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クエスト

 その日、俺はリオンが使っている二段ベッドの下で寝た。

 そして、その次の日の朝。誰かに身体を揺すられ、目が覚めた。

「ほら、ユウタ。起きて」

「ん……」

 眠い目をこすり、目を開けると、リオンの顔が近くにあった。

「うわ!」

 びっくりして、飛び上がってしまった。心臓がバクバクと鼓動を打っている。女性に起こされるなんて今まで悲しいことにお母さんくらいしかなかったからとても驚いた。

「何よ、そんなに慌てて。それより今日はクエストの日でしょ! もうすぐラグリーさんがやって来るんだから急いで支度して!」

 朝ごはんを食べ、ラグリーが用意してくれた防具やら装備やらを身につけた。

 しかし、剣や槍など、攻撃用の武器は一つも持たされることはなかった。自衛用の武器を渡すとかラグリーが昨日、言っていたがあれは嘘のようである。

 ちなみにリオンはというと、これからクエストに行くというにも関わらず、白い半袖のスポーツTシャツとメッシュ素材でできた赤いバスケ用のハーフパンツドというラフな格好をしていた。さらに、お洒落のつもりか頭に白いヘアバンド、両腕には青色のリストバンをつけている。

「なぁリオン。俺の防具、かなり重いんだが」

 どこぞの戦闘民族の師匠が担いでいる甲羅並みに重いのではなかろうか。

「そりゃあね。練習の一環だから」

「練習?」

 訝しんで俺が聞くと、リオンが「ええ」と頷き、説明を始めた。

「モンスターと戦ってたりするのは基本、私とラグリーさん。ユウタには基本的に荷物持ちをしてもらうわ。ほら、あっちを見て」

 俺はリオンが指差した方向を見た。リオンが指差していた先は急斜面の高い山だった。

「あ、あそこまで歩いていくのか?」

「ええ、もちろん」

 リオンが笑顔で答えた。目は全く笑ってなかったが。

「はぁ。気が重いな。リオンは普通に歩くんだな」

 皮肉を込めてそう言ったのだがリオンは首を傾げた。

「え? 私だってこれつけてるわよ」

 リオンは「ほら」とリストバンドを見せてきた。

「いや、これ全然重くないだろ?」

「いいえ、持ってみて」

 リオンが右腕につけているリストバンドを外し、俺に渡してきた。

「う……お!」

 リストバンドを手に持つとズシリとした重量感を感じた。これ一つで多分十キロくらいあるのではないだろうか。

「どう? 結構重いでしょ? ヘアバンドも同じくらいの重さよ。持ってみる?」

「い、いや。もういいよ……」

 リオンはクエストに行く度、いつもこんなハードな練習をしているのか。

 それにしてもあそこの山まで歩いてしかもこの重い防具を付けていくのはかなり重労働である。歩く前から気が重い。身体も重い。

「なぁ俺は荷物持ち以外、何かすることはないのか?」

「特にないわ。強いていうなら、死なないように気をつけてね。って言っても、私とラグリーさんがいるから大丈夫だと思うけど」

 まぁ、確かに魔法とか全く使えない俺が参戦してもありがた迷惑になるだけだな。少し悲しくなるが。

「やぁ、待たせたね」

 不意にラグリーが現れた。今日のラグリーは白いローブを身に纏っていた。

「ラグリーさん。おはようございます。今日はどうぞよろしくお願いします」

 リオンは深々と頭を下げた。俺が鎧を被っているのが面白いのかポーカーフェイスを少し崩しわずかに口角を上げたように見えた。

「うん、それじゃ早速行こうか。ユウタ、それじゃこれを持って」

ラグリーからずっしりとした金属製の箱を渡された。結構……重いぞ。

「これ、何が入ってるんだ?」

「開けても良いよ?」

 ラグリーがそういうので俺は箱を開けた。中には緑色の液体が入った透明なビンが十本ほど入っていた。

 俺はその中の一本を取り出した。見た目的にはメロンジュースっぽい。

「ラグリー、これって……」

「うん、ポーションだよ」

「はぁ、ローション?」

すると、ラグリーの白い肌がみるみるうちに赤くなっていった。

「ち、違うよ! ポーションだよ、ポーション! 回復薬! クエスト中、ダメージを受けても、これを飲めば回復するんだよ」

 少しふざけただけだったんだが、随分取り乱したな。

「ああ、なるほど、便利だな」

「全くもう……裕太ってば。それじゃ、早速だけど、クエストに行こうか」

「ええ! 行きましょう! ユウタ、着いてきなさい!」

「ちょ、ちょっとリオン待ってくれ!」

 楽しそうにスキップで向かうリオンを俺は駆け足で追った。




 体育館を出てからおよそ二時間後、俺たちは目的地の手前まで到着した。

「はぁ、はぁ……やっと着いたぁ」

 急な斜面を重い装備をつけながら登った俺はすでにヘトヘトになっていた。

「あらあら、かなり参ってるわね、ユウタったら。でも、異動したチームメイトもこれやったらクエストの途中でリタイアしたからやっぱりユウタは凄いわね」

「他の奴はクエストの途中で挫折したのか。まぁそりゃそうか」

「うん。だから結局、私とラグリーだけでクエストに行く羽目になるっていうね」

「ははは……」

 失笑しか溢れる。ラグリーってもしかして他のチームメイトとうまく行っていなかったのではないだろうか。

「それじゃ、クエスト始めるわよ。この先にグロテルスデビルワームがいるわ。口から強烈な毒液を放つからユウタはくれぐれも近づかないでね」

 名前からしてやばそうなんだが。ってか毒液? やばくね?

「それじゃ、行くわよ!」

 意気揚々とリオンは歩を進め、なんちゃらワームがいる場所へと向かった。

「グオオオォン!!!」

 目の前にいたのは黒色の肌で長い身体をした、無数の鋭い歯が生えているミミズを巨大化させたような全長十メートルほどのおぞましい生き物だった。

「おいおいおい、やばそうなモンスターだな」

 すると、何ちゃらワームは口から黒と紫が入り混じった液体のようなものを俺に飛ばしてきた。

「うわぁ!」

 思わず、目を瞑った。すると、

「ライトニングバリヤー!」

 リオンの声が聞こえてきた。目を開けると、リオンが俺の前に立って、魔法で作り出したと思われる黄色のバリアを俺とリオンに周りに発生していた。

「ユウタ、もっと下がってて!」

「あ、ああ……」

 リオンの指示に従い、俺はもっと後ろに移動した。

「安心して、ユウタ。あなたは私が守るわ!」

 やばい。かっこいい……! リオンさん、まじ漢らしい。王子様のようである。

 残念あがらその王子様は女性だが。

「ふふふ。熱いねお二人さん」

 無表情のまま、抑揚のない口調でラグリーが茶化してきた。

「や、やめてください! ラグリーさん! それよりもサポート、お願いします」

「りょーかい。『バインド』」

 ラグリーが右手をモンスターにかざすと、突如、地面から大量の蔓が発生し、モンスターの体に絡みいていった。

「グォォォオオオ……」

 身体を拘束され、モンスターは苦しげな鳴き声を出していた。

「さすが、ラグリーさん! それじゃ、トドメと行くわ! 『ボルテックサンダー』!」

 リオンがモンスターに手を向けると、モンスターの真上から大きな黄色い魔方陣が浮かび上がり、無数の雷の槍が降り注いだ。その槍はグサグサと容赦なくモンスターの身体を貫いていく。

「グオオォゥン……」

 断絶魔を上げ、モンスターはバタッと生き絶えた。

「よし! ミッションコンプリートよ!」

 リオンは得意げに俺にVサインをしてきた。超強いな、リオンのやつ。

「お疲れ様。リオン。それじゃ、ギルドハウスに行こうか」

「ラグリー。ギルドハウスって?」

「簡単に言えば、クエストやダンジョンを紹介してくれるところだよ。たくさんの冒険者がいて、パーティを組んだりすることもできるんだ」

「なるほど、ギルドハウスか。楽しそうなところだな」

 すると、ラグリーの立っている場所から大きい青色の幾何学模様が描かれている魔法陣が現れた。

「リオン、裕太。ギルドハウスにいくから魔法陣の中に入って」

「ラグリーさん、ちょっと待っていてください!」

 ラグリーは右手から光の剣のようなものを作り出すと、モンスターの頭部をスパッとカットした。

「ええ――――ー!」

 俺は思わず、情けない声を上げてしまった。切断されたモンスターの頭部からはどす黒い血が流れ、リオンは慣れた様子で頭部を手に取った。

「それじゃ、ユウタ。行きましょうか」

 リオンは何食わぬ顔で魔方陣の中に入っていった。リオンの腕にモンスターから流れている血が付着し、ポタポタと血がリオンの腕から滴り落ちていた。

 俺もリオンに続いて、ラグリーが作り出した魔方陣の中へと入った。

「ワープ!」

 リオンが呪文を唱えると、俺たちは大きな木や石で出来ている建物の前にいた。屋根には煙突が付いており、サンタクロースないし、泥棒が侵入できそうである。

「さてと……早いところ、お金を貰っちゃおうか」

「そうですね。よし、フリーズ!」

 リオンの持っていたモンスターの頭部がたちまち凍った。

「血でギルドハウスの血を汚すわけにはいかないですからね」

 自分の腕は汚れてもいいんだな。俺たちはギルドハウスの中に入っていった。

 ギルドハウスの中では剣や杖など自分の武器を持ったたくさん冒険者が食事や酒を飲んでくつろいでいる。

 リオンとラグリーがズンズンと奥に進んでいくと、リオンは受付の人と思われる女性に話しかけた。

「アネミアさん! お疲れ様! ほら、見てこれグロテルスデビルワームの頭部」

 アネミアという人は薄紅色の長い髪を束ねており、メガネをかけていた。胸元が大きく露出した服と短パンを履いていた。見た目は俺よりも年上っぽくとても美人である。

 とてもスタイルが良く思わず、栄養の行き渡った胸に目が行きそうになる。

「さすが、リオンさん! それより、お連れの男性の方はどなたですか?」

 リオンは「ああ」と相槌すると、俺に手を指し向けて紹介をしてくれた。

「昨日、うちのチームに入団したイガラシユウタよ。ほら、ユウタ。紹介しなさい」

「昨日からエンジェルライトに入団しました。五十嵐裕太です。よろしくお願います」

 俺はアネミアさんに深々と頭を下げた。

「あらあら、ご丁寧に。改めて、ギルドハウスで案内の仕事をしてます。アネミアです。それじゃ、リオンさん、ちょっとグロテルスデビルワームの頭部を確認しますから、少々お待ちください」

 アネミアさんはモンスターの頭部を受け取ると、奥の部屋へと移動した。


 待つことおよそ一分。アネミアさんが戻ってきた。彼女の手には大きな袋を持っていた。

「確認したところ、確かにグロテルスデビルワームの頭部であることが確認できました。こちら報酬の五十万ペルスです。ご確認ください」

「ありがとう。アネミアさん」

 リオンが袋を受け取ると、金貨を一枚づつ袋から取り出し時間を掛けて枚数を数え始めた。

「……四十八、四十九、五十。確かに五十万ペルスあるわね。それじゃ、アネミアさん。またよろしくね!」

「ええ、リオンさんもバスケ頑張ってくださいね」

「ありがとう! それじゃ、また!」

 俺たちはギルドハウスを後にした。

「それじゃ、体育館に戻りましょうか! ユウタ、ここからまた歩いて帰るから覚悟してよね!」

「ええ、マジかぁ……」

 もう足がパンパンである。ここからまた歩くとはかなわんなぁ。

 渋々、俺はエンジェルハウスの体育館を目指して歩き始めた。

 歩いている途中、元の世界では見たことのない、人種がたくさんいた。猫耳を生やした人間や、明らかに人間とはかけ離れている種族もいて、初めてみる種族達にとても興奮する。

 そして、街ではたくさんのお店があり、活気に溢れていた。

 何よりも先ほどから俺の視界から遠く先に映る大きなファンタジックな雰囲気を醸し出しているお城に目が奪われた。

「すごいな。あのお城」

 ポツリと呟くと、ラグリーが振り向いた。

「そうでしょ。あそこで決勝トーナメントが行われるんだよ」

「あそこで?」

「そう。この街の王城の中にコートが整備されているんだ。プロリーグの試合もあそこでいつも行われいる。アマチュアリーグの試合は別の体育館で試合が行われるんだけど、決勝トーナメントだけは王城でするんだ」

「なるほどなぁ。そういえば、まだこの街の名前を知らないな。なぁ、ラグリー、なんていう名前なんだ?」

「『ペンディス』だよ。通称、バスケの街」

「バスケの街……そうか」

 よく見ると至る所にリングが置かれていた。バスケットボールを持って、どこかに向かう子供達もいる。

 この街では、バスケを愛し、バスケと共に生きようとする人たちが集まっているのだろう。すごく良い街である。

「ユウタもいいところだと思うでしょ? 私もこの街に来て良かったって思ってるわ!」

「そうだな。リオンはどこの街から来たんだ?」

「私は何の変哲もないエルフ族が集う小さな村で暮らしていたわ。けど、ある時、ペンディスでバスケの試合を見たんだけど、それにものすごく感動して。数年間、村でバスケの練習した後、この街に越して来たわ!」

 おお、なんかかっこいい。夢を追って、地方から上京して来た芸人みたいだ。いや、ちょっと違うか。

 ギルドハウスから歩いて三十分、街の外れにあるエンジェルハウスの体育館にようやく着いた。

「はぁー、着いた着いた」

 重い装備を装着し結局、一度も使わなかったポーションが入っている箱を持ちながら歩いたためか、一気に疲労が押し寄せて来た。

「お疲れ様。ちょうど、お昼時ね。ユウタ、一時間後に練習するから準備しておいてね。ちゃんとお昼ご飯食べておきなさいよ!」

「あ、ああ……」

 マジか、ぶっちゃけもうクタクタなんですが。普通に練習あるのか。

 沈んだ気持ちで、俺は食堂へと足を運ぶのであった。

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