ババ抜き
食堂に戻ると、テーブルにはオードブル形式で唐揚げやフライドポテト、パスタなどよりどりみどりの料理が並んでいた。
「あ、ユウタ! ここに座って!」
リオンに促され、隣に座る。反対の隣席にはミツキが座っていた。
「よろしくね。ユウタくん」
ミツキは心が和むような微笑を見せた。
「ああ。よろしく」
「それと、アイリ見なかった? 途中まで寝室でいたんだけどどこかにいっちゃって」
どうやらアイリがシャワーを浴びに浴室に行ったことはまだミツキも知らないようである。
「ご、ごめん。ちょっと俺も知らないな」
「そっか。分かった。もう、どこ行っちゃったんだろう。もう少しでパーティの開始時刻なのに」
「全くしょうがないわね。アイリったら! あの子には悪いけど始めちゃいましょうか!」
リオンがそう言うと、それまで黙って聞いていたラグリーが口を挟んだ。
「ちょっとリオン。誰の歓迎会だと思ってるのさ。来るまで待とう?」
「そ、そうですよね。あははは!」
誤魔化すようにリオンは笑う。本当にラグリーには全く頭が上がらないようだ。
しかし、思いの外早くアイリが食堂にやってきた。
「ごめん、遅くなった」
アイリがそう言い、開いている俺の向かい側の席へと座った。
「もう、アイリってば。みんな待ってたんだよ。何してたのさ」
「ちょっと外を走ってた。遅れて悪かったよ」
咎めるアイリに対し、素直にアイリは謝った。
「まぁ、それじゃ全員揃ったことだし始めようか。みんな飲み物をコップについで」
ラグリーは手元にあった瓶を取り、自分のコップに注いだ。注がれた液体は黄色でシュワシュワとした炭酸である。
「ラグリー、その飲み物って何なんだ?」
「ん? ただのジュースだよ。味的にはコ○コーラに近いかな」
ほう、コ○コーラか。俺もグラスにジュースを注いだ。『プシュー』という音とともに白い泡が形成され、やがて消えていった。
「ユウタ、コ○コーラって何なの?」
リオンがコ○コーラについて訊いてきた。この世界にはコ○コーラは売っていないのか。少し悲しい。
「ああ。俺が住んでた国にあった飲み物だ。すごい人気があったんだ」
「ふーん、そうなんだ」
ハレスはオレンジ色の液体を注ぐとグラスを掲げ、ラグリーの方を見た。
「ラグリー、この飲み物は何なのだ?」
「これはアップルジュースだよ」
「ふーん、聞いたことない飲み物である」
アップルジュースを聞いたことないとは。ハレスもまた特殊な環境にいたんだなぁと感じた。
みんながグラスにジュースを入れ終えると、リオンが「みんな立って」と言うので、全員立ち上がった。
「それじゃ、リオン。一言挨拶と乾杯をお願い」
「ええええ! ラグリーさん、私がですか?」
「うん、このチームのキャプテンだからお願いね」
「うう……分かりました」
リオンはしばらく恥ずかしそうに俯いていたが、やがて覚悟を決めたようで顔を上げた。
「えーと、それじゃまずはみんな今日の練習お疲れ様。今日はまだ軽めだけど、もっと激しい練習もしていくから、覚悟しておいてね!」
アイリ達、元エレメンツのメンバーはリオンの顔を青ざめている。
俺もますます練習が厳しくなると聞いて気分が重くなった。
「とりあえずはみんな、エンジェルライトに入ってくれて本当にありがとう! この先、みんなで一緒に頑張って行きましょう! それじゃ、かんぱーい!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
リオンに続けて俺たちは『乾杯』と叫び、お互いのグラスとグラスをぶつけ合った。
『カンカン』とグラスとグラスがぶつかり合う音はとても心地良かった。
しばらくの間、雑談や食事を楽しんでいたのだが、だんだんとリオンの様子がおかしくなっていった。
「あー! 私、本当にこのチームが五人以上になって嬉しいわー! しばらくの間、ずっと一人で練習してたのよ。ねぇどう思う? ねぇユウタ!」
リオンが俺に肩を回し、質問した。顔を確認すると、いつもは白いリオンの肌が赤くなっているのに気がついた。
「えっと、その……それは大変でしたよね」
なぜか敬語になってしまった。というか、リオンさん、これもしかして酔ってらっしゃる? いや、まさかなぁ。お酒を飲んだわけじゃあるまいし。
「ちょっと、リオンさん。酔ってるんですか?」
ミツキが訊くと、リオンが「はぁ?」と目を大きく開きながら言い、首を傾げた。
「いやいやいや! 酔ってねーし! 酔うとかありえないから! あはははは!」
ゲラゲラと俺の肩を叩き笑い焦げるリオン。痛い。どう考えても酔っている。みんなの様子を見ると、全員軽く引いていた。唯一人、ラグリーだけが白い目でリオンを見ていた。
「おい、ラグリー。飲み物の中にお酒があったのか? そりゃあ、リオンは百歳を超えてるから飲んでもいいのかもしれんが……俺たちが飲んだらどうするんだ」
「ちょっと! 私の年齢バラさないでよ!」
「ひいいいいい! すみませんでしたぁ!」
俺に年齢を教えてくれたからてっきりと周りにも言ってもいいものだと思い込んでいたがダメだったようである。
「あー、ユウタ。ここにお酒はないよ。けどね、実はリオンはカフェインで酔うんだ」
「カフェインで!?」
カフェインで酔う人なんているのか。カフェインでこれならアルコールなら果たしてどうなるのか。
「何よー! カフェインで酔うのがそんなにおかしいの? もーう、ユウタのバカバカバカ!」
ポコポコと俺の肩を割と強い力で叩いてきた。本当に痛い。
「ちょっと、リオンさん。やめてください!」
敬語でお願いするが、リオンは「あははは!」と陽気に笑い、なおもポコポコと叩いてくる。
「はぁ……ダメだこりゃ」
ラグリーはため息をこぼすと、ゆっくりとリオンの背後へと回り込んだ。
「スリープ」
ラグリーはリオンの頭に手を当てると、リオンが千鳥足になった。
「あれ、何だか急に眠くなってきたわ」
フラフラとリオンは歩き出し、やがて目を閉じ、地面に倒そうになるのをラグリーが抱きかかえた。
「ちょっとリオンを部屋に寝かしてくる。みんなはパーティを楽しんでてて。『ワープ』」
リオンは瞬間移動でハレスを寝室へと連れて行った。
「な、なんていうかすごかったな。リオン……」
アイリは苦笑いをしながらそんな感想を述べた。全くもって同意見である。
「本当だよね! ってか、リオンさんって百歳超えてんの? エルフ族は長命って聞いたことあるけど、そんな歳だとは思わなかった。うちらと同じ歳くらいに見える! ちょー若々しくない? 良いなーエルフ族」
ミツキの言う通り、俺もリオンと初めてあった時、自分と同じくらいの年齢だと思っていた。
「そういえばミツキ達はいくつなんだ?」
「私? 私は十八だよ。リンカも十八で、アイリは十九なんだ。ユウタくんは?」
「俺も十八だ」
「そっか一緒だね! ハレスちゃんは今いくつ?」
「我は十五である」
「そうなんだー! それでもうあんなすごいプレイできるなんて驚きだよ!」
ミツキの言葉にハレスは満更でもないようににやけた。
「ま、まぁな! なかなか貴様は見所があるようであるな!」
「うふふふ。ありがとう。ハレスちゃんはこの街生まれなの?」
「あー、えっとそれはな……」
言葉に詰まるハレス。そんなハレスをアイリ、リンカ、ミツキは訝しんだ様子で見つめた。
まだ三人にはハレスが魔王の娘であることは伝えていなかった。
「みんな、ちょっと!」
俺が事情を説明しようとしたその時だった。
「みんなお待たせ! リオンをベッドに寝かせるのに手こずってた」
ラグリーが瞬間移動で食堂に戻ってきた。本当に手こずったのか、服が若干乱れており、顔には汗をかき、少し息を切らしていた。
「おお、ラグリー。大丈夫だったか?」
「うん、まぁね。それよりも今日入った新メンバーの三人には言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
ラグリーが真面目な表情で語り出す。
「な、何ですか。ラグリーさん?」
リンカが訊くと、ラグリーは「コホン」と軽く咳払いした。
「まず、知っておいて欲しいだけどね。ハレスなんだけど。彼女、実は魔王の娘なんだ」
しばらく沈黙した後、アイリ達はお互いの顔を見つめあって、
「「「ええ――――ー!?」」」
ラグリー、いきなりそれ打ち明けるのか。あまりの清々しさに俺は思わず感心してしまった。
「ほ、本当にハレスちゃんが……」
戦慄するミツキに、
「世界を滅ぼす力を持っていると言う、あの……」
ガクガクと震え出すミツキ。世界を滅ぼす力? そんなにやばいやつなのか。
「この子が? 本当に?」
半信半疑で見つめるアイリ。すると、ハレスが立ち上がった。
「その通り! 我の名はハレス! 魔王の血を引く高貴な血族の者なり!」
厨二病っぽいポーズとともに名乗りをするハレスだった。
「まぁ、そういうわけでこいつは魔王の城に住んでたらしいんだけど、父親に黙って家を飛び出しエンジェルライトに入団したってわけだ」
「ええ!? それ、やばいよね! 絶対、魔王のやつ。ハレスちゃんを追ってこの街にやってくるでしょ!」
ミツキはバンとテーブルを叩き慌てふためいた。しかし、この慌てよう、本当に魔王はやばいやつだということなのだろう。
「ああ。だから、魔王がそうする前に城に乗り込んで事情を説明しようと思うんだ」
「いやいやいや。絶対危険ですよ! 殺されますよ!」
リンカが首をブンブンと振った。よほど行きたくないらしい。俺もだが。
そんなリンカの様子を見たラグリーはフッと笑った。
「大丈夫。こっちには力強い味方がいるからね!」
「はぁ、誰だよ? そんなやついるの?」
アイリが腕を組んでラグリーに力強い協力者の正体を尋ねた。
「リオンだよ。彼女、こう見えても今も昔も凄腕の冒険者でね。かつて単独で魔王の城に乗り込んで、魔王と停戦条約を結ぶことに成功させたんだよ。私もそれなりに魔法が使えるからまぁ大丈夫だと思う」
「リオンさんが? あの人、そんなにすごい人なんですか?」
さっきの酔っ払っただらしない姿を見たせいか、リンカはラグリーの言葉をいまいち信じられないようだった。
「うん。かつては雷の女帝なんていう異名もあったくらいだからね」
「雷の女帝!? あの伝説の?」
ラグリーの話にミツキは釣竿に食いつく魚のように勢いよく食いついた。
「ミツキ、どんな伝説なんだ?」
「えええ!? 知らないの! ユウタくん!」
信じられないとばかりの表情でぐいっと顔を近づけ、力強い眼で見つめてきた。
茶色の色素の薄い綺麗なミツキの瞳に顔を覗き込まれ、なんだか恥ずかしい。
「す、すまん。知らない」
「もーう。私が小さい頃、聞いた話なんだけど、昔、とある怪物が街に現れて大暴れしていた時、とある美しい冒険者がそのモンスターを撃退したっていう伝説があるんだ。けど、まさかそれがリオンさんだったなんて驚きだなあ」
「そうだよね! 学校でもよく先生がその話をしてたから偉人の歴史っていう感じで聞いてたけど、まさか伝説の人がまだ生きてるとは思わなかったよね!」
会話を察するにミツキとリンカは同じ学校に通っていたのだろうか。それにしても、この世界にも学校があるんだな。
「三人は同じ学校に通ってたのか?」
エレメンツは同じ学校に通っていて一緒にチームを組むと言うのはよくある流れかもしれない。
「いや、私は違う。この街でたまたまストバスしてた時、二人と出会ってチームに入れてもらった」
「そ、そうなのか……」
アイリはミツキとリンカとは違うところの出身らしい。
「それにしても、雷の女帝に魔王の娘ってすごいメンツが揃ってるね。もしかしてユウタくんも何か特別な経歴を隠していたり?」
目をキラキラと輝かせて俺に訊くミツキだが、あいにく俺は普通の人間である。まぁ、異世界からやってきたってのは特殊なんだろうが。
「ないよ。そんなもの」
「本当に?」
そう言ったのはアイリである。獲物を狙うような双眸は本能的に恐怖を感じた。
「な、何だよ……本当だよ」
「そう、まぁいいや」
アイリはそう言うとそっぽを向いた。
「とにかくそう言うわけだから、明日は魔王の城に乗り込む。強制はしないけど、三人も同行する?」
「します! 行きます!」
ミツキはためらいなく元気よく手を挙げた。
「リオンさんの力を見たいですから! よろしくお願いします!」
「そっか。分かった。極力戦闘はしないつもりでいるけど、危ない目に合うかもしれないってことは覚悟しておいてね。怖いなら無理してついていかなくてもいいから」
「うーん、私はどうしようかなぁ……」
「えー! リンカも行こうよ! 雷帝の戦闘が見られるかもしれないんだよ!」
「戦いの巻き添えを食らいたくはないなぁ。アイリも行く?」
「行く」
アイリも行くつもりらしい。魔王の城に乗り込むというのに全く臆する様子がないところを見ると、アイリも冒険者として高い実力を持っていたりするのだろうか。
「えー、アイリもかぁ。しょうがない、私もついて行くよ。緊張するなぁ」
結局、リンカもついて行くことに決めたらしい。みんなメンタル強いな。
俺なら怖すぎて付いて行こうとしないかもしれない。
「ユウタ、父上の説得、よろしく頼むな!」
「お、おう。任せておけ……」
とても気が重い。果たして俺に務まるだろうか。
「よし、それじゃ明日九時にここを出よう。それじゃ、今日のパーティはそろそろお開きね」
「えー! ラグリーさん、もうおしまいですか?」
ミツキはパーティの終わり宣言に不服を申し立てた。
「あー、もう少しやってても良いけど、あんまり夜更かししないようにね。私はちょっとやることあるから戻るね」
「分っかりました!」
「それじゃ、おやすみなさい」
ラグリーは瞬間移動でどこかに移動した。そういえば忘れかけていたが、ラグリーって天使(職業)なんだよな。
やることって天使の仕事なんだろうか。少し気になる。
ラグリーがいなくなった後、俺たちは雑談やトランプに花を咲かせながら時間を過ごした。
「さー、ユウタ君。どっちがジョーカーかな?」
今やっているのはババ抜きである。アイリとハレスは早々に抜け、残ったのは俺とミツキとリンカの三人。
「こっちだ! ってああ!」
「あはははは! ババ引いてるしー!」
「あの、二人とも。緊張感なくなるから、もっと静かにやろうよ」
リンカはポーカーフェイスでババを持っている俺の手持ちのトランプを引こうとした。
「ちょっと待った!」
俺は手を差し出し、リンカを止めると素早く三枚のトランプを素早くシャッフルした。
「さぁ、どれかな?」
リンカは無表情のまま俺を見つめ、右のカードを引こうとした。ちなみにこれはババではない。
リンカはこれをピタッと止め、真ん中のカードに手を伸ばした。真ん中、これがババである。これを引いて欲しいと思ったが、あくまで俺はポーカーフェイスを貫き通した。
そんな俺をじーっと見つめるリンカ。なんか怖い。アイリやリオンとは別次元の怖さがある。
またもやリンカは手を止め、左のカードに手を伸ばした。
引くか? 引かないか?
「引くよ」
まるで心を読んだかのようにリンカがそう言い、カードを引いた。引いたカードは自分の持っているカードとペアだったようで、リンカは二枚のカードを引いた。
「はい、上がり」
「う〜。リンカの裏切り者〜」
恨めしそうにミツキはリンカの残り一枚のカードを引いた。これで残るは俺とミツキのみである。
「さぁさぁ、ユウタ君。引きたまえ」
緊張の一瞬。他のみんなも真剣な眼差しでこの壮絶なバトル(ババ抜き)を刮目していた。
ざわ…… ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ…… ざわ……
思わず、そんな幻聴が聞こえてきそうである。というか心の中で唱えた。
「こっちだ!」
俺から見て右のカードを引いた。が、ダメ! ダメ! ペアを揃えることができず、圧倒的ピンチに陥った。
「くそ!」
シャッフルし、俺はさぁ引けとばかりにカードを手に持ち、ミツキに近づけた。
「これだぁ!」
ミツキはカードを引いた。だが、ミツキが引いてしまったのは俺が持っていたババ(ジョーカー)である。
「残念だったな」
「く……! けど、勝負はまだ付いていない!」
再び訪れる二者択一。俺はゆっくりと左のカードに手を伸ばした。すると、一瞬、わずかに一瞬だがミツキの眉がピクッと動いたように思えた。
これは――
「こっちだな!」
ターゲットを右のカードへターゲットを変更し、引いた。神よ……俺を祝福しろ!
「よっしゃ!」
ビンゴであった。引いたカードと俺の持っている一枚でペアを作り、山札に捨てた。
「ああ、クソ……負けちゃった」
残った一枚をミツキに引かせ、俺の手持ちのカードはなくなった。何とかビリを免れることができた。それにしても下位二人がポイントガードというなんとも情けない状態である。
「もう一回! もう一回勝負しよ! ね? みんな」
ミツキはそういったが、すでに時刻は午前十一時頃になろうとしていた。
「悪いけどもう遅いから今日はもう寝よう」
「うう、しょうがないか……」
みんなでテーブルに乗っているお皿を片付けた後、寝室へと移動した。ミツキ達は俺も同じ部屋で寝ることを驚いていたが、(ラグリーは説明しなかったようである)同じ部屋で寝ることを承諾してくれた。




