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シュートとは横に飛ぶもの

 スリーオンスリーの大会二日目。

 大会が行われるカザミ体育館には昨日よりもたくさんの人が来ていた。外には出店が立ち並んでおり、一種の祭りと化していた。

「かなり人がいるわね。これはプレイのしがいがあるわ!」

 リオンは人集りの様子を見ても、臆する様子は全くなかった。

「ハレス。今日は緊張してないか?」

 昨日、初戦にガチガチになっていたハレスのことが気になったので、聞いてみることにした。

「も、もももももちろんだ! あはははは! 絶好調! 絶好調!」

 声が震えている。今日もばっちり緊張しているようだ。まぁ、動いているうちに固さも取れて行くことだろう。

 会場に着く前、俺たちはエンジェルライトの体育館である程度アップを済ませておいた。

「みんな、あと二十分くらいに試合が始まるから中に入ろう。それと、はいこれ。今日のビブス」

 ラグリーが白色のビブスを渡してきた。今日は白のビブスか。チーム名とぴったりだな。

 ラグリーは試合が行われるコートへ先導するので、俺たちもついていく。

 いよいよ今日はエレメンツとの試合。何としてでも勝ちたい。

「改めて見ると、本当にすごい数ね」

 リオンの言う通り、観客席にはコートの外にいた人数よりもさらに多い数の人がいた。

 すでにエレメンツの選手がコートに来ており、黙々とシューティングを行なっていた。

 俺はアイリの様子を観察した。

 彼女はまるで機械のようにシュートを放ち、当然のように決める。全く落とす気配がない。やばいな、これは止めるのはなかなか難しそうだぞ。

「こーら!」

 バコッという音が聞こえた。一瞬、頭に軽い痛みが走った。

「あた!」

 後ろを振り返ると、リオンが仏頂面でこちらを見つめていた。

「向こうのエースに気を取られすぎよ! ユウタのマークは違うでしょ?」

「ああ、悪い。そうだな」

「分かったらほら! 集中集中! シューティングしなさい!」

 リオンの言う通り、俺はシューティングに専念することにした。シューティング中、ハレスに声を掛けてやり、緊張をいくらかほぐしてやったりもした。

 試合が始まる五分前、俺たちは集まりミーティングを開始した。

「みんな、相手の強さはかなりのものだから注意してね」

 ラグリーが俺たちに助言の言葉を贈った。

「ああ、昨日話した通り、ラグリーがあの四番のマークを頼む。俺は五番につく。ハレス、あの六番のマークは任せたぞ」

「うむ。任せておけ!」

 どうやら、大分緊張も解けてきたようである。

「それでは、これからエンジェルハウスとエレメンツの試合を始めます!」

 審判の声が聞こえ、早速コートの中へと入ろうとした。

「みんな、頑張って来てね」

 今日のラグリーの服装は、この世界の文字で『エンジェル』という文字が書いてあるピンク色のTシャツに黒い短パンという少し幼い格好をしているが、これでも俺たちの監督である。ラグリーが手を挙げたので、俺は

「ああ!」

 と手を強めに叩いた。俺に続いて、ラグリーとハレスもラグリーの手を叩いた。

 

 審判の元へと向かい、早速コイントスを始める。今日の審判は二十代くらいで黒いポニーテールをした女性であった。コイントスを担当するのはもちろんリオン……

「ユウタ、コイントス変わってくんない?」

「はぁ? なんでなの?」

「こういうのってなんかユウタの方が得意そうじゃない? お願い、ユウタ」

「得意そうって……まあ、リオンがそう言うなら……」

 渋々、俺は承諾し、コイントスを行うことにした。

「表でお願いします」

 俺は審判にそう告げた。俺と同様にコイントスを担当するアイリは訝しんだ様子でこちらを見つめていた。

 俺もアイリのことを見つめた。いやぁ、本当にピンク色の髪だなぁ。

 自分で染めたんだろうか。顔立ちはハレスやリオンのような外国人を彷彿とさせるような顔立ちと違い、普通に日本人っぽくて、目が大きく可愛らしい顔立ちをしているが、むすっとした表情をしているため、どこか近づきがたい雰囲気である。

 そして、エレメンツは俺たちのビブスの色とは対照的に黒色のビブスを着ていた。

「何?」

「い、いえ……何でもありません」

 怖い。とても迫力がある。よしんぼ、この人とチームメイトになってもやっていけるだろうか。

「アイリさんは裏でいいですか?」

「どっちでも」

 審判の問いに素っ気なく答えるアイリであった。

「そ、それじゃ裏ってことで……では、コイントスを始めさせていただきます」

 審判は指でコインを弾いた。手のひらでキャッチし、反対の手でコインを覆い隠す。

 ゆっくりと反対の手を離すと、コインが表面になっていたのを確認できた。

「それでは、エンジェルライトからオフェンスを始めてください!」

 審判がそう言うと、俺にボールを渡してきた。

 真ん中のスリーポイントラインの手前から攻撃を開始する。俺にマークをついたのは、五番であった。

 五番の選手は、ミツキという選手。プログラムによると、身長は百六十五センチメートルらしい。茶色の髪を三つ編みに束ねており、赤い派手なバスケットシューズを履いていた。

「よろしくね! エンジェルハウスさん」

 愛想よくミツキが話しかけてきた。あどけない微笑みを見ていると、思わず警戒心を解きそうになる。あかんあかん、この人は敵だ。気を引き締めねば。

 俺は「こちらこそ」とぶっきらぼうに返し、パスコースを探した。

 攻めの中心であるリオンは徹底的にアイリにマークされており、パスを出すのも少々厳しそうである。

 俺はディフェンスが若干甘めになっているハレスにパスを出した。

「よーし、攻めるぞー!」

 ハレスについている六番はリンカという選手。ベリーショートのホワイトグレージュの髪色が特徴で、ミツキとは対照的に少し大人びたような印象を受けた。

 プログラムによると身長は百六十四らしい。

 リンカはハレスがミドルシュートをマスターしていないと見抜いているのか、離れ気味にディフェンスをした。

 まずいなこれは……

「おい、ハレス。一旦戻せ……」

 ハレスのリターンパスを貰いに行ったが、その前にハレスは『ダムッ』と力強くドリブルを始め、右方向に素早いドライブを仕掛けた。

「うわ!」

 ハレスが驚いたような声を上げる。ドライブを読んでいたリンカは正面からハレスを捉え、双方倒れ込んだ。

 審判が『ピー』と笛を吹く。

「オフェンスチャージ! 白六番!」

「あちゃー、ファール取られたか……」

 思わず頭を抱えそうになった。できればここは先取点を取っておきたかった。

「ナイスディフェンス! リンカ!」

 アイリは倒れているリンカの手を取り、起こした。一方、ハレスは呆然とした表情のまま起き上がろうとしない。

「おい、大丈夫か?」

 心配になり、倒れているハレスに手を伸ばした。しかし、ハレスは俺の手を掴まず、起き上がった。

「は、はわわわわ! ごめん! ユウタ。私、私……」

 ミスってテンパったのか、涙目になり、プルプルと震えていた。こ、こいつ……才能あるけど、結構メンタルがポンコツだな!

「ど、ドンマイ。ドンマイ! ディフェンスで取り返そう。な?」

 俺はハレスを落ち着かせるため、ハレスの頭を撫でてやった。くそ、みんな見ているのに恥ずかしすぎる。なぜ、試合中にこんなことをせねばならぬのだ。触り心地は良いが。

「え、えへへへ……分かった。頑張る……」

 ハレスはなにやらニヤケ出した。とりあえず、落ち着いてくれたが相変わらず周囲の視線が痛い。リオンはジト目でこちらを見つめていた。

 いや、これはね? 仕方のないことなんですよ。すると、審判が「こほん」と咳払いした。

「えー……では、試合を再開してよろしいでしょうか?」

「は、はい……」

 攻守交代することになり、俺はディフェンスの構えを取った。

 俺のマークするミツキはドリブル、パスともにレベルが高い。俺のスキルが負けているとまでは思っていないが、女性だと思って油断していたらあっという間にやられてしまう。

 スリーも警戒しながら、距離を詰めつつドリブル、パスも頭に入れながらディフェンスする。

 来る! そう思った次の瞬間、ミツキは左方向にドリブルをしてきた。スライドし、これに対応すると、ノールックでミツキはアイリへパスした。

 くそ、カットできなかった。

 待ってましたとばかりにスリーポイントライン上でボールを受け取るアイリ。

「いったぞ! リオン!」

 俺が声を掛けると同時にシュートモーションに入るアイリ。

「任せて!」

 リオンはアイリのシュートを止めるべく高らかにジャンプした。しかし、それはフェイクだったようで、鋭いドライブでリオンを抜き去った。それは見事なフェイクであり、俺も完全にシュートだと思っていた。

「ち……!」

 ヘルプに行こうと思ったが、一歩ドリブルしただけでアイリはストップし、ジャンプシュートを放った。

 美しいシュートフォーム――試合中ということを思わず忘れ、アイリのシュートに見惚れてしまっていた。

 綺麗に縦回転のかかったシュートはあっさりとフープを潜り抜けた。

「ナイッシュ! アイリ!」

「余裕でしょ!」

 アイリとミツキは互いにハイタッチをした。

 くそ、俺としたことがあんな簡単にパスを通してしまうなんて。リオンは「ぐぬぬ……」と悔しそうにアイリを睨んでいた。

 その視線に気づいたのかアイリは嘲笑うかのように微笑んだ。

「あー! もう、ムカつくわ!」

 アイリの様子を見て憤慨したアイリスはダンダンと地団駄を踏む。

 リオンさん。テクニカルファールになるかもしれんから、抑えてくれ。

 アイリがエンジェルハウスに入ったらリオンはうまくやっていけるだろうか。少し心配になってきたぞ。

 とりあえず、まだ二点先制されただけだ。こっから巻き返してやる。

 次は俺たちのオフェンスから。先ほどの借りを返してやるか。

 まずはシュートフェイクを入れたが、ミツキは全く反応しない。フェイクってことを読んでいるのか?

 ならばと、一度ボールを下ろし、ドリブル――と見せかけ、再びシュートモーションに入った。

「ああ! しまったぁ!」

 さすがに意表を突かれたのか、今度はミツキが反応した。右方向に一歩ドリブルしてミツキを抜いた。そしてストップし、ジャンプシュートを打つ。

 シュートはスパッと決まった。今のはアイリのプレイを再現した。

 挑発のつもりでアイリに向かって指をさすと、アイリが黒い双眸で見つめ威嚇してきた。うん、怖い。すみませんでしたと心の中で謝った。

 とりあえずこれで同点。ここを止めて勢いをつけてやろう。腰を落とし、いつでもシュートに対応できるよう右手を上げる。

「やるね。ユウタくん。悔しいけど、私より実力は上だよ」

「それはどうも」

 ミツキは次に何をしてくる? シュートか、フェイクか、それともドリブルか。

 いや、何でこようが対応してやる。絶対に止める。

「だから、悪く思わないでね。弱点を利用させてもらう」

ドリブルで一歩後ろにミツキが下がると、リンカにパスを出した。

 リンカはパスを受け取り、右に行くと見せかけるフェイク、そして、シュートフェイクをすると、ピクッとハレスが大きく反応し、その隙を見逃さず、ドリブルした。

「ドリブル来るぞ!」

「おっけ!」

 ハレスに声を掛けると、見事にリンカのドライブにも対応した。しかし、数歩リンカがステップバックすると、ハレスは「え?」と呟き、ディフェンスの間合いを開けてしまった。

「おい! シュート打ってくるぞ! ついていけ!」

 そうハレスに指示した時には遅かった。アイリほどではないが、両手打ちの素早いモーションからスリーポイントシュートをリンカが打つ。そして、これは決まる。

 五対二と差を広げられてしまった。

「ご、ごめん。ユウタ」

「ドンマイ! 気にするな!」

 気を落として謝るハレスに対して切り替えるよう促した。それにしても、くそ。ミツキの奴。

 弱点を突いてくるってのはこういうことか。一番バスケの経験……いや、ディフェンスの経験が浅いハレスのところを突いてくる戦法。

 実力差が大きいところを徹底的に突いてくる戦法はスポーツではそれほど珍しいことではないが、スリーオンスリーに関して言えば、その効果は絶大である。

 可愛い顔をして中々エグい戦法を取ってくるな。

 それよりも、向こうがしっかりとこっちの戦力を把握していること、それに驚いた。

 昨日行った試合はわずか二試合。それも短時間だけなのに、これほどチームの弱点を見極めることができるとは、ミツキという選手。なかなか侮れない。

「ユウタ、悪いけど私に最初ボールを預けて貰えないかしら?」

「え? ああ、分かった」

 通常、スリーオンスリーは決まった人――基本的にはポイントガードがボールを持って、オフェンスを行う。しかし、特段同じ人が毎回ボールを持ってオフェンスを開始しなければならないと定められているわけではない。

 リオンのこの感じ、先ほどのアイリのオフェンスに対してやり返す気である。

 ここは燃えているリオンに任せようと考えた。

 力強くボールを持ち、アイリを見つめるリオン。ヒシヒシと熱い闘志が伝わってきた。

 ここは乗ってやるか。

「ハレス! もっと外に出ろ!」

「おう! 分かった!」

 ハレスにゴールから離れた場所でポジショニングするよう伝え、そして俺もリオンとアイリから離れた場所に移動する。

 この戦法はアイソレーションという戦法。得点能力が優れた選手が一対一をしやすくするためにボールを持った選手から離れるという戦法。こうすることで他のディフェンスはヘルプに行きにくくなる。

 エレメンツの他の二人はアイリを信頼しているのか、何も言わずに俺とハレスにそのままついていった。

 張り詰めた空気の中、一筋の汗が頬を伝った。

 リオンVSアイリ。試合中だというのに、この好カードに思わず心が踊った。一体、どんなプレイが繰り広げられるのか。

 まずはリオンがシュートフェイクを一つ入れる。すると、アイリが腕を伸ばし、ボールに触れ、ボールがリオンの真横に弾いた。

 う、嘘だろ……

 こんなあっさりとリオンが負けてしまうのかと思ってしまった。一対一に関してはかなりの力量の誇るリオンがドリブルすらさせて貰えないのか。

「貰い!」

 アイリがルーズボールを拾おうとした。その時、

「渡すかぁ!」

 アイリがボールを拾う前にすぐさまボールを掴みむと、そのまま鋭いドライブを決めた。

 さすがはうちのエース。そう簡単にやられるわけがないよな。

「ち……!」

 アイリは苛立ちげにリオンのドライブに対応した。スライドでは素早いリオンの動きについていくが、クロスオーバーで左に切り返し、ついにアイリを抜き去った。

「ぶちかませ! リオン!」

 俺の叫びに応えるかのようにゴール下で高くリオンはジャンプした。

 練習中に間近で見てきたリオンのこのかっこいい姿。

 『ガシャン』という轟音と共にリオンが派手なダンクシュートを決めた。

「おおー!」「すげぇ!」「ブラボー!」「アメージング!」

 観客席からリオンに対する、絶賛の声が降り注いた。タンとリオンは無表情のまま着地すると、ボールを広い、アイリに渡した。

「これはさっきのお返しね」

 リオンがそう言うと、アイリはギロっと鋭い双眸を向けた。

「ふん、今度はこっちがお返ししてやるよ!」

 うわぁ。怖え。女同士の戦いまじ怖いわ。女バスの試合ってこんな感じだったりするんだろうか。

 エレメンツのオフェンスだが、ボールを最初に持つのはミツキではなく、アイリだった。

 さっきのお返しって言ってたいから一対一をするつもりだろうか。

 すると、俺の予想通り、ミツキもリンカもアイリから離れたところでポジショニングを取る。俺たちと同様、アイソレーションをしてきた。

「随分とあの四番のこと信頼してるんだな」

 ミツキに話しかけると、当然でしょと言わんばかりにニッと口角を上げた。

「まぁね。うちのエース様は絶対に止められないよ。例えそっちのエースでもね。けど、そっちのエースって君、それともあのリオンって選手?」

「リオンだ」

 即答した。そう、うちのチームのエースはリオンただ一人。頼む、止めてくれ。

 アイリは力強いドリブルをつき、まっすぐにリングに向かう。

 しかし、リオンはこれにしっかりと対応した。

「く……!」

 アイリは苦悶に満ちた表情を見せた。リオンはディフェンスの能力も高い。それはこの世界に来てから一対一をしてきた俺だからこそ言える。

「出して! アイリ!」

 痺れを切らしたのかリンカがアイリに近寄り、パスを受けにいった。ちらっとリンカの方を一瞥したアイリだが、俺には分かる。

 このオフェンスではアイリは絶対にパスをしない。

 アイリは一度、スリーポイントラインの手前までバックした。スリーポイントシュートの可能性もあるため、リオンはついていった。

 そして、再び――今度は逆方向にドリブルでゴールに向かった。

「そう来ると思ったわ!」

 これもしっかりと対応するリオン。しかし、アイリはフリースローラインまで強引にドリブルで攻めると、急ストップした。

一度シュートの構えをする。さらにアイリはボールを上げ、シュートフェイクを入れた。これにリオンは手を伸ばすが、まだとんでいなかった。

「アイリ!」

 ミツキが叫ぶが、アイリは決して振り向こうとしなかった。膝を曲げ、飛んだ。

 そして、リオンも併せてジャンプする。

 俺はこの時、完全にリオンの勝ちだと思っていた。例え、フェイダウェイシュートだったとしても、リオンのジャンプ力なら止めることができると。

 だが、リオンがジャンプした方向は後ろ――ではなく横だった。

「な……」

 リオンは空中で自分の斜め前にいるミツキのシュートを止めることができなかった。シュートはボードに一度当たると、しっかりとフープの中に収まった。

「おおー!」「すげぇ!」「なんだ今のシュート!」「アメーーーーージング!」

 先ほどのアイリの横っ飛びシュートにリオンのダンク以上の歓声が巻き起こった。

 得点は七対四と次のエレメンツの攻撃でスリーポイントを決められると終わってしまう。

 先ほど、流れがうちに来ただけに苦しい展開となってしまった。



 注:この物語はフィクションです。シュートは真上に飛びましょう。

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