新メンバーの加入
しばらく休んだあと、体が冷えないよう外でランニングなど軽い運動をした。
「そろそろ、次の試合が始まるわね。そろそろコートに入りましょうか」
「そうだな」
すると、突然ラグリーが瞬間移動で俺たちの目の前に現れた。
「うお!」
驚いて、少し大きい声を出してしまった。いやぁ、本当それびっくりするなぁ。
「みんな、エレメンツのメンバーとさっき話してきた。加入の件は考えてみるって言われたから期待が持てると思う」
「おお! そうか、それはやったな!」
エレメンツのメンバーが入れば、エンジェルライトのメンバーは六人。
これで、一応試合には出れる。だが、俺はそれでも新たに『あるポジション』の選手が必要になるだろうと考えた。
「そうですか! ありがとうございます。ラグリーさん」
リオンも喜んでいる中、ハレスがどこか複雑そうな顔をしていた。
「心配しなくても、これから俺が色々と教えるからさ。お前ならすぐに他のやつより上手くなると思うぞ」
試合前にテンションが低くなっては困ると思い、励ます意味を込めてハレスに話しかけた。これは本心ではあるが、俺だって簡単にハレスにバスケで抜かれるつもりはない。
「べ、別に心配などしておらぬわ! 我の強大なる力を持ってすれば余裕である!」
虚勢を張っているのが明らかで少し微笑ましい。
「そうかい、それは良かった」
そして、俺たちは次の試合をすることとなった。対戦するチームはバスティスというチームで、エンジェルライトと同じアマチュアリーグのチームである。最初こそこちらが優勢で試合運びを進めていけたのだが、向こうは先ほどの対戦を見ていたのか、ハレスにファールを仕掛けてフリースローを打たせるという戦法に出てきた。
試合中、その場でコツを伝えたりしたのだが、付け焼き刃の知識で入るほど甘くはなく、ことごとくハレスはフリースローを落とし、こちらの弱点である背の高い選手があまりいないため、オフェンスリバウンドが取れず、六対十で負けてしまった。
「ううう……みんな、ごめん。我が決めていれば……」
ガチ凹みな様子のハレスに対し、
「しょうがないわ! フリースローの練習なんてまだしてなかったし! これから、克服すればいいのよ!」
珍しくリオンが気を使ってフォローした。
「そうだな。三ヶ月後の公式戦に向けて練習だな。もちろんディフェンスの方もな」
先ほどの試合はハレスのところを重点的に攻められた。ディフェンス力の強化も必須である。
「お、おう!」
「優勝は出来なかったけど、みんな良く頑張ったよ。今日の試合はもうないし、帰ろうか」
「そうですね、ラグリーさん!」
すると、遠くから誰かがやってくるのに俺は気がついた。それが誰なのか俺には分かった。エレメンツの三人だった。
「みんなー! お疲れ様ー!」
ミツキが手を振りながら俺たちに近くづいてきた。走るたびに茶色の三つ編みの髪が靡く。
「お疲れ様です。皆さん」
リンカは奥ゆかしくぺこりと頭を下げた。おお、何て礼儀正しいのだろうか。
「やぁ、三人とも。もしかして、うちに入ってくれるのかな?」
ラグリーの目がキラキラと輝いてきた。物を強請るような子供のような表情であり、仮にも全く監督兼オーナーという感じがしない。
「ええ、もちろん! ウチらとしてもいずれどこかに入りたいって思ってましたから! ねぇ、アイリ!」
ミツキがアイリに聞くと、アイリはムスっとした表情になった。
「まぁね。せっかくだから入らせてもらうよ」
「ありがとう! これから、よろしく頼むよ!」
俺がアイリに対し、お礼を言うと、ギロっとアイリはアイリに対し、鷹のような鋭い眼光を差し向けた。
「ユウタ、後で私と一対一をしろ!」
「へ?」
「さっきの試合は止められたけど、私のオフェンスがあんたのディフェンスより上だってことを証明してやる!」
「あ、はい。分かりました」
圧倒されて、思わず敬語になってしまった。やっぱ怖いっす、この人。
髪はピンク色なのに、愛理の顔つきが一昔前のドラマに出てきそうなスケバンのように迫力があり、とても近寄りがたい。
「ちょっと! その前に私と一対一をしなさい! 今度こそ、あなたのシュートを止めてやるわ!」
リオンが俺とアイリの会話に割って入り、アイリに勝負をするよう申し込んだ。
「いいけどあんたは後で。私はこいつからシュートを決めたいの!」
「何ですって! 私には眼中にないって言うの!」
「はぁ? そんなこと一言も言ってないじゃん!」
アイリとハレスは鼻と鼻が当たるのではないかと思うくらい、互いに顔を近づけ、にらみ合った。
「ま、まぁまぁ! アイリもリオンさんも、せっかく同じチームになったんだから、仲良くしましょう。ね?」
ミツキが見かねたのか、二人に対しそう言うと、二人は渋々、顔を離した。
「あ、ありがとう。ミツキ」
俺だったら絶対に二人を仲裁できる気がしない。俺はミツキに対し、心かr感謝した。
「ううん。アイリの暴走を止めるのはいつものことだし。それより、これからよろしくね! ユウタくん!」
ミツキは心が可愛らしい笑顔を振り撒いた。一輪の花のようにとても可憐な笑みであり心がキュンとした。
「それじゃ、みんなでエンジェルハウスの体育館に戻ろうか。みんな、この魔方陣の中に入って入って」
ラグリーが瞬間移動するための魔方陣を作り出しており、俺たちに魔方陣の中に入るよう促した。
俺たちはラグリーの言う通り、その中に足を踏み入れた。
「ワープ!」
あっという間にエンジェルハウスの体育館についた。相変わらず便利な魔法である。
「それじゃ、三人に施設を案内してくる。リオン達はさきにコートでシューティングをしていて欲しい」
「分かりました! それじゃ、ハレス! ユウタ行くわよ!」
「ええー! 今日も練習するのー!」
ハレスが嫌そうな顔をした。うん、気持ちはすごい分かる。正直、今日は練習ないんじゃないかと思ってたぜ。
「当然でしょ! ほら、行くわよ!」
コートへと向かい、シューティングを行う。十分ほどシューティングいると、リオンがやってきて来た。
「ユウタ、ちょっと一対一をして欲しいんだけど」
「ああ、別に良いぞ」
「それじゃ、ユウタ。オフェンスお願い」
俺のオフェンスからか。コートの中央、スリーポイント手前でボールを構えた。
「ほ!」
シュートフェイクすると、リオンがすぐさま手を伸ばし、ボールに触れた。
ボールは俺の右横に移動した。
「よし、貰った!」
ルーズボールをリオンが拾おうとした。慌てて、拾い体勢を立て直した。
「あ、危ねぇ……」
「あーもう! 今、取れそうだったのに」
油断すればすぐさまカットされてしまいそうだ。よし、ちょっと『あの技』を試してみよう。
右にドリぶりし、バックロールで逆サイドに切り込む。リオンもついてくるが、左ローポスト付近で俺は立ち止まった。
フェイクはしないでそのまま飛んだ。リオンもジャンプするが、
「横!?」
俺は右横にジャンプした。アイリが使っていた横っ飛びシュート。試しに使ってみることにした。
リオンのブロックは避けることに成功したものの、シュートはフープをくるくると二回ほど回った後、外れてしまった。
「はぁー……やっぱりそう上手くはいかないか……うん?」
いつの間にかアイリ達がコートに来ていたことに気づいた。ラグリーにより施設の案内が終わったようである。
先ほどの一対一、おそらくアイリは見ていたのだろう。すると、アイリが俺のところにやってくると思いきや――床に落ちているボールを拾い上げた。
「ユウタ。ディフェンスお願い」
静かな声色でアイリが俺に告げた。
「あ、ああ……」
アイリの後を追い、スリーポイントライン一歩手前、内側に立ち、膝を曲げディフェンスの構えを作った。
「それじゃ、行くよ」
アイリは暴走機関車のようにまっすぐ、ただひたすらまっすぐにドリブルした。
「ぐっ……!」
女性とは思えない想像以上の力に思わず顔をしかめた。何という力だろうか。
すると、前方向に力を進み続けたアイリはベクトル方向を後ろへ変え、一歩下がった。
シュートだと思い、重心が前に行きかけると、アイリはすかさず前にドリブルし、俺を抜いた。そのまま、レイアップシュートのモーションに入った。
「まだだ……!」
ブロックすべく思い切りジャンプしたが、アイリはそのまま打った。俺にブロックはボールではなく、アイリの右手に当たった。
ファールしてまで止めようとしたものの、シュートは『パサッ』と決まった。
「ふん、とりあえずこれで試合の時の借りは返した。これからよろしくな。ユウタ」
アイリはボールを拾うと、俺にパスしてきた。
「お、おう……」
くるりとアイリは踵を返し、コートの端へと移動した。
「ちょっと、待ちなさい! 私とも一対一をしなさいよ! 止めてやるから!」
「あー、それは別の日にしてくれ」
「どうしてよ!?」
「ま、まぁまぁ! これから同じチームになるんだから、いつでも一対一できるだろ? な?」
アイリとリオンが危うく一触触発になりそうだったので、リオンに冷静になるよう宥めた。
「ま、まぁそうね。それじゃ、練習始めましょうか」
そうして、今日から六人で練習を始めることにした。
ランニング、フットワーク、ディフェンス練習など、地味な練習を誰一人文句を言うことなくこなしていった。
しかし、エレメンツのメンバーは少々、辛そうな表情をしていた。
「あー! きっついねぇ。うちらの練習とは大違いだよ。ねぇ、リンカ」
「そ、そうだね。予想以上にきついかも……」
ミツキとリンカは息を切らしていた。そう考えるとバスケを始めてまだ間もないハレスがこの練習に普通についていけるのはすごいことである。
まだ、そこまで消耗していないように見える。
「アイリ、大丈夫か?」
アイリもミツキとリンカと同様、激しく息を切らしていた。首筋と額には大粒の汗が流れている。
「あ、ああ。問題ない」
虚勢を張ってそう答えるアイリ。思えば元エレメンツの三人はストリートバスケ専門で普段、あんまり走り込みなど地味な練習をしていないのかもしれない。
当面の三人の目標はスタミナの強化だな。
「よーし、次、スリーメン行くわよ!」
「おお!」
やけくそか、アイリは苛立ちげに大きな声を出した。六人でスリーオンスリーをする俺たち。
二組しか作れないためすぐに順番がやってくる。もっとも、昨日まで一組しかつくれなかったのだが。
「よし、ラスト!」
俺はミツキにパスを出した。
「ナイスパス!」
ミツキは俺からのパスを受け取り、スリーメンのラストである五十本目のレイアップシュートを決めた。
さすがの俺も疲労が押し寄せ、顔を伏せてしまった。
「よし、それじゃ五分休憩後に三体三ね!」
リオン、初日からパねぇな。アイリはおろか、温厚そうなミツキですら不満そうな顔をしている。
「リオン、休憩十分に増やしてくれないか?」
「何? もうユウタったらバテちゃったの?」
「俺は大丈夫だけど、ミツキ達が結構しんどそうだ。初日だし、あんまり飛ばしすぎるのも良くないぞ」
あんまり早いうちにチームに対し、不満を持って欲しくはない。そんなすぐに辞めようとする三人ではないと思うが。
「ふぅ、分かったわ……みんな! さっきの訂正! 休憩十分にするわ!」
リオンは一応納得したようで、休憩時間を十分にすることを承諾してくれた。
俺は水分補給やストレッチをして、体力の回復を図った。
「よーし、それじゃ三対三やるわよ!」
リオンは何だか嬉しそうな様子である。無理もないか。しばらくの間、ずっと一人で練習していたのだから。
「チーム決めはどうするんだ?」
「私が考えたわ。まずはAチーム、私とミツキとハレスよ。Bチームはユウタとアイリとリンカ。私たちのチームは赤色のビブスを切るから、Bチームは白のビブスを着て頂戴! 大会とは違って、オールコートでやるわよ!」
俺たちはビブスを着て、三対三を開始することにした。審判はラグリーが務める。
「それじゃ、試合を始めます。ジャンパーはサークルの中に入って」
三人の中で身長が一番高い俺がジャンプボールをすることにした。
Aチームのジャンパーはリオンである。互いの身長は同じくらいだがリオンのジャンプ力は脅威なので確実に負ける。
俺とリオンがセンターラインの前に並ぶと、ラグリーがボールを上に投げた。
「はぁ!」
パンとリオンがミツキの方向へボールを叩いた。
「よし、もらい!」
ゴールめがけてドリブルするミツキだったが、油断した隙にリンカが後ろからドリブルをカットした。
「あー! ずるい」
ミツキが不満そうに叫んだ。
「ナイス! リンカ、こっちへ!」
すかさずリンカが俺の前にパスした。一気にドリブルで切り込むが、リオンが追いついてきた。
「行かせないわ!」
よし、引きつけた。俺はアイリの位置を確認すると片手で思いっきり逆サイドにいるアイリへパスを出した。
「へ?」
ハレスが振り向いた。ハレスの頭の横にパスが通ったため、ブワッとした空気の振動にハレスが反応したようである。
アイリは痛そうに顔をしかめながらもボールをキャッチるすと、素早いモーションでスリーポイントを打った。
シュートは決まり、先取点はこちらが獲得した。
「ドンマイドンマイ、みんな! 返すわよ!」
リオンはボールを拾い、ポイントガードであるミツキにパスを出した。
「よーし、攻めるぞー!」
ミツキをマークするのはこの俺。バックコートで待ち構え、マンツーでディフェンスを行う。
すでにドリブルしているミツキに対してステイローで積極的にボールをカットしにいった。
「うわ! 危ない危ない!」
慌てたような様子を見せながらも、ミツキは見事なボールさばきでうまく俺からボールを奪われないように立ち回った。
「リオンさん、お願いします!」
スリーポイントラインの少し内側でリオンはボールをもらった。左九十度の位置までドリブルし、ジャンプシュートを打った。
アイリもジャンプするが、驚異的なジャンプ力プラス滞空時間の長さによって、それを嘲笑うかのようにシュートを決めてしまった。
「す、すごい……」
アイリとリオン。きっと二人がいればより多様な攻撃が可能となる。
それと、ミツキとリンカの技術も結構高いし、ハレスの成長力は予想できない。
あと最後のピースが揃えば……いや、今はまだそれを考えるべきことではないか。
スリーオンスリーは接戦だったが、惜しくも三点差で負けてしまった。
徐々にアイリがバテてきたため、最初はバンバンシュートを決めていたのが、後半は結構、リオンに止められるシーンが見られた。
試合を終えた後、ストレッチをして、今日の練習が終わった。
「みんな、今日はメンバーが五人以上になったことを祝してパーティをするよ。午後六時になったら食堂に来てね」
「わーい! パーティかー、私楽しみだなー!」
「そうね、ミツキ。一体、どんな料理が出るのかしら」
リンカとミツキはパーティと聞いて、とても楽しみな様子である。二人が喜ぶ中、アイリはボールを持って、立ち上がった。
「どうしたの、アイリ?」
ミツキが聞くとアイリは、
「シューティングする」
と端的に答えた。リオンも現在、黙々とシューティングしているため、対抗心を燃やしているのかもしれない。
「ユウタ、ユウタ。我にフリースローを教えて欲しい」
ハレスが俺のスポーツTシャツの袖を掴み、上目遣いで強請るように言ってきた。
「お、おう……!」
何となく子っ恥ずかしくなり、ハレスから目を逸らした。なまじ、見た目は可愛らしいのでなんか変な感情を抱きそうになる。落ち着け……相手は子供(そういえば年齢知らないけど)。代わりにリオンの頬に書いてある複雑そうな模様を見た。
「なぁ、ハレス。その模様って消えないのか?」
ツンと俺は模様が書いてある頬に指で突いた。ハレスの頬は豆腐のように柔らかかった。
「な、ななななな! 何をするのだ、ユウタは!」
ハレスは顔を真っ赤さにさせ、文句を言ってきた。ま、まさかそんなに怒るとわ。
「す、すまん。そんなに怒るとは思ってなかった」
「ふ、ふん! その模様は代々伝わりし、由緒正しい模様であるから決して消えぬわ! ツノはともかくとしてな!」
「へ? ツノ?」
ハレスをことを観察してもツノなんて別に生えてないが折ったりしたのだろうか。
「い、いやなんでもない! それよりも早く、フリースローを教えてくれ!」
「あ、ああ」
俺たちはフリースリーラインのところまで移動した。
「それじゃ、まずは見本を見せるから、じっと見ててくれ」
「じー.……」
口に出す奴があるか。集中力が途切れそうになる。そう思いつつも俺はいつも通りフリースローを打った。俺が打ったフリースローは危なげなく決まった。
「ざっと、こんな感じだ」
「よし! 分かった! もう完璧だ」
絶対に完璧じゃないであろうが、とりあえずハレスのフリースローを見てやることにした。
「うりゃああああ!」
ハレスは出鱈目なフォームでフリースローを放った。リングにすら届かずエアボールとなった。ってか、フリースリー打つときに叫ぶ人、初めて見たかもしれん。
「うぅ.....なぜ、入らぬのだ」
「やっぱいきなりここからが無理だったな。ゴール下まで来てくれ」
俺はハレスをゴール下まで誘導した。この距離からのシュートは指導したことがある。
「そっからシュートを打ってくれ」
「分かった」
ハレスは思いっきりジャンプして、ゴール下シュートを打った。ボールはリングに当たるとしっかりとリングの中に入った。
「よし、そこからはちゃんと入るな。基本的にはフリースローもこれと同じだ」
「はぁ? あの位置からゴール下シュートを打てってことなのか?」
「……すまん。俺の言い方が悪かった」
結構フリースローのコツを伝えるのはハードルが高い。そもそも、フリースローというのは一朝一夕で身につくものでもない。
俺だって毎日、根気強く打っているからこそ、それなりの精度を保てている。
「よし、なら今度は少し距離を離すぞ。今度はこっから打ってみてくれ」
俺が指示した場所はフリースローラインとリングの中間より少し前くらいの位置。
俺の作戦は徐々にハレスのシュートレンジを広げていき、やがてフリスローラインのところまで辿り着かせるというもの。
いきなりフリースローを打たせるよりも多分こっちの方が効果的かつ時間が短縮される。
その名も――急がば回れ作戦。
「もっと膝を使って打つんだ! 高くジャンプすることを意識しろ!」
「う、うむ!」
「コースがずれてる! もっと真っ直ぐ真上に上げるようなイメージで放るんだ!」
「分かった!」
「回転が全然かかってない! もっとスナップを利かせて!」
「ぐぬぬ……!」
俺の指示に真摯に食らいついて来たハレスはかなり飲み込みが早く、シュート練習を始めておよそ二時間が経つ頃にだいぶシュートを決められるようになった。
「よし、今日はこれくらいまでにしておくか」
「わ、分かった。明日にはもうこっから打っていいのか?」
ハレスはフリースローラインを指差した。
「いや、ダメだ。まずはここから練習で八割は決めれるようにならないと試合で使い物にならない。ひたすら反復練習あるのみだ」
「うええ……」
心底嫌そうな顔をするハレスだが、こいつの成長性を生かすためには必要な練習である。
「ユウタ、ハレス! そろそろパーティが始まるから食堂に移動して!」
リオンの叫び声が聞こえてきた。もうそんな時間か。夢中になっていたせいで、全く気がつかなかった。
ミツキたちもいない。もう食堂に移動したのだろう。
「ああ、分かった」
駆け足で俺はリオンの元へと向かった。
「ユウタ、汗すごいわよ。ちょっと着替えた方がいいわよ」
リオンにそう言われ、自分の身体を確認すると、体に練習着がピッタリと吸い付いていた。
「そうだな。ちょっと、食堂に行く前にシャワー浴びてくる」
「分かったわ。それじゃ、私は食堂で待ってるから」
「我もシャワーを浴びるのだ」
ハレスがそう言うと、歩いていたリオンが立ち止まりプルプルと肩を震わせ、こちらおを振り向いた。
「ま、まままままさか! 二人とも一緒に入る気じゃないでしょうね!」
「はぁ!? そんなわけないだろ!」
「んー? 我は別に構わんぞ」
「「えええ!?」」
俺とリオンが同時に叫ぶ。うっそやろ、お前。仮にも年頃の女の子とちゃうんか。おどれ。
びっくりしたあまり、心の中で変な関西弁が出てしまった。
「いやいやいや! それはおかしいだろ。さきにハレスから浴びてくれ」
「むー? まぁ、ユウタがそう言うなら。それじゃ、行ってくる」
ハレスは一人、着替えを取りに荷物が置いてある寝室に向かって走り出した。
「あの子……やっぱり、恐ろしいわね。さすが、魔王の子」
ちょっと、リオンさん。何を言ってるんですか?
俺はハレスが上がってくるまで俺は寝室で待つことにした。
今日、アイリ達三人が入ったことは非常に喜ばしいことであるが、ハレスの父親と会うのは心に鉛が入ったかのように重くなる。
果たして生きて帰ることができるのか。俺は額に手を当てた。指からチクチクとした髪の感触が伝わってきた。
ふと、前の方に視線を移動させると、向かいの二段ベッドの上に元エレメンツのメンバーのバッグと思われるものが置いて合った。
鞄のチャックが開いており、何やらピンク色の三角の布地でできたあるものが出ていた。
「い、いや。まさかな……」
布地の正体について考察しそうになる自分の思考を必死で抑え込むことにした。
あれはそう、ハンカチだ。そうだ、そうに決まっている。
冷静に気を静め、俺は目を閉じた。しかし、ピンク色の布地の残像が否応無しにも脳内で再生されてしまう。
よし――確認しに行こう。あれだ、ちょっと鞄に近づいて確認するだけである。
立ち上がり、俺は偉大なる一歩を踏み出した。
一歩、また一歩と鞄に近づく。そして、鞄を覗き込もうとした――
「ユウタ! 上がったぞ!」
「どうわ!」
反射的に思いっきり後方へジャンプした。ハレスが肩にタオルをかけており、ホクホクとした湯気が身体から出ていた。
「ん? ユウタ、どうしたのだ?」
「い、いや……何でもない。それじゃ、俺もシャワー浴びてくる」
不思議そうな表情を浮かべるハレスをよそに俺はシャワーへと向かった。
シャワーで汗を洗い流した。熱めのお湯は俺の体温を温め、幾ばくか今日の試合や練習の疲れを消してくれた。
このまま湯船にも浸かりたい気分だが、みんな待っていると思うので、ここで上がろうと思い、浴室の出入口へと向かった。
すると、どういうわけか俺が手を掛けたわけでもないのに出入口が開いた。
「え……」
目の前にいたのはアイリであった。
手にはタオルを持っており、真っ先に目が行ってしまったのはわりと大きめな胸の膨らみである。
今日の試合中は全く気にしていなかったがなかなか良いプロポーションをしている。
顔を赤くさせ、恥ずかしそうにしているそのアイリの様子を見ていると罪悪感を感じながらも本能的に視線を下に落とそうとすると、
「うわ――――――ー!」
俺はアイリに思いっきりビンタされ、思わず仰向けになって倒れ込んだ。『ガチャン』と扉の閉まる音が聞こえ、アイリが浴室から出て行ったのが分かった。
アイリにビンタされたところをさすりながら俺は起き上がった。鏡で確かめると真っ赤な手形がついていた。
「なんで、あんたがここにいんの?」
扉越しからアイリが訊いた。
「いや、シャワー浴びようと思って……アイリが来るとは思っていなかったんだ」
あくまで過失であることをアイリに伝えようと思った。
「そう。まぁ、私もいきなりブったりして悪かったよ。ちょっと服着るからいいっていうまでそこで待ってて。着替え中に出てきたら問答無用で殺すから」
アイリさんは『殺す』を強調した。やべぇな、リオンよりも怖え。
「はい……」
俺は浴室でじっと息を潜めるように待っていると「もう出てもいいよ」というアイリの声を耳にした。
腰にタオルを巻いた状態で浴室から出ると、アイリが腕を組んでこちらを見ていた。
「い、いや。本当に申し訳ない」
「いいって、もう。けど、お風呂が男女兼用ってのもね。何とか何ないの?」
「うーん、後でラグリーに相談してみる」
「そう。そんじゃ任せた。さ、私もシャワー浴びるから出て行った出て行った」
「お、おう」
アイリ急いで服を着た後、俺は着替え場から出て行った。




