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王の紋  作者: Uma
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精霊の術化

 ダン、という鈍く嫌な音が聞こえ、リオネルを振り返った。目に飛び込んできたのは、力なく壁にもたれかかるオリオル。

「オリオルっ!」

 咄嗟に駆け寄ろうとするも、から弓使いが現れる。それでも駆け寄ろうとするフィルランテの手を掴み、弓使いを睨みつける。

「次はお前」

 感情のこもっていない無機質な声。人を傷つけることになんの迷いもない声だ。

 壁にもたれるオリオルの腹部には矢が刺さっており、出血もしている。あまり時間はない。

 激昂する感情を呑み込み、敵を見据える静けさへと変える。

 腰に差している短剣を抜き、弓使いへと走り出した。

 遠距離攻撃を得意とする敵には近距離攻撃で対応する。鉄則ではあるが、鉄則あるが故に見抜かれやすい。

 とうぜんのごとく弓使いも近距離攻撃へと対応策を持っている。オリオルの初撃の時に見せた弓弦に纏う風。弓の無効化を防ぐ手段であるが、それは同時に高速で風を回転させることによって相手を切り裂く武器になる。

 リオネルが手に持つ短剣程度では、弓弦に触れただけで刃を折られてしまう。

 だが、それを理解できないリオネルではない。

「ハッ!」

 振られた短剣は、弓使いの肩へと向けられるが、弓弦によって阻まれる。

 そして短剣の刃は折られる――かと思いきや、刃は風を切り裂いた。

「――っ!」

 声にはならない驚きを示す弓使い。刃は弓弦を切り裂き、弓使いの肩に向かう。だが、咄嗟に短剣を避けて後ろへと飛ぶ。

「まだだっ!」

 しかし後退を許さず、リオネルも前へと踏み込む。

 短剣の刃をまるで槍の穂先のようにして突く、突く、突く。

 嵐のような追撃、だが弓使いはその全てをいなし、流し、避ける。リオネルの攻撃全てを見切っている。

 それでも攻撃の手を緩めることはなく、どんどん前へと弓使いを押し進んで行く。

 やがて壁にもたれているオリオルを通り過ぎた。

 それを確認したリオネルの行動は早い。とたんに追撃を中止し、後ろへと飛ぶ。

「フィルランテ!」

 リオネルの合図と共に、フィルランテがリオネルの一歩前へと出る。両手を突き出し、水を圧縮していく。

「水破舞功!」

 そして圧縮された水は一気に解き放たれ、隠し通路の道を覆いつくし物凄い勢いで弓使いを呑み込んでいった。

 土石流が流れた後のような隠し通路。その先にいたはずの弓使いはおらず、リオネルの術で流されていったのだろう。

 それを確認すると、リオネルは長く息を我慢していたのか、大きく息を吐いた。

 もし、弓使いが少しでもフィルランテに気を配っていたら。恐らく術の準備をしていることを見抜かれただろう。そう思うと背筋が凍る。

 だが、今はそんなことをよりオリオルだ。

 遠目から見ても出血が酷かった、と振り返った瞬間、脇腹に強烈な痛みが走る。

「ぐぅっ」

 脇腹に手を当てると、血がべっとりと付いている。

「まさかっ」

 そんな絶望感で弓使いが流された先を凝視する。

 そこに弓使いの姿はないが、遠くから水の音が聞こえてくる。間違いなく弓使いは健在だ。

 すると、ヒュウとまるで風が通り抜けたような音と共に、リオネルの左の壁が少し抉れた。

「命中力に欠ける」

 やがて姿を見せる弓使い。しかし、その手に持っている弓は、斬られた弓弦が復元し、さらに形までもが大きく変わっていた。そして弓使いの契約精霊である銀狼の姿がない。

「短剣の刃に高速で回転する水で摩擦力上げて風を切り裂く。一朝一夕で会得できる術じゃない。王女を見くびった」

 独り言のようにぶつぶつと呟きだす弓使い。

「手を抜いていると痛い目を見る」

 瞬間、突風がリオネルに向かって吹きつける。

「本気でいかせてもらおう」

 弓使いが構える。

 変化した弓、どこかに消えた銀狼、本気という弓使いの言葉。

 間違いない。これは弓使いの精霊の術化だ。

 そう察したリオネルは、弓使いよりも先に攻撃をしかける。

 宙に浮かぶ無数の水。それは針のように長細くなり、弓使い目がけて飛んでいく。

「水天舞!」

 水の元素弾のような打撃に近い攻撃ではなく、限りなく接点を少なくすることで相手を刺すことに特化した術。

 威力こそないが、数が多い。

 一発でも当たって、攻撃をさせない。それがリオネルの狙いだ。

 精霊が術化した状態での攻撃は、どの精霊術よりもはるかに勝る。

 つまり、術化を習得していないリオネルは、弓使いに術化状態で攻撃させてはいけない。

 だが、所詮は悪足掻き。

 弓使いに向かう水針は、すべて弓使いを反れて、水の底の地面に突き刺さる。弓使いの周りには激しい風の流れが生まれ障壁を作っている。それが水針を流したのだ。

「――っ!」

「術化状態だと自動的に障壁が張れる」

 と呟き、弓使いは矢もかけずに弓弦を引いた。

「風連牙」

 そして弓弦は放たれ、無数の風の刃を生んだ。無差別に隠し通路内を切り裂いていく風の刃。壁を、床を、そしてリオネルとて例外ではない。

 リオネルは咄嗟にフィルランテを庇い、無数の風の刃を背中に受ける。

「きゃあぁっ!!」

 瞬時に張った水の障壁は意味をなさず、無数の風の刃はリオネルを切り裂く。

 全身を切り裂かれ血塗れとなったリオネルは力なく、その場に倒れ込んだ。

 風の刃は壁にかかっていたランプまで破壊したようで、隠し通路の中は真っ暗で何も見えない。

 フィルランテが肩を必死に揺すっているのだけが伝わってくる。

(これは、まずい……)

 何も見えないうえに、どうやら足をやられたようで、さきほどから痛みが酷い。

 これではろくにこの場から逃げることすらできない。

(ここまでなのか……)

 リオネルは悔しさで奥歯を噛み締めた。


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