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ゴブリンズ

「みんな、お疲れ様。はい、これ」

 ラグリーが一人一人に飲み物を渡してきた。

「ありがとうございます。ラグリーさん!」

「みんな、なかなかいい動きだったよ。ユウタも初試合とは思えないくらいリラックスしてたし、私の目に狂いはなかった」

 みんなが上機嫌の中、ハレスのみが不服そうな顔をしていた。

「どうかしたか? ハレス。お前も良くやったと思うぞ」

 これはお世辞ではなく、心からそう思った。初めての試合にすればしっかりとディフェンス出来ていたと思う。

「だって、全くシュート決められなかったし……」

 どうやら試合中、全くシュートを決めることができず、悔しかったらしい。

「なら次の試合でシュートを決めれるように頑張れ」

「うむ、分かった」

 渋々ながらもハレスは納得してくれた。

「リオン、次の試合は何時からだ?」

 俺が訊くと、リオンはベンチに置いてあるプログラムを手に取り、ページを捲った。

「えっと、十一時半頃ね」

 今からおよそ一時間後くらいである。

「そうか。ならちょっと、他のチームの試合を見てきていいか?」

「ええ。構わないわ。三十分くらい前にはちゃんと戻ってきてね。いい? 今度はCの一で試合だから」

「分かった」

 リオンから次の試合が行われる場所を確認し、二階の観客席へと移動した。

 特に決めていたわけではないが、俺はAコートの観客席に腰をかけた。

 丁度、試合が始まるようである。

「それでは、エレメンツの皆さんからオフェンスを始めてください」

 審判の声が観客席からも聞こえてきた。エレメンツというチームは全員、女性のチームで、対するファイターズというチームは全員、男性のチームだった。

 エレメンツのチームで気になるのは四番の選手。

 何が気になるのかというとその髪型。一際目立つピンク色だった。この世界には日本と違い、いろんな髪色の人がいるが、ピンク色はこの世界であってもかなり目立っていた。

 存在感が半端無い。それに加え、エレメンツの選手全員には遠くてよく見えないが、腕にはタトゥーのようなものが書かれていた。

 四番の選手が味方からボールを受け取ると、ものすごい速さでシュートを放った。

「は、速い!」

 自然とそんな感想が口から溢れた。とんでもないクイックモーション。それに加え、両手打ち(ボースハンド)。これは脅威という他ない。エレメンツのスコアには、三点が追加された。

 間違いなく、俺やリオンのシュートよりも速い。あれ止めることができるかと言われると正直、自信がない。

 あのチームもアマチュアリーグのチームだろうか。

「ディフェンス! みんな守るぞ!」

 エレメンツの四番が二人に声を掛けた。オフェンスも凄かったが、ディフェンスもなかなか鍛えられていた。

 スリーオンスリーの試合は普通の試合と異なり、二十四秒ではなくその半分の十二秒以内にシュートを打たなくてはならない。エレメンツのディフェンスに攻めあぐねてしまったファイターズは十二秒以内にシュートを打つことすらできず、貴重な攻撃機会を失った。

「「「ナイスディフェンス!」」」

 エレメンツの選手はそれぞれ、ハイタッチを行なった。

 そして、再びエレメンツのオフェンス。先ほどの四番のシュートを警戒してか、ピッタリとマークしていた。

 ボールを持っていた五番の選手は自らドライブで相手を抜き去り、ゴールに向かっていった。

「ヘルプ!」

 カバーのディフェンスが来ることで、フリーになった六番の選手にパスを出す。

 真横からスリーポイントシュートを両手打ちで打つと鮮やかに決まった。

「ナイスシュート!」

 四番程のクイックネスはないが、シュートを見てかなり洗練されていると確信できた。

 その後もエレメンツの流れが続き、十二対二と、全てエレメンツはスリーポイントという結果でエレメンツが勝利を収めた。

 試合を見終えると、必死にリオンたちを探した。くまなく体育館の中を駆け巡ったが、見つからない。

 くそ、あいつらどこに行ったんだ。やがて、外に行くと、ベンチに腰を三人が腰をかけて何かを食べているのが見えた。

「おい、みんな!」

 三人に話しかけると、みんなが一斉に俺の方を見た。みんなが食べていたのはバナナだったようである。

「どうしたの、ユウタ。そんなに慌てて。ラグリーさんがバナナを用意してくれたから、ユウタも食べる?」

「ああ、ありがとう……じゃなくって! ラグリー、すごい選手がいたぞ!」

「ふ、ふごいへんふゅ?」

 ラグリーは上目遣いでバナナを咥えながら喋り、首を傾げた。その食べ方、なんかすごい卑猥だな……

「あ、ああ……エレメンツっていうチームなんだが、全員、ボースハンドのスリーポイントの達人だった。中でも四番がずば抜けて能力が高い。なぁ、エレメンツって俺たちみたくアマチュアリーグのチームか?」

「エレメンツ……聞いたことないね。おそらく違うと思う。リオン、ちょっとプログラム借りてもいいかい?」

「はい、どうぞ」

 ラグリーはプログラムを受け取り、真剣な様子でプログラムの中身を確認した。

「エレメンツ、エレメンツと……あった。四番、アイリ。うん、アマチュアリーグの選手じゃないね。これを見てごらん。もしアマチュアリーグのチームならうちみたいにチーム名の横に星マークがつくんだ」

「へー、そうなんだ」

 俺もプログラムの中身を確認することにした。

 アイリ。身長百七十三。俺は身長百七十五であるため、俺の方が少し身長はやや高いということになる。

 なんとか止めることができるだろうか?

 他にアマチュアリーグのチームがないか確認したところ、なんとさっきエレメンツが戦っていたファイターズというチームも該当していた。

 仮にもプロの卵のチームに圧勝したのか、このエレメンツというチームは。

 他には『バスティス』というチームがアマチュアリーグのチームらしかった。

 ラグリー曰く、ここら辺では結構、強いチームらしい。

「ラグリー、絶対にエレメンツの選手を獲るべきだ!」

 俺は強く力説した。しかし、何故かラグリーは渋い顔をした。

「そ、そうだね。私も賛成だけど、ユウタは平気?」

「何がだ?」

「その……私も含めて、このチームに男が君しかいないことについて……」

よくよく考えたらそうだな。俺以外に誰も男の選手がいないなど結構珍しいかもしれない。

「ま、まぁ。これから入って来るだろ。多分……それよりもリオン。次の対戦するチームはどこなんだ?」

「えっと、確か『ゴブリンズ』っていうチームよ。全員がゴブリンでできてるチームだとか」

「へぇ、ゴブリンか……」

 ゴブリンといえば、よくファンタジー作品に登場しており、俺もなんとなくだがイメージがつく。

 小柄な体格で緑色の肌だったような気がする。ということは全体的に小柄なチームっぽいな。

 リオンの空中戦で圧倒できるかもしれない。そんな考えで試合が行われるCコートに入ると、

「で、でかいわね……」

「あ、ああ……」

 リオンの言葉に思わず俺も頷いた。小柄なんてとんでもなかった。相手チームのうち、三人のうち、二人が二メートル越えという状態。

 ちなみにもう一人は俺と同じくらいの身長の可愛らしいゴブリン。美人で胸もでかい。

 できるなら、俺はこの人をマークしたい。他の二人は怖い。

 ゴブリンと言っても肌が緑色なことと、耳がリオンのように尖っていることを除けば普通の人間にしか見えなかった。

「けど、やるしかないわ! 見せてやりましょう! 私たちの力を!」

「「オオー!」」

 俺とハレスは腕を伸ばし、叫んだ。勝ってみせる。必ず。

「みんな、頑張ってきて」

 ラグリーも応援の言葉を投げかけてくれた。

 ついに始まる二回戦。今回のコイントスでは俺たちの攻撃から始まることに決まった。

 俺をマークするのは女性の美人ゴブリン。やったぜ。四番のビブスを着ているため、この人がキャプテンらしい。

「ふふ、よろしくね……」

 妖艶で柔和な笑みを俺に向けてきた。いやぁ、美人にマークされるのはやりづらい……やったぜ。

「こ、こちらこそ」

 俺は右に行くと見せかけるフェイクを一つ入れ、左方向にドリブルを仕掛けた。

 しかし、読んでいたとばかりに反応されてしまった。

「ふふ、残念……」

 くそ、舐められてるな。美人だけど少しイラっときたぜ。俺は近くにいるハレスにボールを渡した。

 ボールを持つと、ハレスは不敵な笑みを浮かべた。おいおい、大丈夫か。

「今こそ、見せよう。我の力を……」

「は?」

 ハレスをマークしている二メートル越えの選手はなんだこいつはという風にハレスを見下ろしていた。

 改めて見ると、すごい身長差である。

「ハレス流、高速ドライブ!」

 必殺技(?)のようなものを叫ぶと、ハレスはドリブルで一瞬にして、マークを置き去りにした。

「な……」

 ハレスをマークしていた選手は唖然としていた。まぁ、そうなるわな。

 俺も初めてこいつと一対一をした時はそんな感じだった。

 そのままハレスは

レイアップシュートを決めた。

「ナイッシュ」

 俺はハレスに声を掛けた。一回戦と違い、あまり緊張していないようで取り敢えずは一安心のようだ。

「こ、これくらいは当然である……」

 ハレスが今にも叫んで喜びたいのを必死で我慢しているのが分かった。初シュートだし、嬉しいのも無理はない。

 続いて、俺たちのディフェンス。あの四番にはハレスがマークする。

 二メートル越えのゴブリン二人には俺とリオンがマークすることに決めた。

 俺とリオンのところも十分ミスマッチ(身長差がある)だが、ハレスもまた身長、百六十いかないくらいなので、相手の四番と十五センチ以上身長差がある。

「す、すごい身長差だな……」

 ラグリーが思わずこぼした感想が耳に届いた。俺も同感である。問題なのはやはりディフェンスか。

「ブレス!」

 美人ゴブリンはリオンがマークしているブレスというたくましい体つきの選手にボールを渡した。

 ローポストでポジション取りをしており、ここからセンタープレイをするのだと思われる。

「く、くそ……なんで押し込めない……こんな女エルフ相手に!」

 一気にゴール下まで押し込もうと相手の選手は考えたようだが、リオンのパワーは相手を上回っていたようだ。

「甘わ! こう見えても、私はアマチュアリーグの選手よ! あんたくらいのパワー、どうってことないわ!」

「一旦、戻してブレス!」

 ブレスという選手が美人ゴブリンにふわっとしたパスを出した。すると、

「うりゃあ!」

 パスに反応したハレスがこれを見事にカットした。おお、ナイスディフェンス。

 冴えてるな、あいつ。

 そして再びやってくる俺たちの攻撃の番。腰を下ろし、美人ゴブリンはしっかりと俺の動きを観察していた。

「いいディフェンスですね」

「それはどうも」

 おお、怖い。先ほど向こうがオフェンスを失敗したせいかあからさまにイライラした態度を取っている。

「けど、リオンに比べればどうってことない」

「は?」

 ノーフェイクで俺はスリーポイントシュートを放った。

「しまった!」

 美人ゴブリンが慌てて飛ぶが、伸ばした手はボールに触れることはなかった。

 スパッとシュートが決まると、拍手と歓声とともに会場が湧き上がった。

「おお、すげぇ!」「あっさりと決めやがった!」「ナイスシュートだ! 五番!」

 リオンが駆け寄り、俺に向かって腕を伸ばした。

「ナイスシュート」

「おお」

 俺はリオンとハイタッチした。美人ゴブリンは「ぐぬぬ」とものすごく悔しそうにしている。

 いいぞ。ポイントガードが集中力を見出せばこっちのものだ。

 ハイポストでポジションを取っていた俺のマークマンに美人ゴブリンがパスを入れた。

 確かに身長差を活かすという意味では正しい。しかし、

「何やってるの! 押し込みなさい! 力づくで」

「ぐ……くそ! どうして押し込めないんだ!」

 俺は必死で相手のパワーに対抗し、ゴール下に押し込まれるのを防いでいた。

 強くない。リオンに比べればこれくらいどうってことないのである。そのたくましい身体は所詮ハリボテのようである。

「くそー!」

 痺れを切らした俺のマークマンはターンをした。大方、ハイポストからジャンプシュートでも打とうとしたのだろう。しかし、ターンした時にボールを下げた状態で持っていたため、絶好のカットするチャンスであった。

 俺は『パン』と敵が持っているボールを奪い去った。

「何やってるの! もう!」

 イライラしているようである。まだ一本も決めれていないし、無理もないが、ここでチームメイトを冷静にできるかどうかでポイントガードの資質が問われる。

「よし、一本。じっくり行こう」

 パスもドリブルもシュートも選択していない状態で俺は二人にそう言葉を投げかけた。

 シュートフェイクをすると、慌てたように美人ゴブリンが反応した。

 やはり、さっき俺がスリーを決めたせいか、相当警戒しているようだ。

 いつもの調子であればある程度は俺を抑えることができるだろう。

 鈍行をたどった伸びきった膝は俺のドライブに一歩も反応できず、俺は美人ゴブリンの横を抜き去った。

「ヘルプ!」

 美人ゴブリンが叫ぶと、指示通り、リオンをマークしている選手が俺を抑えにやってきた。

 俺は急ストップし、リオンにアイコンタクトを送った。

「打たすか!」

 俺の目の前に大きな巨体が立ち塞がった。そうくると思い、俺は後ろ方向にジャンプした。

「ふぇ、フェイダウェイ!?」

 フェイダウェイシュートは真上に飛ぶ普通のジャンプシュートとは違い相手のブロックを躱すため、後ろ方向にジャンプする。

 こうすることで確かに相手のブロックをかいくぐることができるのだが、当然のごとく通常のジャンプシュートよりも精度は落ちる。

 この世界に来る前、俺はインターハイに向けて、このシュートを練習していたものの、まだ精度は十分とは言い難い。

 だが、俺はシュートを打つために後方にジャンプしたわけじゃない。パスするためだ。

「コースがずれてる! リバウンドよ!」

 美人ゴブリンは完璧にこれをシュートだと思い込んでいた。悪いがコースはバッチリである。ボールの軌道に合わせてリオンがジャンプした。

「いけ! リオン!」

「もらったぁ!」

 リオンが空中でボールを受け取ると、これでもかというほどの力強いダンクシュートを叩き込んだ。

 リオンのスーパープレイを見た、観客は『ワー!』とリオンに歓声を浴びせた。

「そ、そんな……パスだっただなんて……」 

 美人ゴブリンは口を開け、呆然と立ち尽くした。

 この試合はもらったかな。

 その後も終始、こっちのペースで試合運びをすることができ、一本、美人ゴブリンからシュートを決められてしまったものの、十一対二で勝利した。

「いやー! 快勝だったね。お疲れ様。みんな」

 コートから出ると、ラグリーが出迎えてくれた。

「身長差が結構あったからどうなることかと思ったけど、何とか勝てたわね……」

「そうだな。けど、割とあっさりと勝てて良かった。なあ、ラグリー。次の試合は何時からだ?」

「今日はもう試合はないよ。明日順調に勝てば二試合やって、明後日は決勝戦だけだね」

「そうか。次はどこと試合なんだ?」

「えっと、確か。これから行われるエレメンツとドリブラーズというチームとの試合の勝者だね」

「エレメンツ? 次で対戦できるのか?」

「エレメンツが次の試合勝てばね。見ていくかい?」

「ああ。二人とも良いよな?」

「ええ、もちろん」「うむ」

 そういうわけで俺たちはBコートの観客席へと向かうことになった。

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