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王の紋  作者: Uma
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隠し通路

 悩んでいる間にオリオルは、菓子を買い露店へと行ってしまった。

 フィルランテはオリオルの帰りをまだかまだかと待ち遠しそうに露店を見つめている。

 こんなにも楽しそうなフィルランテは初めてだ。契約を通して流れ込んでくるフィルランテの感情もいつも以上に嬉しさを感じさせる。

 その理由はだいたい予想がつく。王命とはいえ、オリオルと街に出かけるのはこれが初めてだ。オリオルのことを気に入っているフィルランテにとってこれほど嬉しいことはないのだろう。

 初めて会った時から、フィルランテはオリオルのことを気に入っていた。

 初見で喧嘩になり、リオネルとオリオルが睨み合っている時も、フィルランテは笑っていた。いくら精霊が本能で人を見分けるといっても、契約者が敵意を向けている相手に好意を持つなんてことがありえるのだろうか。

 契約者は、契約精霊が生きるのに必要なマナを供給してくれる宿主だ。契約精霊にとって契約者は運命共同体。つまり、契約者に害するものは、契約精霊にとっても敵。それは精霊術が生まれた神話時代から変わらない。

 ならどうしてフィルランテは、オリオルのことを初めから気に入っていたのだろうか。

 いや、そもそもあの日、オリオルとフィルランテが決闘したあの日が、フィルランテとオリオルの初めての出会いだったのか。

 もしかして、オリオルは昔、フィルランテに会っていたんじゃないか。

 やっぱりオリオルは、あの男の子じゃないのか。

 そんな思考がぐるぐると回る。

「唸ってないで、お前も食べろ」

 いつの間にか戻ってきていたオリオルが差し出してくる。

「な、なんだっ、この雲のようなものは?」

「綿菓子。わかりやすく言えば、砂糖で作った雲だ」

 綿菓子を受け取ったリオネルは、まず匂いを嗅ぐ。そして恐る恐る舌に綿菓子をつける。

「甘い……」

「それはそうだ。砂糖で出来てるんだから」

 何を馬鹿なこと言ってんだ、と呆れたような顔をするオリオル。それが癪に障った。

「そんことより、ちゃんと訊いてきたのか!?」

 八つ当たりのように怒鳴り散らす。

 だが、怒りを込めた言葉をオリオルは気にすることもなく頷く。

「ああ、少し気になることを聞けた」

 と微笑むオリオル。

 そしていつの間に用意していたのか、ポケットから地図を取り出す。

「最近、この近辺で頻繁に怪しい奴らがうろついているらしい」

 と地図の一カ所を指示す。そこは特になんの変哲もない住宅街の一角だ。

「怪しい奴ら?」

「ああ、なんでも全員仮面を付けているらしい」

 それは怪しい。何かの宗教団体だろうか。

「ここには何か特別な施設はあるか?」

「いや、そこは住宅街だ。これといって特別なものはない」

「なら、地下の施設はあるのか?」

「地下にか? そうだな……確か戦争の時に作られた王族専用の隠し通路があるな。だが、もう使われていないはずだ。それにこれを知っているのはごく限られた人間だ。これが事件に関係しているとは思えないが」

 地図をしまうと、オリオルは何やら腕を組んで考え出す。そして結論が出たのか、リオネルを見てきた。

「その隠し通路の入口はどこにある?」

「王宮の地下だ。でも封鎖されているぞ」

「出口は?」

「東の郊外。見つからないように森の中にある」

「よし、案内しろ」

「案内って、森にある出口にか?」

「そうだ」

 と場所もわからないくせに、先頭をきって歩き出すオリオル。

「ちょっと待て、オリオル」

 そしてその後追うリオネルとフィルランテ。

 正直案内などできる自信がなかった。昔、クリストフにそんなものがあると聞かされただけで実際見たことはおろか、行ったことさえないのだ。

 だが、前を歩くオリオルになぜかそうとは言えず、流されるがまま東の郊外にある森の中腹まで来たのだが、

「で、結局迷ったのか?」

「いや、違うぞ、迷ったのではない。どっちの道で行こうか悩んでいるだけだ」

 と極力オリオルと目が合わないように、辺りを見回す。

「ほぅ。お前は俺たちが立っているこの草が生い茂って舗装されていない場所を道というのか。なら大変だな。八方位で考えると、お前には八つも選択肢があるわけだ。この中から正解を導くのは至難の業だな」

 厭味ここに極まれりだった。そしてこれほど饒舌のオリオルも珍しい。それだけ怒っているということだ。

「す、すまない……」

 もう誤魔化すのは無理だと悟ったリオネルは素直に頭を下げる。

 すると、オリオルは大きな溜息を一つ。

「道を知らないなら知らないとなんで言わない」

「……それは」

 あまり人に頼ることをしないオリオルが、初めてリオネルに頼ったのだ。ここで役に立ってオリオルを見返したかったのだ。

 なんて恥しくて言えるわけがない。

「わかると思ったのだ……」

「ったくいったん引き返すぞ。草を掻き分けたおかげで来た道はわかる」

 オリオルが指差す先にはリオネルとオリオルが掻き分けたため、草が左右に別れて獣道ができていた。

 無駄な時間をオリオルにとらせてしまった罪悪感が、リオネルの胸に靄をかける。

 トボトボと重い足取りで先を歩くオリオルの後に続く。

 だがフィルランテは、その場から動こうとせず、ただ来た道とは逆方向をジッと見つめていた。

「おい、何してるんだ、フィルランテ」

 オリオルが声をかけると、フィルランテはそこに何かあることを知らせるかのように指差している。

「そこに何かあるのか?」

 オリオルはフィルランテが見つけたものが気になるらしく、フィルランテの傍まで行って指差す方向に目を凝らす。

「あれは岩? ここからじゃよくわからないな」

 草を掻き分けて指差す方向へと進むオリオル。リオネルとフィルランテもその後に続く。

「これは井戸だな」

 フィルランテが見つけたものは石で出来た井戸。何年も使われていないらしく、井戸には蔦が絡みついている。試しに中を覗きこむと、なにあらユラユラと地面が揺れている。

 オリオルが小石を拾い上げ、投げ込むと、チャポンという音を立てる。水は干からびていないようだ。

「なるほどな」

 だが、オリオルは何かわかったらしく、おもむろに井戸に両手をついて飛び越えようとする。

「こ、こら待てっ! 何をする気だっ!」

 慌ててオリオルの体に抱きつき、制止するリオネル。

「何ってこの中に入るんだ」

「そんなことしたら危ないだろっ!」

「大丈夫だ。石を投げた感じだとそれほど深くはない。それにここはおそらく隠し通路だ」

「それは本当か?」

「よく考えてみろ。まず森の中に井戸があるなんてありえないだろ」

「な、なるほど」

 確かに森の中に井戸なんてあっても使う人間などいない。つまりこの井戸は井戸として利用するために作られたものじゃない。

 そして考える限りこの井戸は、隠し通路の出口と悟られないようにするためにカモフラージュされたのだろう。

「わかったみたいだな」

「ああ、まさか井戸にカモフラージュしてあるとは思わなかった」

「わかったならそろそろ離れてくれないか?」

「うん?」

 オリオルの腰に手を巻き付けて、体を密着させているリオネル。

 自分がオリオルに抱きついていることを認識すると、だんだんと顔が火照っていく。

「きゃあっ!」

 顔が真っ赤になると、恥しさのあまりオリオルを突き飛ばした。

「なぁ!」

 とうぜんオリオルは前へとバランスを崩し、

「うぁああああああ!!」

 そのまま井戸へと落ちて行った。


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