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王の紋  作者: Uma
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「只今より終戦十周年記念式典のアリーナ警備団員選抜試験を始める!」

 オリオルが競技場入りしてから十分ほど後に開会宣言がなされた。競技場には各学院から集まった騎士と術師たちで溢れかえっている。彼らはどの学院でも優秀という烙印を押された者ばかりだろう。そうでなければこんな試験を受けようなんて考えられない。ましてや、精霊学院の学生なのに、騎士枠で参加している奇妙奇天烈なやつは、オリオル以外にいない。

 そんなことは覚悟の上だが。

 壇上の上では、どこかの騎士団長らしい厳つい男が何か吼えている。この試験がどれだけ大事なものか、それを受けるオリオルたちにどれだけの責任があるのか、なんて語っている。

 正直どうでもいい。

「最後に連絡事項だ。予想以上に受験者が多いことから試験内容を大幅に変えることになった」

 当初の予定では受験者同士でトーナメント戦を行うと参加事項に書かれていた。

「今、ここには五十人ほどの受験者が集まっている。お前たちはこれから二人の騎士と術師と戦ってもらう!」

 受験者たちが騒ぎだす。それもそうだ。説明が不十分過ぎる。

「あの、どういう形で戦うのでしょう?」

 前の方にいた一人の受験者が手を挙げて発言する。

「言葉通りだ。お前ら五十人で二人に挑むのだ」

 さらに雑音が増す。

 五十対二。それはもう勝負になるのか、と思っている受験者がほとんどだろう。

 だがどうもどこかの騎士団長殿はそう思っていないらしい。

「安心しろ。ひよっこのお前たちが勝つことなど期待していない。お前たちはそのちっぽけな力で足掻いてみせろ。私たちはその足掻きを見て、合格者を決める」

 一瞬で競技場の受験者たちが殺気だった。

 みんな試験に合格できると思って参加している各学院の実力者だけあってプライドも高いのだろう。それを貶されては、苛立ちもする。

「試験開始は十分後だ。それまで各々戦う準備を始めろ!」

 騎士団長の一言で、その場は解散となった。

「オリオル」

 体の柔軟でもしておくか、と思った矢先、訓練服姿のラウルが声をかけてきた。

 彼も受験者の一人だ。最初は受ける気がなかったらしいが、「オリオルに薦めておいて自分が受けないわけにはいかないよ」と言って参加することにしたらしい。

 なんとも義理堅いやつだ。

「どう思う。この試験内容」

「別に、どうも思わん」

「そういうと思ったよ。でも、流石に五十対二っていうのは無謀って言葉が思いつくね」

 どうやらラウルも周りの受験者と同意見のようだ。

「だが、それだけのことをやるんだ、その騎士と術師はかなりの実力者だろうな」

 油断する気はない、とそういう思いを込めて言い放つ。

 その後、オリオルとラウルの間にこれといって会話がないまま、試験開始時刻となった。

 受験者が集まる向かい側のゲートが開く。

「お前らの相手をするのは、聖騎士ソシオ・ハーディア、聖術師シータ・ハイゲンだ」

 受験者から驚きの声が上がる。

「なんだ?」

 どうやら周りはその二人が何者か知っているようだが、あいにくと世間のことに疎いオリオルはさっぱりだ。

「オリオル、どうやら僕は十分前の僕を愚か者と蔑まないといけないみたいだ……」

 いつも笑みを絶やさないラウルが珍しく真剣な眼差しで、向かいのゲートを見つめている。

「そんなに凄いやつらなのか?」

「……」

 呆れ顔でラウルが見てきた。

「まぁ、今更オリオルが何を知らなくてもさほど驚かないよ」

「なら、さっさと教えろ」

「聖騎士と聖術師。この二つの称号は、バルミア教国において最強の騎士と術師であることを認められた者のしかあたえられないんだ。つまり、僕たちはバルミア最強の二人と戦わないといけないってこと」

 なるほど。それなら周りの反応も頷ける。

「ハァンッ! こんなガキどもの相手をしないといけないなんて、聖騎士はいつからままごとが仕事になったんだぁ!」

 ゲートから出てきた二人の男女。

 髪が逆立ち、白い団服に身を包んだ柄の悪そうな男、ソシオ・ハーディアが叫ぶ。歳は三十ほどだろうか。中堅の騎士の風格がある。

「例え理不尽な任務でも遂行するのが、大人よ、ソシオ」

 それを諌めるように、これまた白い団服を着た落ち着いた女、シータ・ハイゲンが呟く。こちらもソシオと変わらない歳だろうか。落ち着いた雰囲気が大人の女を思わせる。

 ソシオの不満そうな顔は変わらず、やる気がなさそうに腰の剣を抜いた。

「まぁいい。とりあえず憂さ晴らしはさせてもらうぜぇ。数にものをいわせれば勝てるなんてクソッタレな考えしてるガキどもを皆殺しにしてやる」

 競技場中にソシオの殺気が満ちる。

「そうね。流石に聖の名を甘く見られるのは癪に触るわ」

 シータは人差し指を天に向けて指す。

「いくわよ、スイール」

 契約者にその名を呼ばれたことで、栗鼠の精霊が顕現する。シータの肩にちょこんと立っている姿は愛くるしいが、オリオルには大量のマナがその栗鼠に集まっているのが見えた。

「清め流せ」

 シータが差した空に、水が集まり始め、水球を作りだす。それは留まる事をしらず、どんどんと膨れ上がり、やがて競技場の半分を占めるまで大きくなる。

「聖水球」

 天を指していた人差し指が、受験者へと向けられる。それに従うかのように水球は、受験者へと襲いかかる。

「ラウル!」

「わかってる! ストラス!」

 ラウルの声と共に水鳥の精霊、ストラスが顕現する。そして二人の周囲を水の膜のようなもので覆う。水の障壁だ。

 そして水球は、受験者が集まる地面へと叩き落された。

 この精霊術の恐ろしさは、窒息もそうだが、一番はあの高さから落とされた水球の衝撃だ。高いところから水に飛び込むと体が真っ赤になるように、水も使いようによっては打撃も可能なのだ。

 水の膜に水球の衝撃が加わる。膜にヒビができるものの、なんとか耐える。

 水浸しになった競技場にはまだ半分くらい受験者が立っている。残りの者は競技場の隅に流されている。

「あの術だけでこんなに……」

「アイツ、水の集束スピードが尋常じゃない」

「流石は聖術師だね」

 二人の意識がシータに向いていると、前方から悲鳴が聞こえる。

 そこにはたった今受験者の一人を斬り倒したソシオの姿。

「アイツをやる。ラウル、援護しろ」

「わかった」

 剣を抜き、ソシオに向かって駆ける。

 ソシオもオリオルの存在に気付き、迎え撃つ体勢を取る。

 しかし、その前に数発のストラスの水の元素弾が、ソシオを襲う。

「ハァッ! 舐めんなぁガキがッ! コロナァ!」

 火を帯びた人一人ほどの大きさの蛇が顕現する。

 そしてその口から火の元素弾を放つ。数発は水の元素弾を相殺し、水蒸気を上げる。そして残りの火の元素弾はまっすぐオリオルへと襲いかかる。

「はぁああ!」

 オリオルは動じることなく、その火の元素弾を斬り裂き、掻き消す。

「ほぉ、やるじゃん、お前」

「――な!」

 目の前にはすでにソシオ。

 オリオルが火の元素弾に意識を取られた一瞬の隙をついて移動したのだ。

 しかしありえない。オリオルとソシオの距離は、そんな一瞬で埋められるほど近くはなかった。おそらく、ソシオはなにかしらの精霊術による歩法を使用したのだ。

 ソシオの拳が、オリオルの腹部に叩きこまれる。

「がはぁ!」

 体が宙へ浮き、そして地面へと叩きつけられる。

「惜しいな、お前。でもなぁもう少し歯ごたえがほしいぜ」

 そう捨て去り、ソシオは次の受験者へと向かった。


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