなにかかっている。負けたチームがうちに入りませんか? って言うのも変な話だからね」
ラグリーがの意見ももっともであった。勧誘するのであれば、勝たないと示しがつかないだろう。
「勝つさ。必ず」
自信を持って俺はラグリーにそう告げた。アイリという選手、あの選手の力は必ず大きな武器となる。
「な、なぁ。みんな。本当にあの者たちを勧誘するのか?」
ハレスが心配そうに訊いた。
「何だ? 嫌なのか?」
「い、嫌というかその……」
ハレスは何やら言いづらそうにモジモジとしていた。
「もしかしてハレスはあの三人が入団すると試合に出れなくなるかもしれないって思ってるの?」
リオンがそんな推測を述べると、図星とばかりにハレスの表情が強張った。
「ち、違う。そうなんじゃ……」
「じゃあ、何なの? まさか、試合に出れなくなるのが怖いっていうんじゃないでしょうね?」
真顔でリオンはハレスを見つめた。ハレスは泣きそうな顔をまずいな、これは……
「もういい! ちょっと、外に行ってくる!」
憤怒したハレスは、そのまま外へと出てしまった。おいおい、またまさか家出(家じゃないけど)する気じゃなないだろうな。
「ちょっと、リオン。今のは言い過ぎだよ。後で謝っておいた方がいい」
見かねたラグリーがリオンに謝るよう促した。
「確かに少し言い過ぎたかもしれません。けど、ハレスをこのチームに置いて良いのか私は正直、私は疑問に思います」
「え? どういうことだい。リオン?」
「ハレス……多分、魔王の娘ですよ」
突然の衝撃の事実に俺は動揺を隠しきれなかった。魔王?
「魔王の娘!? そんなバカな! 魔王は娘を溺愛して、一歩も家の外から出さないって噂じゃ……」
ラグリーはひどく狼狽した様子で説明した。魔王さん、娘離れできていないお父さんみたいである。
「ハレスがここにやってきた日。ユウタから聞いたんです。ハレスは家出をしてこの街に来たって。そして、自分を高貴な血筋を持つものだと名乗ったみたいです。もちろん、これだけじゃ魔王の娘っていう証拠は薄いんですけど、私、十年くらい前に魔王にあったことがあるんです」
「ま、魔王に!? 一体、何の目的で」
俺が訊くと懐かしむような口調でリオンは説明を始めた。
「クエストとしてね。バスケを始める前はそれなりの名を挙げていた冒険者だったのよ。魔王を討伐しに行ったんだけど、三日間ずっと戦ってたのよね。決して倒すことはできず、諦めて帰ってきたわ。魔王と戦ったからこそ分かるの。魔族のオーラが」
「魔族の……オーラ……」
俺には何も感じなかったが、きっとリオンには感じたのだろう。
「ええ。会った瞬間感じたわ、この子は魔王と何か関係あるって。それでユウタの話とか今朝見たハレスが無意識に作り出した黒いオーラを見て、魔王の娘だって思ったわ。だから、スリーオンスリーの大会が終わったら家に帰るよう私から説得するわ。魔王が私と一緒にいるなんて知ったら、間違いなく魔王はペンディスを襲ってくるでしょう。そうなれば、街はパニック。バスケどころじゃなくなるわ」
「魔王の娘か……それが本当なら確かに問題だね」
この様子だと、ラグリーもハレスをこのチームに置いておくのには賛成できないようである。
「おい、待てよ。本当にハレスをチームから追い返すのか?」
「お、追い返すって……違うわよ! 魔王の元に返すの! スリーオンスリーの大会が終わったらね。しょうがないでしょ!」
「しょうがなくない!」
思わず叫んでしまった。間違っている。絶対に、そんなのは間違っている。
「なんなのよ! 何がおかしいっていうの?」
「この数日間、あいつのことを見て分かった。あいつには才能がある」
「わ、分かってるわよ。そんなこと! けど、それとこれとは話が別よ」
「別じゃない。俺は見てみたいんだ。同じチームメイトとして、これからハレスがどんな進化を遂げるのか。あいつを手放すには惜しすぎる人材だ」
リオンは何かを喋ろうとしたが言葉をぐっと飲み込んだ。
「それじゃ、どうやって魔王を説得するっていうの? まさか、ユウタが魔王を倒しに行くっていうわけじゃないでしょうね?」
「無理だな。瞬殺されるだろう」
魔法も使えない、武道の心得もまるでない俺が戦っても殺されるのがオチだ。
「なら、どうするっていうの? 言っておくけど、私は魔王と戦う気はないわよ。この街は一応、魔王とはお互いに危害を加えない限り停戦するっていう条約を交わしているからね」
「構わない。この大会が終わったら、魔王の元に行き、説得しに行ってくる」
「はぁ? 何言ってるの? 魔王はとんでもないくらい親バカって言われてるのよ。絶対に殺されるわ」
「リオンの言う通りだ。いくらなんでも危険すぎる。裕太、やめておいた方がいい」
ラグリーも魔王の元に行くことを止めたが、俺の気持ちは変わらない。
「いや、辞めない。魔王が親バカなら、俺はそれ以上のバスケバカだからな……ハレスのことを探しに行ってくる」
俺は二人から離れ、一人でハレスを探しに外へと向かった。




