新たなる一歩
「くそ、いねぇな……」
ハレスを探すべく、俺は手始めに体育館の周りを探してみたが、なかなか見つからなかった。
いつの間にか、体育館から離れたところに来ていた。周りには雑草林ばっかり。気がつくと俺は森の奥深くを彷徨っていた。
一旦、戻るかな。迷子になったら困るし。俺は来た道を戻ることにした。
歩くこと五分。どういうわけか、更にどんどん森の深いところまで来てしまった。
「やばい……迷った」
空を見ると、地球で見る月くらいの大きい星が赤色に怪しく光っていた。
すると、木の陰から『ガサッ』という音が聞こえて来た。
「ヒィ!」
びっくりして俺は思わず情けない声を上げてしまった。木の陰から現れたのは、なんと白い毛をした狼のようなモンスター三匹だった。
こちらを睨み、「ぐるるる……」とこちらを威嚇していた。
あー、なるほど。そういうことね。完全に理解した。
「うわあああああ!」
気がつくと、いつの間にか足が勝手に動いていた。
食べられる。絶対に食べられる。
背後から迫り来る気配を感じた。『ガサゴソ』と奴らが追ってくる足音が耳に入る。
「うわ!」
道に落ちてあった、大きな石に足を取られ、盛大にこけてしまった。
「いててて……」
起き上がると、狼のようなモンスターが高くジャンプしているのが視界に入った。
鋭い犬歯をむき出しにし、俺の頭に齧り付こうとしていた。
あかん。俺死んだ。この世界に来て、まだ一週間も経っていないのにである。
ありがとう。ラグリー。そこそこ楽しかったよ。
可能なら次もバスケットができる世界に行かせてほしい。
そんなことを思った時。
「マジックバレット!」
黒色のエネルギー弾のようなものが俺の横から飛んでくると、俺を食べようとしたモンスターに直撃した。
ふと、エネルギー弾が放たれた方向を見ると、右手を突き出したハレスが立っていた。
「は、ハレス!」
狼のようなモンスターはハレスの攻撃を喰らい、「クゥン……」と可愛らしく犬のような鳴き声を出した後、再び立ち上がり、ハレスを睨んだ。
ハレスは俺の前に立つと、腕組みをして、三匹のモンスターと対峙した。
「貴様ら……我の大切な仲間に手を出そうとはいい度胸だな……容赦はせんぞ!」
ハレスの身体からドス黒いオーラが流れ出ているのが分かった。今までこなした試合でも感じたことのない神経が突き刺さるようなものすごいプレッシャーである。
魔王の娘というのは本当かもしれない。いつの間にか、三匹のモンスターばブルブルと身体を震わせて、死にかけの子犬のような表情となっていた。
ハレスは両手をあげるとドデカい黒色のエネルギー弾を作り出した。
「骨すら残さず、消滅させてやる。『ビッグマジックバレ……』」
「もういい。充分だ。やめろ、ハレス」
ハレスの肩に手を置き、俺がそう告げると、ハレスは振り向かず、黒色のエネルギー弾を発射しようとするのを止めた。
三匹のモンスターは恐れをなしたのか、どこかに逃げ去った。
「ユウタ……」
「帰ろう。ハレス。ラグリーもリオンも心配してるからな」
「う、うむ……」
俺とハレスは一緒に並んで歩き始めた。終始無言というのも辛かったので、俺は話をすることにした。
「ハレス。これから色々と俺がバスケについて、教えていくからな。お前には才能があるから普通に試合に出れると思うぞ?」
「ん……ありがと」
素っ気なくお礼を言うハレスだった。励まそうと気を使っているのがあからさまだっただろうか。
「それより、さっきありがとうな。助けてくれて」
「べ、別に。たまたま通りかかったら、ユウタが襲われていたので、ちょっと手を貸してやっただけだ。見殺しにするのも後味が悪いからな!」
ツンデレのテンプレのようなことを言うハレス。しかし、ハレスがいなかったら俺は選手生命どころか人生そのものが終わっていた。そう考えるとまじで笑えない。
「そっか。でも、ありがとうな」
お礼を述べると、ハレスは恥ずかしそうに顔を俯き、だんまりにしてしまった。
俺は悩んだ末、この話題を切り出すことにした。
「なぁ、ハレス。お前、魔王の娘なんだって?」
「な、なななな何を言っておるのだ。ユウタは!」
めっちゃ動揺してるんだが。嘘つけない性格だなこいつは。
「いや、リオンのやつ、昔に魔王と戦ったことがあるらしくてな。お前の父さんと戦ったことがあるって言ってたぞ」
「違います。私は魔王の娘などではありません。違いますとも」
「なんで急に敬語!?」
そんなにテンパってたら逆に怪しさ満載である。
「私は決して魔王の娘などではありません。私は貴族のメメリーアッシュフォード家のものです」
「家柄の名前、もう一回聞いていいか?」
「メランコリーダックフンド家です」
「さっきと家柄名、変わってるぞ。もういいだろ? 正直に言えよ」
「……ふ、ふはははは! いかにも! 我は魔王の娘だ」
ようやくハレスは魔王の娘であることを認めた。
「家出してどれくらい立つ?」
「えっと、一週間くらいかな」
「お前の父さん、心配してるんじゃないか? それとお母さんも」
「いや、まだ大丈夫だ。これまでも何やかんや家出はしたことがあるからな。ただ今回は結構長く家に戻ってないからそろそろ父上も心配しだす頃だろう……それと母上は我が物心着く前にはすでにこの世にはいなかった」
母親が亡くなったと聞いて俺はしまったと思った。
「そっか。悪いこと聞いたな」
「気にするな。母上との思い出など何一つないのだ。父上もだが」
悲しそうにつぶやくハレス。魔王はハレスを溺愛しているとラグリーが言っていたが、要は束縛が激しい親なのだろう。
「けど、一度戻って父さんに説明した方がいいんじゃ?」
「嫌だ。戻りたくない。戻ったらもうバスケができなくなる」
即拒否された。一体、どうしたものか。
「けど、お前の父さんが街を襲ってきたらそれこそ困るだろ?」
「そ、それでも……我はどうしてもバスケをしたいのだ……」
心からの叫び。せっかく掴んだバスケができるチャンスを逃したくないのだろう。
「しょうがない。スリーオンスリーの大会が終わったら、俺もお前の家に行こう。俺も一緒に説得しに行ってやるよ」
「ありがたいがやめておいた方がいい……こう言っては何だが、父上は人間を毛嫌いしておるぞ? 下手すれば殺されるかもしれぬ。いつも、『ああ人類滅びないかなー』と呪文のように呟いておるしな」
話だけ聞くと、厨二病っぽいが、実の魔王だから正直怖い。
「ま、任せておけ! うまく説得してやる! だから、明日と明後日の大会が終わったら帰ろう。な?」
ハレスの双眸が俺を覗き込んだ。ハレスの心の中に、半信半疑だがもしかしたらという思いが芽生えたのだろう。
「う、うむ。しょうがないな。そこまで言うのなら、我の家に連れて行ってやろう!」
ハレスは俺がハレスの家に行くことを承諾した。気のせいかもしれないが口角が少し緩んでいるように見える。
魔王を説得できるかどうか……というか、生きて帰ってこれるか不安だが、やるしかないだろう。
「さてと……戻るか!」
「うむ! ところでユウタ。ここはどこなのだ?」
俺はゆっくりとハレスの方を見た。
「は? お前、ここがどこか分かるんじゃないのか?」
「いや、全くだ。気がついたらここに来ていた」
「ら、ラグリーみたく瞬間移動みたいなので、戻れたりは?」
「しない」
「……」「……」
二人で数秒ほど見つめあった後、
「「やばーい!」」
「お前! なんで魔王の娘なのに、瞬間移動の一つや二つも使えないんだ!」
「しょうがなかろう! 我が得意なのは攻撃魔法! そんな移動系の魔法なんて使わぬのだ! あああ! どこだここは!」
「ふ、二人とも大丈夫……」
ラグリーの声が聞こえた。横を見ると、ラグリーとリオンが並んで立っていた。
「おお、天使よ……」
ラグリーの登場に思わず感動した俺は思わずそう呟いた。思い出した。ラグリーは実の天使だった。リアル天使。
「や、やめてよユウタったら」
俺に言われて恥ずかしいのか、ラグリーは両手に頬を当て、顔を背けた。
「全く、二人とも急に飛び出しもんだから不安になったんだからね!」
リオンは腕を組み、目を逸らしながらもそう言った。
「……」
ハレスは無表情のまま、何も言おうとしない。
「は、ハレス……さっきはその悪かったわよ。少し言いすぎたわ」
ハレスの謝罪に驚いたような顔をするハレスだったが、数秒ほど沈黙した後、言葉を発した。
「ふ……あはははは! 馬鹿め! そんなことを気にしていたのか! 我は魔族にして、魔王の娘なり! あんな言葉で落ち込むほど弱くはないわ!」
「ふふ……ユウタに魔王の娘だってことを話してくれたのね。良かったわ」
「ああ。俺、スリーオンスリーの大会が終わったらハレスの家に行くよ。頑張って説得しに行ってくる」
「そう。なら、私も行くわ」
「ええ?」「なぬ!?」
俺とハレスは同時に驚きの声を上げた。リオンは真剣な表情を崩さないため、本当に行く気だろう。
「どういう心情の変化だ?」
「単純な話よ。改めて、ハレスをスカウトしに行くの。ちゃんと保護者の許可は取らないとだからね。それに、ユウタに死なれたらまた一からメンバーを探さなきゃいけなくなるでしょ? だからついて行ってあげるわ!」
照れを隠しながらリオンはハレスの家に行く理由を説明した。理由は何であれ、非常に心強い。
「ありがとう。助かるよ、ラグリー」
「べ、別にユウタのためじゃないし! チームの存続のためなんだからね!」
「いやぁツンデレだなぁ」
そう感想を述べたのはラグリーで、彼女はニコニコとリオンの様子を見ていた。
「ちょっと、ラグリーさん! 揶揄わないでください!」
珍しくリオンはラグリーに対して怒った。
「あはははは。雨降って地固まるってやつかな? それよりも、明日も試合があるし早く休もう。みんな、必ず優勝しようね」
ラグリーが俺たちに手を出してきた。俺たち三人も手を出し、リオンの手に重ねて行った。
こうやってみんなで気合を入れるのはどこの世界も変わらないのかもな。
「みんな、絶対に優勝するわよ!」
「「「おお!」」」




