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王の紋  作者: Uma
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お礼

 所変わって、リオネルの自室。

 オリオルが部屋を出て行った後、残されたのは床に横たわったミーシャとフィルランテ、そしてベッドの上のリオネル。

 オリオルが扉を開いた瞬間、雪崩れ込んできたところを見ると、どうやら聞き耳をたてていたのは明らかだ。

 それはつまり、今までのオリオルとリオネルの会話が聞かれていたということで――

 リオネルの頭の中で、オリオルとの会話が再生され、それに伴って自分が取った行動も思い出される。

 まぁもちろん一番印象的なのは、リオネルが自分からオリオルを抱き寄せたシーンだ。

「――っ!」

 ボンと音が鳴ったと思うほどに、リオネルの顔は一気に真っ赤に染まった。

(わ、わわわわ私という奴はななななななんてことをしてしまったんだぁああああああっ!)

 冷静になってようやく自分がしたことの大胆さに気付いたリオネルは、頭を抱え激しい後悔に苛まれる。

(殺したいっ! 過去に戻って過去の自分を殺したいっ!)

 ついには過去の自分に殺気だって、枕をバンバンと叩きだす。

 そんなリオネルを見てミーシャはなぜかうっとりとした顔をし、フィルランテは相変わらず何が嬉しいのかわからないがニコニコしている。

「姫様、いったい何をしたのかは存じませんが、そこまで後悔するほど何かやらかしてしまったのですね」

 主人の失敗を笑顔で喜んでいる侍女を本気で解雇しようか悩むリオネル。

「それでいったい二人は部屋で何をなさっていたのですか。聞こえてきた声から察するに、姫様から迫ったご様子でしたが!」

 もう聞き耳をたてていたことを隠すつもりはないらしいミーシャが、顔をグイッと近づけてくる。

「な、何もしていないし、何もなかったっ!」

「姫様のお世話役を仰せつかり時から今まで、ずっとオリオル様と只ならぬご関係なのだとわかってはいましたが!」

「只ならってなどいないぞっ!?」

「ついに一線を踏み越える時がこようとは!」

「い、いいいい一線など踏み越えてもいないっ!」

 リオネルの声など一切耳に入らないようで、ミーシャはどんどん一人で突っ走って行く。

 そんなミーシャを尻目に、リオネルはグッタリと肩を落とす。

 恥しい思いをして落ち込んでいるというのに、更にトドメを指すような仕打ちだ。

 本当にあの時の自分はどうかしていた。しんみりとした雰囲気にのまれたというか、その場の勢いというか。とにかくあの時は正気ではなかったのだ。

(そうだっ! 私は正気ではなかったのだっ! 何か催眠術のようなものにかかっていておかしかっただけなのだっ!)

 自分を正当化しようと、あれやこれやと言い訳を揃える。

 だが心の奥底では、それが間違っていると知っているから、更に虚しくなってくる。

「わ、私はこれからどうすればいいんだ……」

 ポツリと漏らしたリオネルの一言が、妄想の都へと旅立っていたミーシャを現実へと引き戻した。

「もちろん、更なるアタックに決まっています」

 と両手を握り締めるミーシャ。

「あたっく?」

 若干、いやかなりズレているミーシャの答えにリオネルは首を傾げる。

「そうです。一線を飛び越えたのなら、更にもう一線を飛び越えなければなりません!」

「も、ももももう一線っ!?」

「そしてそのために必要なものはもう取り揃っています!」

 とミーシャは部屋の隅にある衣装棚を開き、一着の服を取り出す。

「な、なんだそれは……」

 やたらとフリフリしたものが付いている服をミーシャはリオネルに見えるように広げる。

 六年前までリオネルはこの部屋で寝泊まりをしていたが、その間にそんな服を見た覚えはない。しかもその服は、今のリオネルの背丈に合わせられている。そのことから用意されたのは、ごく最近のことだ。

「いったい誰がそんな服を?」

「王妃様がいつか使う日がくるだろう、とご用意していらっしゃったそうです」

 リオネルの頭の中で、ニコニコと笑うマリアージュの顔が思い浮かぶ。

「母上の仕業か……」

 あの人ならやりかねない。というより喜んでやる。

 変な気を回していろいろとお節介をするのはマリアージュの悪い癖だ。

「それを私にどうしろというのだ……」

「もちろんこれを着て、オリオル様を外へとお誘いするのです!」

「なにっ!?」

 着ろと言われるのは予想ができていた。だが、まさかその姿を人前に晒すとは思ってもいなかった。しかも、今リオネルがもっとも会いたくないオリオルにだ。

「む、無理に決まっているだろっ! 何を考えているんだっ!?」

 普段は動きやすい格好を重視し、学院の制服でしかスカートを着たことがないリオネルに、そんなフリフリな服を着て人前に出られるはずがなかった。

「ダメです。そんな弱気ではオリオル様に振り向いてもらえませんよ」

「なぜっ、私がアイツを振り向かせないといけないのだっ」

「姫様の将来のためです!」

「しょ、しょしょしょしょ将来っ!?」

 何を想像したのかリオネルは顔をさらに真っ赤にする。このままいけば頭に血を回し過ぎて、血管が破裂しそうだ。

「と、とにかく私はそんな服は着ないし、オリオルを誘うつもりもないっ!」

 頑なに拒むリオネルに、ミーシャは溜息を吐く。

 傍から見れば、子供の駄々に困る母親のようだ。

「姫様。姫様は確か今回の件で、オリオル様に救っていただいたご恩がありましたね?」

 急にミーシャはリオネルを諭すかのように喋り出す。

「あ、ああ。確かにそうだが……」

 一抹の不安を覚えながらも、ミーシャの問いに肯定する。

「では、姫様はそのご恩を無下にするのですか?」

「そ、そんなわけないだろ。だが、そんな形で返すつもりはないっ。そもそも事件を未然に防いだアイツからは父上から何かしらの勲章が与えられるはずだっ」

 そんなことを言うリオネルに、ミーシャは「まったくわかっていませんね」と落胆する。

「姫様はご存知ないでしょうが、オリオル様は姫様が寝込んでいる間、毎日のようにお見舞いに来ていらっしゃったのですよ」

「えっ……」

「ご本人は暇を持て余しているなどと申していましたが、姫様が寝込んでしまったことで事件の事後処理、その後の隠し通路での捜索などを一手に引き受けて、多忙だったはずです。それにも関わらず、時間を見つけてお見舞いにいらっしゃってくださっていたのです。確かに今回の事件での功績は教王様が勲章をくださるでしょう。ですが、姫様はそんなオリオル様のお気持ちも勲章と一緒に片付けてしまうおつもりですか?」

「……」

 ミーシャの言っていることは筋が通っているし、オリオルが自分のためにそこまでしてくれていたなんて知らなかった。これは確かに何かしらのお礼をするべきなのだろう。

 だがしかし――

 リオネルはミーシャが持つフリフリの服を盗み見た。

 あれは嫌過ぎる。

 あんな服を着て王宮を歩いたら、その姿を侍女たちの前に晒すことになる。あまつさえ、その姿でオリオルに会いに行き、外に誘い出すなど、死んでもできない。

 想像の中での自分が晒しものになっている間も、ミーシャからの責めるような視線が突き刺さる。

 これは覚悟を決めるしかない。

「ミーシャ、一つ提案なのだが――」


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