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王の紋  作者: Uma
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事後

「夢」

 幼い頃の自分と男の子が出会った時の夢を見た。あの後、王宮で男の子を探したが、結局一度も見つけることはできなかったのだ。

 少し悲壮感に苛まれながらも、現実に戻ろうと辺りを見回す。

 どうやら、リオネルが寝ている部屋は学院に入学する前まで使っていた王宮の自室のようだ。

 寝起きのせいか頭がぼんやりして、自分がどうしてここにいるのか見当がつかない。

「姫様っ! お目覚めになられましたかっ!」

 すると隣には歓喜の声を上げるミーシャが、目に大粒の涙を溜めていた。

「どうしたんだ、ミーシャ?」

「どうしたじゃありませんよっ。姫様は三日三晩眠り続けていたんですよっ」

 ついに我慢の限界に達したのか、嗚咽を漏らし、大粒の涙を流した。

「三日も……」

 それは長いこと眠っていたな、とぼんやり思う。

「そうだっ。オリオル様にこのことを伝えないとっ」

 涙を拭いたミーシャが「オリオル」と呟いた瞬間。

 リオネルの頭の中で隠し通路であったことが走馬灯のように流れた。

「そうだっ――イタッ!」

 そのまま飛んで行ってしまうのではないかという勢いで、飛び起きたリオネル。しかし、その瞬間、体中から痛みが走る。

「姫様大丈夫ですかっ!?」

 ミーシャが慌てて駆け寄り、リオネルの体を支える。

「無理してはいけません。お医者様が言うには、見た目ほど傷は酷くないそうですが、あと三日は痛みが引かないそうですから」

「そんなことより、あの後いったいどうなったのだっ!? オリオルは無事なのかっ!?」

「落ち着いてくださいっ、姫様っ」

 ミーシャが問いに答える前に、部屋のドアがドンと開いた。そしてリオネルに向かって飛びついてくる人影。

 それは踊り子の格好をしたフィルランテだった。

「フィルランテっ!」

 フィルランテは、まるで親を見つけた迷子のように、リオネルに抱きつきその胸に顔を押し付ける。

「そんだけ叫べるなら、もう平気そうだな」

「オリオルもいたのかっ」

 聞き慣れた声に視線が向くと、オリオルが許可もなく入って来た。

 ミーシャはオリオルに近づき、眉間に皺を寄せた。

「オリオル様、勝手に入って来られては困りますっ」

 諌めるようなミーシャの言葉に「すまない」となんとも形だけの謝罪を述べると、近くにあった椅子に座る。

「フィルランテがいきなり俺の手を掴んで走り出したんだ。不可抗力だ」

 俺は被害者だぞ、とでも言いたげな顔をするオリオル。

 そして視線をリオネルへと向ける。

「三日寝ていたっていうのに随分と元気が有り余っているみたいだな」

 病人相手にさっそく嫌味を言い出すオリオル。

 リオネルもムッとなって、言い返そうと口を開こうとするが、それはミーシャの言葉で遮られた。

「そんな心にもないことを言って。あんなにリオネル様のことを心配なさってたではありませんか?」

「え?」

 ミーシャから信じられない言葉を聞く。

「なんのことだ?」

「ここで言ってしまってよろしいのですか?」

「……」

 オリオルはミーシャには勝てないと理解したのか、深い溜息を吐いた。

「別に俺が自発的にしたわけじゃない。教王の命令だったからだ」

 それを聞いてミーシャは「そういうことにしておきましょう」と微笑んだ。

 二人だけの話は終わったようだ。

 オリオルは不服そうにミーシャを見るが、特に何を言うわけでもなく、近くにあった椅子に腰かけた。

「で、気分はどうだ?」

「気分は悪くない。体の痛みさえなければ、いつも通りだ」

「怪我の方も終戦記念の双演舞までには完治するそうだ。よかったな」

「そうなのか、それはよかった」

 心の底から胸を撫で下ろすリオネル。

 双演舞が公の場で踊られるのは、実に十年振り。そのため、双演舞を見るのを楽しみにしている国民は多い。その期待を裏切るのは心苦しかったのだが、その心配は杞憂だったようだ。

「お前の双演舞を目当てに式典に来る奴も多いからな。ソイツらの期待を裏切らないようにしろよ」

 相変わらず上からの物言いに気にするようすもなく、リオネルはオリオルを見つめる。

 双演舞とは別にもう一つ、リオネルには気になることがあった。

 オリオルの起こったあの隠し通路の中での不可解な事実。

 塞がった傷、誰の術かわからない複数の精霊術、そしてオリオルの腕の紋章陣。

 どれもリオネルには理解できないことばかりだ。

 今すぐオリオルを問い詰めたい。

 そんな衝動に駆られる。

 だが、それはオリオルの信念の根源に繋がっているように思える。オリオルにとって信念は、自分の全て。これまで自分のことを話そうとしなかったオリオルが、問い詰めたところで素直に口を開くとは思えない。

「ミーシャとかいったな」

「あ、はい」

 リオネルが考え込んでいると、おもむろにオリオルがミーシャを呼んだ。

「悪いが、フィルランテを連れて少し席を外してくれないか。これからリオネルと大事な話があるんだ」

 少し驚いた。

 オリオルが自分から話がある、など言い出したことがないからだ。

「え、しかし……」

 ミーシャはリオネルに視線を送る。

 リオネルが頷くと、全てを察したかのように「わかりました」と言って、フィルランテの手を引き部屋から出て行った。

 ミーシャとフィルランテが出て行き、部屋にオリオルとリオネルだけになると、オリオルは口を開いた。

「とりあえず隠し通路でのその後のことだが。俺が教王に隠し通路でのことを報告した後、隠し通路で大掛かりな調査が行われて、俺たちが見つけた紋章陣が他にも数カ所で発見された」

「あの弓使いは?」

「見つかっていない。どうやら遭遇したのは俺たちだけのようだ」

 それを聞いてリオネルは胸を撫で下ろす。

 あれほどの相手に出会ってしまったら、並の精霊術師では手も足もでない。即座に殺されてしまうだろう。

「だが結局、アイツの目的はなんだったのだ?」

「恐らく紋章陣の監視と保護だろう。紋章陣への攻撃も防いでいたからな」

 その言葉で隠し通路で抱え込んでいた疑問を思い出す。

「オリオル、お前はあの紋章陣がなんだかわかっていたみたいだが、いったい何だったのだ?」

 その問いに一瞬の間を空けるが、オリオルは素直に答えた。

「あの紋章陣には微精霊たちが捕えられていた」

「なにっ!?」

 これまで精霊を使った犯罪はいくつもあったが、その中で微精霊の捕獲はなかった。そもそもそれが可能なのか、リオネルには知らない。

「そんなことができるのか?」

「さぁな、だが実際あるのだから、可能なんだろう」

 と他人事のように言うオリオルだが、リオネルの中には一つ疑問が残る。

 あの隠し通路でオリオルはあの紋章陣の力がまるで理解しているかのようだった。

 あれはいったいなんだったのか、そんな疑問がまたリオネルの中で積もる。

「……」

「な、なんだ?」

 リオネルをジッと見つめるオリオル。

 そんな視線に居た堪れなくなって、思わず顔を赤くする。

「お前は何も聞かないんだな」

「えっ?」

「お前はあの隠し通路で見たはずだ。ありえない現象を。それを俺から問い詰めようとは思わないのか?」

 オリオルからその話題について触れてくるとは思いもよらなかった。

 リオネルは面を喰らったが、オリオルも人を気にかけることがあるのだな、と微笑ましく思えた。

「何を笑っているんだ」

 咎めるようなオリオルの声。

 その声で感情が表に出てしまったことに気付く。

「なんでもない。少し珍しいな、と思っただけだ」

「珍しい? 何がだ」

「オリオルが自分から自分の話題に触れることが、だ。お前は秘密主義者だろ」

「別に秘密主義なわけじゃない。ただ言う必要がないだけだ」

「そうか、なら今は言う必要がある、ということだな」

 オリオルは黙ってから、「そうだ」と呟いた。

「お前には聞く権利がある」

 と言うがすぐに「いや」と否定し、

「俺は話さなければならない義務がある」

 と言い直した。


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