デビュー戦
「ハァ、ハァ……やっと着いたわね……」
俺の隣にいるリオンが息を切らしていた。無理もない。エンジェルライトの体育館までダッシュで走ってきたのだから。
「いやぁ、間に合って良かったな。あっはっは!」
「元はと言えば、あんたのせいでしょうが!」
遡ること、一時間ほど前。俺とリオンは時間通りに起きたのだが、ハレスが全くもって起きる気配がなかった。
このままだと遅刻すると思った俺たちはハレスを揺すったり、大きな声で話しかけたりしたが、一向に起きる気配がなかった。
ついにはリオンが電撃魔法まで使ったが、(ちなみにそれはやりすぎだと止めようと俺は巻き添えで感電した)寝ているハレスからどういう原理なのか黒いバリアが発生し、リオンの魔法を防いだ。
その後は必死に俺とリオンは大声で叫んでいると、ようやくハレスが「うるさいなぁ……むにゃむにゃ」と文句を言いながら起きた。
「す、すまなかった」
珍しく、ハレスは素直に謝った。
「間に合ったし、もういいわ。それより、さっきの黒いバリアといい、その頬の模様といい、あなたってもしかして……」
「ん? 何なのだ?」
「いえ……何でもないわ」
「なぁ、リオン。もう少しで試合始まるんだろ。早く、中に入ろうぜ」
「そ、そうね」
体育館の中に入ると、たくさんの人がおり、外より喧騒が大きくなった。街のなか同様、色んな種族の者たちが体育館の中にもいる。
この体育館は『カザミ体育館』と呼ばれ、四つの地区の一つである『カザミ地区』の中にある複数の体育館のなかでも最も大きな体育館であるらしい。
リオンによればアマチュアリーグでの予選トーナメントもここで行われるらしく、予選トーナメントに備え、会場の雰囲気に慣れておくという意味ではこの大会はうってつけである。
コートの中に入る前に、俺たちは受付に向かった。
受付では、白いポロシャツを着た若いお姉さんが出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。エンジェルライトさんですね! こちら、大会用ビブスとプログラムになります。プログラムには、試合が行われる場所が記載しておりますので、ご確認ください」
受付の人からビブスを三つと、プログラムを受け取った。
「ユウタ、四番のビブス頂戴」
「ああ」
俺はリオンに四とこの世界の文字で書かれているビブスを渡した。このチームのキャプテンはリオンであるから必然的に四番を着ることになる。
「なあ、リオン。俺は何番を着ればいい?」
「五番よ。ハレスには六番を渡して頂戴」
リオンがそう言うので、俺はハレスに六番のビブスを渡した。ビブスは黄色のメッシュ素材で出来ていた。
「かっこいいのだ!」
ハレスは目を輝かせてビブスを着ていた。デッカくビブスの前面にこの世界での『六』という文字。
「おまえ、それ逆に着てるぞ!」
「ユウタ、悪いけどプログラムも貸して」
「え? ああ」
リオンに大会のプログラムを渡すと、リオンはペラっとページを捲った。
「一回戦は、Bの二で行われるみたいね。あんまり時間もないし急ぎましょう!」
「あ、おい!」
リオンが駆け足で試合が行われるコートに向かったので、俺とハレスはリオンの背中をおった。
Bという白い札が書かれてある扉の中に入ると、立派なコートが目に映った。
「おお……」
俺に目に映ったのは観客席にいるたくさんのギャラリー。ピカピカのコート、アクリル製のボード。
試合前の空気というには独特で俺は気に入っている。それにしてもギャラリーの数がべらぼうに多いな。さすがはバスケの街というべきか。
「あと十五分で試合みたいね。早いところアップしちゃいましょ」
タイマーには、残り時間が十五分と数十秒ほどと書かれていて、時間は一秒ごとに減っていった。
荷物を一度、ベンチに置き、ストレッチをこなし、ボールを入れる袋からボールを取り出し、シューティングを始めることにした。
本来であれば、ちゃんとアップをするところだが、試合が始まるギリギリにやって来たため、そんな時間はなかった。
その代わり、会場まで走ってきたため、すでに身体は割とあったまってはいるのだが。
さてと、今日の調子はっと。
スリーポイントラインの手前からシュートを打つと、ボールは綺麗に弧を描き、リングに吸い込まれていった。
よし、今日の調子は良さそうだ。
他の二人の様子を確認すると、リオンは黙々とミドルシュートを打っていた。こ問題なく決めている。あまり緊張した様子は感じられない。
ハレスはどうだろうか?
ハレスの方を見ると、ぎこちない動きのドリブルをすると、一、二、三とステップし、レイアップシュートをした。
リングには掠りもしない。おいおいおい、トラベリングした上に外しやがったぞ。
「おい、ハレス。大丈夫か? 緊張してるのか?」
人生初の試合となるハレスにとっては、確かにプレッシャーになるのかもしれない。
試合にはある程度の緊張というのは確かに必要であると考えてはいるが、あまりガチガチであっても困る。
「あ、当たり前だ! 全然ノープロブレム!」
ハレスは緊張せいか、身体がプルプルと震えていた。どうみても、全然プロブレムにしか見えない。
しょうがない。俺はハレスの頭に手を置いた。
「大丈夫だ。いつも通りやれば試合には勝てる。リラックスしていこう」
俺は優しくハレスの頭をぽんぽんと叩いた。ハレスのウェーブかかった黒い髪は絹のような滑らかで柔らかく、心地の良い触り心地であった。
以前、ハレスはかつて一緒に住んでいた執事にこうしてもらうと心が安らぐのだと言っていた。
そのため、俺は緊張が解れるだろうかと思い、少し恥ずかしながらもこうした。
「え、えへへへ……ありがとう、ユウタ」
ハレスが顔を赤くし、微笑んだ。これで少しは緊張が解れただろうか。
「……ロリコン」
背後からドスの効いたリオンの声が聞こえたので、俺はハレスの頭をぽんぽんと叩くのを止めた。
俺はロリコンではない。ハレスの年齢は十五と聞いている。俺と三つくらいしか離れていない。
そのため、断じて俺はロリコンではない。そう自分に言い聞かせた。
その後のシューティングは、ハレスがいつもの様子でレイアップシュートを決めていたため、とりあえずは安心した。
タイマーの残り時間が五分になると、『ピー』という甲高い電子音がタイマーから鳴り響いた。
「みんな、集合して!」
リオンが無人のベンチに向かうので、俺もベンチに向かった。恐らくは三人でミーティングをするのだろう。
そう思ったのだが、
「やぁ」
突然、ベンチに白い帽子を深く被り、白いパーカーを羽織った人が参上した。くいっとキザに帽子を上げ、それがラグリーであることが分かった。神出鬼没でこいつは瞬間移動で現れてくるな。
「ラグリーか。びっくりしたなぁ。ラグリーも今日、見に来てくれたんだな」
「まぁね。いい人材がいればスカウトする予定だから、この目で見ておきたかったんだ。えーっと、君がハレスちゃんだよね? リオンから話は聞いてるよ。ものすごい才能を秘めた選手だってね」
「ふはははは! 我の力を見抜くとは、なかなかの見どころがあるな貴様!」
「ちょっと! ラグリーさんはうちのチームのオーナーでしかも監督でもあるんだから、ちゃんと敬語で話しなさい!」
「いて!」
ばちんとリオンはハレスの頭を叩いた。
「おい、リオン。ラグリーが監督だなんて、俺も初めて聞いたぞ」
「あ、ごめん。そうだっけ」
「監督といっても、少し助言をしたりするくらいだから、あんまり期待はしないでくれ。それよりももう少しで試合でしょ? 三人とも頑張ってね」
ラグリーは手を挙げた。
「必ず勝ちます!」
リオンがパンとラグリーの手を叩いた。これ、俺もやるのか。
「期待して見ててくれ」
リオンに続けて、俺もラグリーの手をパンと叩いた。
「頑張ってね」
ラグリーが俺に応援の言葉を投げかけてきた。ラグリーに言われるとなんか照れくさいな。
「我の力で相手を屈服してみせよう!」
ハレスもリオンの手を叩いた。タイマーを確認すると、いつの間にか残り時間は三分を切っていた。
四人で円をつくり、ミーティングを行う。
「いい? 相手チームは女子二人、男子一人のチームよ。ルールは覚えているわね?」
「ああ」「もちろんである」
俺とラグリーが同時に答えた。
スリーオンスリーのルールは通常の試合とは異なり、ハーフコートで行われる。
先に十点を決めたチームの勝負になり、どちらのチームが十点を決めるまでは試合が続く。
通常の試合であれば、どちらがオフェンスを始めるかはジャンプボールで決めるのだが、この大会ではコイントスで行う。
「ディフェンスはマンツーで行くわよ! ユウタは男性の選手を。私は女性の選手で背の高い選手の方をマークするわ」
「分かった」
頷いた瞬間、タイマーの鳴る音が耳に入った。タイマーを見ると、すでに時間はゼロとなっている。
「エンジェルライトのチームの皆さんは、こちらのコートにお集まりください!」
審判の声が聞こえてきたのは、敵チームがシューティングをしていた方のコートだった。
試合は向こうのリングで行うらしい。
向こうのコートに移動すると、敵チームが警戒する様子でこちらを見ていた。
俺がマークすることになる男の選手は俺よりも身長が少し高く、金髪で耳にピアスをしていた。あんまりスポーツマンっぽくはないかな。
女性の選手はと言うと、どちらも黒髪で背の高い方の選手はヘアバンドをしていた。
身長はラグリーよりもやや高いくらいである。
背の低い方の女性選手は右手にリストバンドをしており、四番のユニフォームを着ている。この人がキャプテンなのだろう。
「エンジェルライトのラグリーさん、表ですか? 裏ですか?」
「それじゃ、表で」
「では、マグナムズの皆さんは裏でよろしいですね?」
審判は相手の四番に裏でいいか確認した。
「はい」
審判はコインを指で弾いた。手のひらで受けとり、反対の手で隠して、数秒ほど待つと、コインを俺たちに見せた。
コインは裏であった。
「それでは、マグナムズからオフェンスを始めてください」
「ご、ごめんなさい。二人とも」
「気にするな。しっかり守ればいいだけだ」
この大会は先にオフェンスを始めた方が有利となる。どういうことかというと、例えばお互い一度も相手のオフェンスを止めずに十対八となった場合。
これは問答無用で先にオフェンスを始めた方が勝ちとなってしまう。
あまりないケースではあるらしいが、少なくとも攻撃回数が多い方が有利ということである。
そのためこの大会は運もそれなりに関わってくる。
俺はリオンの指示通り、男の選手についた。
「お手柔らかに頼むよ」
マークしている選手が話しかけてきた。
「ええ、こちらこそ」
ぶっきらぼうに返事をする俺。不安なのはやはり、ハレスのところ。スリーオンスリーは五対五とは違い、一人ヘルプに行けば、すぐに絶好の攻撃チャンスが生まれてしまう。
「ハレス! あんまり前に出すぎるなよ」
「わ、分かった」
俺の指示通り、ハレスは適度な間合いを取った。よし、それでいい。
『ダム』という、ボールの弾む音が聞こえた。相手のキャプテンの突き出しのドリブルにしっかりとハレスは対応していた。
「いいぞ! その調子だ!」
わずか三日ほどしかたってないのに、ある程度ディフェンスの形が出来上がっている。驚くべきバスケットセンスだと言わざるを得ない。
相手のキャプテンは俺のマークしている選手にパスを出した。
「味方に指示出すなんて、結構余裕っすねー」
「いえ、そうでもありませんよ」
シュートフェイクを入れ、相手はドリブルを仕掛けてきた。
俺はコートにボールが着く前にすかさず、ボールをカットした。
「え?」
一瞬でボールを奪われてしまい、相手の選手はキョトンとした顔をしていた。
「ちょっと、リョウ! 何やってんの!」
「す、すまない……」
相手の攻撃を防いだため、今度は俺たちのオフェンスから。
俺はボールを持ち、考えた。さてと、どう攻撃を仕掛けるべきかと。
「ゼッテー止める……」
さっきのがよほど、悔しいのか鋭い眼つきで俺を睨んだ。闘志がビシバシと感じる。
おそらく、一対一でも奴を抜ける。抜けるが……
俺はリオンの目配せを行なった。スリーポントラインからボールを持たない状態でゴール下に駆け込むリオンに対し、俺は高くパスを出した。
「ま、まさか、シュートだと?」
さすがにそれは無理。今のはパスである。
「オラァ!」
リオンが叫んだ、次の瞬間、リングから『ガシャン』という力強い音が鳴り響いた。
リオンが俺の合図に気づき、アリウープパスを出してやると、見事にキャッチし、ダンクシュートを決めた。
迫力あるリオンのダンクシュートを見た、ギャラリーは「す、すげぇ……」、「なんだ今の!」とそれぞれ感想を述べていた。
「ナイスパス」「ナイスシュート」
俺とリオンはハイタッチを行なった。
会場の雰囲気に飲み込まれたのか、相手チームの動きはあまり良くなく、ちょくちょくハレスが抜かれはしたものの、俺とリオンでうまくカバーし、守ることができた。
試合は十対四で俺たちの勝ちとなった。
「十対四でエンジェルライトの勝利です。それでは、次試合するチームは中に入ってください!」
俺たちはコートを後にしたのであった。




