シュートの指南は難しい
「それじゃ、まずは早速シュートを打ってみてくれ」
「良かろう。刮目せよ、我がシュートを!」
スリーポイントラインからハレスは鋭いドリブルを決めた。さすが、ドリブル力は目を見張るものがあるな。
そして、リング目掛けてレイアップシュートを放るのだが――
「ああ!」
ボールは一度、ボードに強くあたり、リングにはかすりもせず、外れてしまった。
「強大な我が力をどうやら上手くボールはコントロールできないようだ」
「いや、お前がボールを上手くコントロールできないんだろ」
ハレスは悔しそうに「ぐぬぬ……」と歯ぎしりをした。
「そういえば、バスケを始めて一ヶ月って言ってたな。ドリブルは結構、マスターしているみたいだけど、どんな練習してたんだ?」
「うむ。我が住んでいた家が山の上にあるんだが、麓から頂上までドリブルで上り下りしてた。ただそれだけだ」
「な、何?」
まず、家が山の上にあることも少し驚いたが、もっと驚いたのは練習方法。
山というのは普通、土や草が生い茂っており、ボールが弾みにくいはず。そんな環境の中でドリブルをして、しかも登山、下山をしたと。
山がどれくらいの標高なのかは不明だが、これはものすごいことである。
「そんなところでドリブルなんてできるのか?」
「ははは、我にかかれば造作もないことである!」
「そ、そうか。とりあえず、次は俺が見本を見せるからしっかり見ておけよ」
俺はボールを持ち、ゆっくりとドリブルを始める。
ボールをボードに置いてくるイメージでシュートをした。ボールはボードの角にあたり、パサッとフープの中に収まった。
「どうだ? 参考になったか?」
「うむ。もう完璧だ!」
俺はハレスにパスを出し、ボールを受け取るとハレスは再び、ドリブルし、レイアップシュートを打った。
しかし、ボールはリングには当たったものの、またもや外れてしまった。
「うおおおおお! なんでだぁ!」
ハレスは悔しそうに項垂れた。気持ちは分からないでもないが。
俺もミニバスの頃、レイアップシュートを試合で決めれるようになるまでに相当の時間を要した。
だが、スリーオンスリーの大会までもう時間がない。最低でもレイアップシュートは決めてもらえるようになって貰わなければならない。
「いいか? まず思ったのがシュートを打つ時、硬くなっている。リラックス、リラックス」
「リラックス、リラックス……」
俺の声に反芻するようにそう唱え、深呼吸を始めた。
「そうだ。そして、シュートを打つ時はボードの四角部分があるだろう。その四角の角の部分をコツンと『当てる』つもりで打つんだ」
「当てるつもり……よし、それじゃやってみる!」
俺のアドバイスをを受けて、イケると思ったのか、ハレスは意気揚々とドリブルを始めた。
「シュートを打つ時はリラックスだぞ! リラックス!」
一、二と軽快にハレスはステップを踏み、ボールを高く放り投げた。
ボールはボードの四角の上角部分へと当たり、見事にリングに吸い込まれていった。
「やった! やったぞ! 我の隠された力が今解放されたぁ!」
シュートが初めて決まり、ハレスは無邪気に喜んでいる。
バスケを始めた頃の自分を見ているようで微笑ましい。思わず、笑みが溢れそうになる。
「ナイスシュート!」
「は! ま、まあ。我の強大なる力を持ってすれば当然のこと。ええ、当然のことだとも」
恥ずかしくなったのか、元の口調へと戻った。
「そうか。なら、その強大なる力をもっと使ってもらおうか。次は何本も決めれるように練習。そして、左手でも決めれるように練習だ。いいな?」
「ああ! 我の真の力を見せてやろう」
そうして、俺はその後もひたすらハレスの練習に付き添った。
ハレスは飲み込みが非常に早く、すぐに左手でのレイアップシュートも決めれるようになったため、ディフェンスをつけてのレイアップシュートの練習も行った。
「行くぞ! ユウタ!」
「おお、どんどん来い!」
キレのあるハレスのドリブルについていった。やがて、シュート体制に入ると、ブロックはせず、ブロックしない程度にディフェンスをした。
俺のディフェンスなどまるで意に介さないといった感じで、ハレスはシュートを決めた。
「大分、入るようになったな。一日でここまでできれば上出来だ」
「はっはっはっ! 我の力を持ってすれば当然のこと! これで本番も優勝間違いなしだ!」
高らかに笑い、Vサインをするハレスであった。嬉しそうで何よりだ。
「なぁ、ハレスはどうしてバスケをしようと思ったんだ?」
かなりの才能を秘めているハレスがどんなきっかけでバスケを始めたのか気になった俺はバスケを始めた理由について聞いてみた。
「我は高潔なる血統の者でな。結構、大きな家に住んでいたのだ」
高潔なる血統ね。家は貴族かなんかだろうか。
「なるほど。それで、バスケをする機会があったのか?」
「いや、なかった……というか、バスケの存在すらも二ヶ月ほど前まで知らなかった。しかし、ある時、父上に内緒で街を訪れた時、バスケの試合を見たのだ」
「へぇ……どことどこの試合だ?」
「確か、『デビルメイデンズ』っていうチームの試合であった。敵チームの名前は忘れたが、デビルメイデンズの選手のプレイは我の心を滾らせた。本当にすごい試合であった……」
「デビルメイデンズか……それでバスケを始めたのか?」
「いかにも。父上からは大反対されたが、執事にナイショでバスケットボールを買ってもらい、日々練習に励んでいた。練習を始めて一ヶ月立った後、家を飛び出し、色んなチームの試験に受けさせてもらおうと思ったのだ……ほとんど試験すらさせてもらえず、落とされたがな! あいつらめ!」
ハレスの言葉には怨嗟の思いが込められていた。それよりも気になったのが……
「お前、家出したのか?」
「……」
すると、ハレスはバツが悪そうに無言のままそっぽを向いた。
「おい」
全くこっちを見ようとしないハレスだった。それどころか口笛を吹いて(吹けてなかったが)誤魔化していた。
これは後でリオンと相談した方がいいかもしれない。親御さんもさぞや心配していることだろう。
「あら、二人ともまだ練習してたの?」
リオンの声が聞こえた。入り口の方を見ると、リオンがボールを持って、こちらを見つめていた。
「おお、リオン。今までどこにいたんだ?」
ハレスの練習に夢中になっていたため、リオンがいつの間にかコートからいなくなっていたことに全く気がつかないでいた。
「街の方まで行ってスリーオンスリーの大会の申し込みしてきたのよ。あとついでにちょっと買い物もしてきた」
「そうか、それはお疲れ様」
「それで、どう? 調子は」
「勿論、順調である。我の力を持ってすれば、これくらいどうってことない!」
「そう。それじゃちょっと見せてもらえるかしら」
「よかろう……刮目せよ! 我の強大なる力を!」
ダムダムと力強いドリブルを行い、さっきまで何度も反復練習を行ったレイップシュートを打った。
研ぎ澄まされたように放たれたハレスのシュートは鮮やかに決まる。
「どうだ? 驚いたか。我の力を」
「ええ、まぁ。資質は認めるわ。けど、それだけじゃ試合では通用しないのよ」
そう言うと、リオンはズカズカとハレスに近づいていった。
「ひぃ!」
怒られると思っているのか、ハレスが怯えたような表情を見せた。これはなんか、一悶着あるか?
しかし、リオンはハレスから一定の距離を取ると、腰を低くした。
「な、何なのだ?」
「一対一よ。さぁ、来なさい」
カモンカモンとばかりに手を動かすリオン。一方のハレスは自分の実力を存分に示すことができると思っているのか、なんだか嬉しそうであった。
「よかろう! では行くぞ!」
ハレスの素早いドライブは、一歩でリオンを抜き去った。
「お、おいリオン!」
ハレスのドリブルは確かに脅威かもしれないが、まさか一歩も反応できないだなんて、いくらんでもおかしい。
「貰ったぁ!」
ハレスがレイアップシュートを打とうとした。しかし、次の瞬間、
「オ……ラァ!!!」
リオンが振り向くと、一気に駆け出し、フリースローラインから大ジャンプをすると後ろからハレスのシュートを豪快にはたき落した。
「な、何だと!」
ボールは『バコン』と強い音を出し、ボードにぶつかると勢いよくリングとは逆の方向へ飛んでいった。
「す、すげぇ……」
感服の一言である。あんなに凄まじいブロックは実際のプレイでは見たことがない。
それに相変わらずジャンプ力もすごかった。改めてリオンのポテンシャルの高さを感じることができた。
「ぐ、ぐぬぬ……」
リオンにブロックされたのがよほど悔しいのか、ハレスは歯ぎしりをして、リオンのことを見つめていた。
「いい? ハレス。厳しいこと言うけど、レイアップシュートだけじゃバスケはやっていけないの。常にディフェンスがいるんだから自由にシュートを打てる機会なんてそうそうない。それを忘れないようにね」
ハレスにアドバイスを告げると、リオンは踵を返し、何事もなかったのように一人でシューティングを始めた。
「く、くそ! おい、ユウタ。今度はさっきみたいなブロックを交わすことのできるシュートを教えてくれ」
「まだダメだ。それを教えるのは早すぎる」
「えー!? 何でだ。もっと上手くなりたいのに」
リオンのやつ。もしかしてハレスにやる気を出させるために一対一をしたのだろうか。結構良いところがあるじゃないか。
次の日から大会までの間、俺はハレスにゴール下のシュート、パスの基礎等を必死に他隊混んだ。
いかんせん、時間が足りないと思ったが、ハレスはあっという間に自分のスキルへと昇華させることができた。
そして、ついにスリーオンスリーの大会の日がやってきたのだった。




