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食堂でお昼ご飯を食べ終えた俺は練習着に着替え、コートへと向かった。ちなみに練習着はリオンが手渡してくれた。
昨日着た練習着は洗濯機に入れておけとリオンから指示された。ちなみに洗濯機の中はいつの間にか空になっていた。
リオンから断固として洗濯は自分ですると言われた。俺は圧倒されながらも承諾した。まぁ、俺が洗濯するわけにはいかなしな。というか洗ったものはどこに干すつもりなのだろうか。
すでにコートにはリオンがいた。華麗なフォームでひたすらスリーポイントの練習を打っていた。バスケをするリオンの姿は本当に美しい。
俺も反対側のコートでシューティングをすることにした。
フリースローライン一歩手前から打ったシュートはリングに触れることなく決まった。
やはり、シュートを決める瞬間はとても気持ちがいい。
その後も何本かシュートを打ち続けていると、
「頼も――――――――!」
という大声と共に何者かが勢いよくコートに入ってきた。
声のする方に目を向けると、ウェーブのかかった黒い髪の幼い少女が仁王立ちしていた。
服装は無地の黒のスポーツTシャツと黒の短パンというまさに黒一色。おまけにバスケットシューズまで黒色である。頬には何やら複雑な黒い模様が書いてあった。
少女は背が低く、可愛らしい童顔で見た目は中学生くらいの歳に見える。
「えーっと、どちら様?」
突如、やってきた少女にリオンは訝しんだ様子で正体を訊いた。
「我の名はハレス。強大なる魔力を秘めし者である。汝よ、我の強大なる力を欲するか?」
「えーっと、いや、いいかな……?」
「な……!?」
ハレスという少女は大きく目を開き、驚愕の表情を浮かべた。
「リオン、入団希望者じゃないのか?」
俺がそう言うと、ハレスの顔がパァ……と明るくなった。
「い、いかにも! 我が強大なる力をお見せしたいと思ってな。さぁ、どうする?」
「なーんだ、入団希望者ね! そうならそうと言えばいいのに」
「リオン、入団試験って何するんだ?」
「ラグリーさんからは試験の内容は私に全て任せるって言われているから、どんな試験やるかは特に決まってるわけじゃないのよね」
「へぇ……」
随分と大雑把だなぁと思ってしまった。普通はちゃんとした体力試験や技能試験、面接のようなものが設けられているものではないだろうか。
「なら、もう入団してもらえばいいんじゃないか? 俺たち二人しかいないし。それに、スリーオンスリーの大会も出れるだろ?」
「はぁ? いくらアマチュアリーグと言っても、ある程度の実力を持った選手に来てもらわないと困るわ。それに、給料だって、そうぽんぽんと出せるもんじゃないのよ」
「そ、そうだな……」
正論すぎて、ぐうの音も出なかった。規模に関わらずどんな組織に加入する際は試験のようなものがつきまとう。
「おい、いつまで待たせるのだ。早く、我が魔力を解放させよ」
「えっと、ハレスちゃんだっけ? あなた、バスケで魔法を使ったら反則ってことは知ってるの?」
「も、もちろん知ってるぞ。ええ、知っているとも」
ハレスの顔から冷や汗がダラダラと流れて来ていた。それに加えて、目が明らかに泳いでいた。
汗を舐めれば、嘘をついている味になっている気がする。かく言う俺も魔法を使ったら反則だなんて今知ったのだが。(そもそも魔法を使えないので関係ない)
「そう。まぁ、いいわ。それじゃ私と一対一をしてもらうかしら。それであなたの実力を計らせてもらうわ」
「なぁ、リオン。それ、俺にやらせてくれないか?」
俺がそう言うと、リオンが「え?」と俺の方を向いた。
「駄目か?」
「まぁ、別にいいわよ。それじゃ、審判は私がするわね」
そう言うわけで、エンジェルライトの入団試験が始めることになった。
試験官はこの俺、五十嵐裕太で、受験生はハレスという少女である。
試験内容は一対一。オフェンスは俺から始める。
「さぁ、どっからでも掛かって来るがいい。我の『パー︎⤵︎フェクトディ↖フェンス』で防いで見せよう」
独特のイントネーションだなぁと思いつつ、オフェンスを開始した。まずは手始めにシュートモーションを入れる。
流石にジャンプするなんてことはないが、相手は少なからず反応し、間合いを詰めて来るはず……
「ハァ!」
いや、ものの見事にハレスはジャンプした。それはもう、見事なジャンプだった。
すごいジャンプ力である。リオンと大差ないのではと思うくらいのジャンプ力。滞空時間も長い。
しかし、滞空時間が長いのはここでは仇となる。
俺は高らかに飛んでいるハレスを置き去りにし、ドリブルで抜き去った。
一、二、とステップし、そのまま鮮やかなレイアップシュートを決める。
ハレスの方を見ると、
「ふむ、貴様……なかなかの策士のようだな。あんな見事な幻影を作り出すとは」
幻影って何の変哲も無いただのフェイクなんですが。
「よし、あなた。もう、帰っていいわよ。それじゃ、ユウタ。練習を始めましょう」
先ほどのプレイを見たリオンはお前は不合格と暗に示し、練習に取り掛かろうとした。
「な……? 待て待て待て! まだ、勝負の途中であろう? それに我の力はこんなものではない。まだ強大なる力を隠し持っているのだ!」
俺はまだ本気を出していないだけ、というニートが使う常套句を用い、リオンに抗議するハレスを見て、思わず憐れみの感情が芽生えてしまった。
「なぁ、リオン。もう少し見てやってもいいんじゃないか? せめて、オフェンスだけでもさせてやろうぜ」
「しょうがないわね。分かったわ。それじゃ、今度はハレスのオフェンスからね」
そうリオンが言うと、ハレスが嬉しそうな顔をした。
「よ、良かろう。今度こそ我が力をお見せしよう!」
というわけで、今度はハレスの攻撃。ハレスはボールを持ち、ギラギラとした目で俺のことを見つめた。
右? 左? それともシュートで来るか?
俺はシュートチェックが出来るギリギリの間合いでディフェンスした。
「ハァ!」
ハレスが叫んだその刹那――振り向くと、ハレスが俺の後ろにいた。
かなりの速さのドリブルから放つハレスのレイアップシュートは、『ゴン』とボールがリングの真下にあたり、勢いよくハレスの顔面に跳ね返っていた。
「ぶ!」
バタンと、ハレスが倒れ込んだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
リオンが心配そうにハレスに駆け寄った。
ドクン、ドクンと心臓が激しく振動している。
抜かれた。この俺があっさりと。クエスト帰りで足がパンパンとなっている状態とは言え、こんなに簡単に抜かれるとは思ってなかった。
シュートこそまだ未熟なものの、こいつ(ハレス)はとんでもない才能を秘めている。
それこそ、俺やリオンを凌駕するくらいの――
「も、問題ない! それよりも先ほどは少し焦ってしまった。もう一度、オフェンスをさせてほしい」
ハレスはボールを持つと、オフェンスを再び始めようとした。そんなハレスを見て、リオンは困ったような顔をしている。
「あの、悪いだけどこれ以上は……」
「リオン、ハレスを合格にしてやってくれないか?」
「「え?」」
リオンとハレスが同時に呟いた。
「なぁ、ハレス。バスケを始めてどれくらい経つ?」
「ふ……我は生まれて来る前からバスケを愛しておるわ」
顔に手を置き、厨二病っぽいポーズを決めて答えた。
「いや、そういうのいいから。ちゃんと答えてくれ」
「……一ヶ月くらい」
バツが悪そうに答えるハレス。一ヶ月でこの素早いドリブルが出来るようになるとは。驚きである。
「一ヶ月って……幾ら何でもそれでアマチュアリーグの選手を目指すなんて早すぎるわよ。私だって三年間くらいは練習積んで、アマチュアリーグの選手になったのよ!」
リオンの言うことも一理あるが俺はどうしてもハレスを入団させて欲しいと感じた。
「けど、リオン。さっきのドリブルを見ただろ。あれは並の才能のやつができるドリブルじゃない。絶対にチームに入れるべきだ」
「そうだろう、そうだろう! あはははは、よく分かってるな貴様」
「貴様っていうのはやめろ。ちゃんと名前で呼んでくれ」
「えーっと、ユウタだったな。お主は見る目があるな。えーと、リオン。どうするのだ? 我を入団させるのか、させないのか?」
「リオン、俺に任せてくれれば予選トーナメントまではハレスを立派な戦力にしてみせる。だから、入団させて欲しい」
「まぁ、ユウタがそこまで言うのなら……分かったわ」
渋々ながらもリオンはハレスの入団を許可してくれた。
「良かったな、ハレス。合格だってさ」
そう告げると、ハレスはニヤケそうになるのをグッと堪えているの分かった。その証拠に顔がヒクつかせている。
「まぁ、我の強大なる力を持ってすれば、当然のことである! それよりも、さっきの続きだ!」
「はいはい、それじゃハレスのオフェンスから再開な」
合格が決まったというのに、ハレスが一対一をしたいとごねるので、再び一対一を行うことにした。
腰を落とし、ディフエンスの姿勢をつくる。先ほどとは違い、ドライブを警戒し、ハレスから距離を取った。
『ダム』という、力強いドリブルの振動音が耳に届いた。確かに速いが来ると分かっていればどうってことはない。
先ほどとは違い、あっさりとハレスのドライブに対応することができた。
「クソ!」
やけになったのか、強引にハレスはレイアップシュートを打ちにいった。
俺もタイミングを合わせてジャンプし、それをはたき落した。
「はい。これで俺の勝ちと」
「ま、待ってくれ! もう一回だ! もう一回!」
「もういいでしょ。ハレス。何度やっても同じよ。今のあなたじゃ絶対にユウタには勝てないわ。これから練習して、強くなったらまた挑みなさい」
「うぅ……」
ハレスは悔しそうにうなだれた。気持ちは分からなくもない。自分よりも強い相手にコテンパンにやられたら俺も同じ気持ちになるだろう。
「それじゃ、練習を始めるわよ! まずはランニングから」
こうして、俺とハレスの初となる練習が始まった。
俺もこの世界に来る前は、インターハイを目指して、日々練習に励んでいたのだが、なかなかこのチームの練習は過酷であった。
「次、シャトルラン五本行くわよ!」
「お、おお!」
先ほど、たくさんフットワークの練習をしたばかりなのだが、休憩も与えずリオンが指示出してきた。
俺は必死に足を動かした。だが、思い通りに足が動かない。やはり、午前中のクエストの疲れが残っている。
「遅いわよ、二人とも!」
リオンは俺とハレスよりも速いスピードでシャトルランをこなしていった。何という体力であろうか。女性とは思えない。
「くっそー! 負けるか!」
対抗意識を燃やしたのか、ハレスは速度を上げた。まずい、俺もついていかねば。女性に負けるのは男としてのプライドが許さない。
「よし、次は一対二で行くわよ! まずは私から。ユウタ、ハレス。ディフェンスして頂戴」
「分かった。よし、ハレス。止めるぞ!」
「任せておけ! 我のディフェンスで止めてみせよう!」
すると、何を思ったかハレスはリオンのドリブルをカットしにいった。それをリオンはレッグスルーで鮮やかに躱す。
ハレスが勢いよく前に飛び出してしまったため、実質俺とリオンの一対一となった。
「バカ! そんなあっさり飛び込んで行くやつがあるか!」
「よし、もらい!」
リオンは力強く前の方向に体を預けるようにドリブルし、ジリジリとゴール下まで俺を押し込んだ。必死に力を込め、押し込まめれるのを耐えようとしたが、ダメだった。
「オラァ!」
リオンは宙高くジャンプし、リングの真ん中にダンクシュートを叩きこんだ。
ああ、あっさりと決められてしまった。ボールを拾い、ハレスの元へと歩み寄った。
「お前なぁ。あんな、無謀に飛び込んで行くやつがあるか!」
「す、すまない……」
俺が苦言を呈すと、ハレスは意外にも素直に謝った。本当に申し訳なさそうで少し気の毒になった。
「ま、まぁ、次からは気をつけろよ」
あんまり強く言って、バスケが嫌いになってしまうのも困る。ハレスの才能は本物。
ディフェンスも経験を積んでいけば徐々に実力が上がっていくことだろう。
その後も地道なメニューをこなし、今日の練習が終了した。
「お疲れ様。ストレッチを各自でしっかりとしておくようにね」
「あ、ああ……」
全く。かなりハードな練習だった。ハレスはと言うと、俺の横でうつ伏せになって寝っ転がっていた。
「ハレス、お前大丈夫か?」
「もちろんだ……こんなもの全く屁でもないわ」
とてもそうには見えないが。激しく息を切らしている。
「リオン。俺たちのチームはこれで三人になったから、スリーオンスリーの大会に出るよな?」
「え? 本当に出る気なの? もう四日しかないんだけど。実質、ツーオンスリーよ」
「あはははは。リオンは謙虚だなぁ。リオンだってかなり上手いじゃないか」
自分のことだと思っていないのかハレスが笑ってズレたことを言った。
「いや、ハレスのことを言ったんだけど」
「な……!?」
ハレスはショックを受けてしまった。いや、幾ら何でもリオンの言葉はひどいな。
「まぁ、四日もあればレイアップのシュートの向上くらいはできるだろ。おい、ハレス。レイアップシュートを教えるから起きろ」
「良かろう!」
たった今まで寝っ転がってたのがハレスはやる気満々という感じで起き上がった。
「お前が寝ていたところにちゃんとモップかけておけよ。汗で滑るからな」
「ああ、分かった」
ストレッチをし、ハレスがモップ掛けを終えた後、俺は早速ハレスにレイアップシュートを教えることにした。




